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XVIII
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「奥様、クロード様がお呼びです」
日に何度呼び出されただろう…。
サマンサは何日も続いてクロードに呼び出されていた。
「お茶を淹れて欲しい」
「一緒に休憩しよう」
「今日は夕食を共にしないか?」
そう言ったクロードに「お互いに干渉しないのでは?」と尋ねると、決まって言うのだ。
「これは妻としての仕事だろう」
一緒に食事はしないと書かれていたのに、妻としての仕事が最優先だと言われてしまえば何も言い返せない。
(自由って何だったのかしらね…)
いつの間にかクロードと毎日夕食を食べることになったサマンサは、小さくため息を吐いた。
契約期間も残り3ヶ月となったある日、サマンサ宛てに一通の手紙が届いた。
- すぐに帰って来るように -
サマンサの生家、ローレン伯爵家からの火急の手紙だった。
音信不通だった実家からの手紙に、急いで帰ろうとするサマンサを止めたのはクロードだった。
「ここから出ていくのか?」
大きな荷物を持っているわけでもないのに、怖い顔で睨んでくるクロード。
「いえ、用件を聞いたらすぐに戻ります」
「それなら侍女達を連れて行くと良い」
実家に一度戻るだけなのに、3人の侍女を連れて行く事になる。
「奥様は愛されているんですね」
(きっとお飾りの妻に粗相をして欲しくないのよ…)
馬車の中で侍女が言うが、サマンサの返事は無かった。
家に戻ったサマンサを出迎えたのは、姉アマンダだった。
侍女達を見たアマンダは優しい声で歓迎する。
「おかえりなさい、サマンサ。会えなくて寂しかったわ」
ギュッと抱き締めて、誰にも聞こえないように耳元で囁いた。
「使用人を3人も連れて歩くなんて、良いご身分じゃない」
サマンサをぱっと離し
「姉妹だけで話があるのよ。あなた達は遠慮してくれるわよね?」
そう言ってサマンサを自分の部屋まで連れて行く。
二人になった瞬間に被っていた猫が剥がれ落ちる。
「お飾りの分際で良くやるわね。今日はあなたにお願いがあって呼んだのよ」
「何でしょうか…?」
従順なサマンサは逆らえない。その事を知っているアマンダは不敵な笑みを見せた。
「私が変わってあげる。クロード様みたいな素敵なお方があなたを見初めるはずないもの。私ならあの方に寄り添って差し上げられるわ」
社交界で囁かれる仲の良い夫婦の噂など嘘だ。サマンサなんかを好きになるわけない。
相応しいのは自分だと信じて疑わないアマンダ。
「でも…、お姉様は既にご結婚されているわ…」
「そんなの公爵家のお力があればどうとでもなるわ。伯爵家はあなたにあげるわよ」
自分の我が儘で結婚を延期し、長い婚約期間の末に結婚したというのに…
サマンサはアマンダの考えが理解できなかった。
「とにかく、公爵家に戻ったらクロード様にお願いしなさい。愚図な自分よりも姉の方が良いってちゃんと言うのよ?それと、私がクロード様にお会いできるように日を設けなさい」
何も言えないサマンサを見て、着ているドレスを触る。
「公爵家ともなるといい服を着れるのね。あなたよりも私の方が似合うわ。そうでしょう?」
「そうですね…」
「いい事?あなたはお人形のように頷けば良いの。必ずクロード様に伝えなさい。理解したなら帰って良いわよ」
帰りの馬車の中、サマンサはどうしたものかと考えを巡らせていた。
(お姉様はああ仰っていたけれど、残り3ヶ月も無いのよね…。離縁後に後妻として雇って貰えるように言えば良いのかしら?それにしても、何故大丈夫だと言えるのでしょうね…)
二人が会えるようにして欲しいと言われても、公爵家の妻としてクロードには進言できない。
それに…
今のアマンダではクロードに会わない方がいいだろう。
折を見て話をしようと決めたサマンサだった。
