なごり雪と不思議な広場

たかまつ よう

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シロミとキミ

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「よかった、寝たわ。」
 おなかに、まるでめんどりのように黒いツバメを抱え込んでいた、白猫のシロミはほっとしたようにつぶやきました。
 そしてそぉっと、育ちかけの若いクスノキの枝にとまらせました。元気な小鳥は、枝につかまって寝ます。小鳥が下に落ちるのは元気がないとき。チッチは、寝ぼけながらもクスノキの枝をがしっとつかみました。

「シロミ先生、コオロギ足りました?」
 ウスタビガの空の繭にもぞもぞ動く虫を詰めて、くわえて持ってきたのは茶トラ猫のキミちゃんです。
 ふたりはさとやまむらの動物たちのおいしゃさんとかんごしさんでした。

「雨屋のなかの、ぬかのふくろをあさって、ミルワーム集めてたら、『これキミコ、そこはトイレじゃないぞー』っておとさんに言われちゃった。」
 シロミとキミは、大工の源ちゃんの家の飼い猫でした。農村の飼い猫の豊かさと自由さを生かして、具合の悪い野山のいきものたちをこっそり助けているのでした。

「クスノキの枝に、その繭、かけといてあげよ。この子が起きたら食べられるように。」
「はーい」
 キミちゃんはミルワーム入りのウスタビガのまゆをチッチの目の前にひっかけました。

「じゃ、わたしたちを見て怖がったらかわいそうだから、帰ろ。」
シロミはくるっと背中を向けて、帰り始めました。
「シロミ先生、今日はこの広場があって助かりましたね。」
 そのあとをトコトコついていきながら、キミちゃんが言いました。

「そうね。うまく利用できたわ。これからも、なごり雪が降ったら、こごえた渡り鳥はここであたためましょう。こういう不思議な場所ができると、いなくなるものがいたり、新しく出てくるものがいたり、変化が大きいね。それがいいことなのか、わるいことなのかもわからないけど。わたしたちはそこで生き延びなきゃ。」

 シロミはきゅっと、口をすぼめましたが、キミちゃんに向かって、笑いかけました。
 「雪はやんだし、明日は晴れ。また、いっきに春が来るわよ!」
「あー、よかった。あしたはいっぱい、日向ぼっこしようー。」
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