「サム!ようやく戻ったか!」
屋敷に戻ると、玄関の外にクロードが仁王立ちで待っていた。
「只今戻りました」
サマンサがすごすごと部屋に戻ろうとすると
「実家はどうだった?話を聞かせてくれ」
クロードに手を引かれてしまう。
そんな二人を使用人達は微笑ましく見ていた。
サマンサが出掛けてからクロードは執務に集中できず、今か今かとサマンサの帰りを待っていた。
馬車が見えたと聞き、ずっと屋敷の外で待っていたのだ。
「火急の用件とは何だったんだ?」
クロードに聞かれ、サマンサはなんと答えて良いのやら…
「姉からでしたわ。二人で話したいことがあると言って呼び出されたのです」
「そうか。二人は仲が良いんだな」
サマンサは何も言えずに苦笑する。
「それよりも明日は一緒に出掛けないか?サムはずっと屋敷に居るだろう?」
契約違反だと言いたいが、使用人達の目があるので断れない。
「かしこまりました…」
(奥様のお仕事って大変なのね…)
女中の仕事に戻りたい。
切に願うサマンサだった。
翌日、女性を喜ばせることを知らないクロードは、以前オリビアがしたように
サマンサをブティックに連れて行って着替えさせ
化粧品店に連れて行って化粧や髪を結い上げたサマンサに豪奢な髪飾りを贈り、公園に連れて行った。
まるで何処かの舞踏会に行くような格好のサマンサは、公園では浮いた存在。
すれ違う人達に二度見三度見され、俯いて歩いていた。
「サムはよく俯いているな」
そんなサマンサを見てクロードが呟く。
(誰の所為だと思っているのかしら…)
何も言わないサマンサにクロードが更に言う。
「もっと自信を持った方が良い。君は私の妻だろう?公爵家縁の者として、堂々としてくれ。まぁ、そんなところも好ましいが…」
「善処致します…」
(従順に従いながら、胸を張れという事?難しい事を求めるのね…)
綺羅びやかなドレスで公園を一周し、サマンサはようやく屋敷に戻ることが出来た。
この日の出来事は瞬く間に噂になり、クロードの溺愛として話は誇張され、どんどん広がっていく。
日に何度呼び出されただろう…。
サマンサは何日も続いてクロードに呼び出されていた。
「お茶を淹れて欲しい」
「一緒に休憩しよう」
「今日は夕食を共にしないか?」
そう言ったクロードに「お互いに干渉しないのでは?」と尋ねると、決まって言うのだ。
「これは妻としての仕事だろう」
一緒に食事はしないと書かれていたのに、妻としての仕事が最優先だと言われてしまえば何も言い返せない。
(自由って何だったのかしらね…)
いつの間にかクロードと毎日夕食を食べることになったサマンサは、小さくため息を吐いた。
契約期間も残り3ヶ月となったある日、サマンサ宛てに一通の手紙が届いた。
- すぐに帰って来るように -
サマンサの生家、ローレン伯爵家からの火急の手紙だった。
音信不通だった実家からの手紙に、急いで帰ろうとするサマンサを止めたのはクロードだった。
「ここから出ていくのか?」
大きな荷物を持っているわけでもないのに、怖い顔で睨んでくるクロード。
「いえ、用件を聞いたらすぐに戻ります」
「それなら侍女達を連れて行くと良い」
実家に一度戻るだけなのに、3人の侍女を連れて行く事になる。
「奥様は愛されているんですね」
(きっとお飾りの妻に粗相をして欲しくないのよ…)
馬車の中で侍女が言うが、サマンサの返事は無かった。
家に戻ったサマンサを出迎えたのは、姉アマンダだった。
侍女達を見たアマンダは優しい声で歓迎する。
「おかえりなさい、サマンサ。会えなくて寂しかったわ」
ギュッと抱き締めて、誰にも聞こえないように耳元で囁いた。
「使用人を3人も連れて歩くなんて、良いご身分じゃない」
サマンサをぱっと離し
「姉妹だけで話があるのよ。あなた達は遠慮してくれるわよね?」
そう言ってサマンサを自分の部屋まで連れて行く。
二人になった瞬間に被っていた猫が剥がれ落ちる。
「お飾りの分際で良くやるわね。今日はあなたにお願いがあって呼んだのよ」
「何でしょうか…?」
従順なサマンサは逆らえない。その事を知っているアマンダは不敵な笑みを見せた。
「私が変わってあげる。クロード様みたいな素敵なお方があなたを見初めるはずないもの。私ならあの方に寄り添って差し上げられるわ」
社交界で囁かれる仲の良い夫婦の噂など嘘だ。サマンサなんかを好きになるわけない。
相応しいのは自分だと信じて疑わないアマンダ。
「でも…、お姉様は既にご結婚されているわ…」
「そんなの公爵家のお力があればどうとでもなるわ。伯爵家はあなたにあげるわよ」
自分の我が儘で結婚を延期し、長い婚約期間の末に結婚したというのに…
サマンサはアマンダの考えが理解できなかった。
「とにかく、公爵家に戻ったらクロード様にお願いしなさい。愚図な自分よりも姉の方が良いってちゃんと言うのよ?それと、私がクロード様にお会いできるように日を設けなさい」
何も言えないサマンサを見て、着ているドレスを触る。
「公爵家ともなるといい服を着れるのね。あなたよりも私の方が似合うわ。そうでしょう?」
「そうですね…」
「いい事?あなたはお人形のように頷けば良いの。必ずクロード様に伝えなさい。理解したなら帰って良いわよ」
帰りの馬車の中、サマンサはどうしたものかと考えを巡らせていた。
(お姉様はああ仰っていたけれど、残り3ヶ月も無いのよね…。離縁後に後妻として雇って貰えるように言えば良いのかしら?それにしても、何故大丈夫だと言えるのでしょうね…)
二人が会えるようにして欲しいと言われても、公爵家の妻としてクロードには進言できない。
それに…
今のアマンダではクロードに会わない方がいいだろう。
折を見て話をしようと決めたサマンサだった。
「サム!ようやく戻ったか!」
屋敷に戻ると、玄関の外にクロードが仁王立ちで待っていた。
「只今戻りました」
サマンサがすごすごと部屋に戻ろうとすると
「実家はどうだった?話を聞かせてくれ」
クロードに手を引かれてしまう。
そんな二人を使用人達は微笑ましく見ていた。
サマンサが出掛けてからクロードは執務に集中できず、今か今かとサマンサの帰りを待っていた。
馬車が見えたと聞き、ずっと屋敷の外で待っていたのだ。
「火急の用件とは何だったんだ?」
クロードに聞かれ、サマンサはなんと答えて良いのやら…
「姉からでしたわ。二人で話したいことがあると言って呼び出されたのです」
「そうか。二人は仲が良いんだな」
サマンサは何も言えずに苦笑する。
「それよりも明日は一緒に出掛けないか?サムはずっと屋敷に居るだろう?」
契約違反だと言いたいが、使用人達の目があるので断れない。
「かしこまりました…」
(奥様のお仕事って大変なのね…)
女中の仕事に戻りたい。
切に願うサマンサだった。
翌日、女性を喜ばせることを知らないクロードは、以前オリビアがしたように
サマンサをブティックに連れて行って着替えさせ
化粧品店に連れて行って化粧や髪を結い上げたサマンサに豪奢な髪飾りを贈り、公園に連れて行った。
まるで何処かの舞踏会に行くような格好のサマンサは、公園では浮いた存在。
すれ違う人達に二度見三度見され、俯いて歩いていた。
「サムはよく俯いているな」
そんなサマンサを見てクロードが呟く。
(誰の所為だと思っているのかしら…)
何も言わないサマンサにクロードが更に言う。
「もっと自信を持った方が良い。君は私の妻だろう?公爵家縁の者として、堂々としてくれ。まぁ、そんなところも好ましいが…」
「善処致します…」
(従順に従いながら、胸を張れという事?難しい事を求めるのね…)
綺羅びやかなドレスで公園を一周し、サマンサはようやく屋敷に戻ることが出来た。
この日の出来事は瞬く間に噂になり、クロードの溺愛として話は誇張され、どんどん広がっていく。
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