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得物選定からの試合開始
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「お、重い……です」
今日は防具と武器を選びに来ました。試合では通常、自分の得物に魔法関係の偉い人が特殊な魔法をかけて致命傷にならないようにするのだとか。武具防具の総費用も規定があるため、試合用の道具は普通ひと月前に揃える。
あまり早くから馴染む様にと使い込むと最悪試合中に破壊されてしまい棄権となってしまう。
私はアッサム師匠より、基本は充分という判断をもらったので初めて自分用のを揃える事になった訳です。
「安価な武具は重さと防御力がある程度相関してる。できれば竜の服とか軽い奴与えてやりてぇんだけど、試合時の防具武具の費用にゃ規定があんだよな。それと、戦闘スタイルも決めていかねぇとだし」
歩く度にそれだけで疲労が蓄積されそうな鎧からなんとか脱出する。防護力高くても、こんなの着てたら360°どこからでも切ってくださいってなもんだ。
「ねーねー、しあいの時、僕もついて行っていいー?」
「流石にぬいぐるみ同伴は不味いんじゃない?」
小脇に子狐を抱える剣士。それだけで弱そう。
「ああ、そろそろ影に入れても大丈夫だと思いますよ。カリンの魔力も安定していますし、上手くいけば剣に炎などの付加もできるかもしれませんね」
「アンズがいりゃあ、万一の時も安心、か。本体晒しゃ失格にはなるかもしれないが」
「……今回に限り、大丈夫だとは思いますが、ね」
リオネット様の言葉にアッサム様が怪訝な顔になる。
アンズが側にいるのは心強いが、それでもできたら平時は子狐スタイルが良い。私の好みの問題で。
その子狐がぽてっと倒れた。抜けた黒い影は私の影に……って。
「はみ出てる」
「はみ出てるな」
「完全にはみ出てますね」
私の体型から考えて明らかに不自然な影がモゴモゴしている。
「魔力の能力に差がありすぎて影が浅くて入りきらないんでしょう」
「つーことは、ぬいぐるみのまま出場だな」
「いや、それは流石に無理ですってば」
リオネット様がスッと私に何かを着せてくれた。少し膨らんだマントの様なローブの様な。リオネット様のとはだいぶ形が違うから、黒魔道士用?
「おい、それ、盗賊か暗殺者用じゃねーの?」
盗賊?暗殺者?その二つって一目で分かる様な装具って意味あるんだろうか。職業的に。
道歩いていて、明らかに盗賊とか捕まりそうなんですけど。
「暗器を隠すスペースがあるので影の容積が大きいんですよ」
確かに、さっきと比べて影に不自然さは無い。服の膨らみ自体で影も少し大きくなっているし。
「防御力は非常に低いですが、急所が分かりにくくなる利点もある。スピードを殺さず、値段も安価でその分武器に回せます」
呼応する様にアッサム様が「これは?」と言っていって短剣を二本選んだ。ダガーとマインゴーシュ?普通は長物と盾であろうに、短剣に短剣型の防具……、これはもしかして。
アッサム様を見る。肯く。
リオネット様を見る。肯く。
「ヒ、ヒットアンドアウェイ?」
「流石カリン。ご明察」
ここで重要なお知らせです。戦闘スタイルが決まりました。当てる、逃げるの繰り返し。あれです。蝶の様に舞い、蜂の様に刺し、ゴキ◯リの様に逃げるという。
って、短剣しか使わないなら、今までの素振り意味ねぇぇぇえー!
「カリン、心の声漏れてるー」
「意味なくは無いぞ。相手は結局その型で動いてくるからな。間合いが分かるだろ」
釈然としない私を他所に、着々と武器や武具は選ばれていった。
勇者は基本的に剣を使う事になっている。だから、いわゆる剣士か騎士を目指さなくてはならない。魔王を倒すために旅をする時の物理攻撃役となる。弓矢の様に消耗品は不可。格闘家の様に直接攻撃も不可。
途中で弾切れになったり、表面が酸でできたクリーチャーも確認されているからだ。だから、逆に短剣メインでも勇者と言い張れなくもないけれど。
魔王と対峙した時に、短剣の勇者?おかしかないか?勇者決める試合に、それで良いの?
短剣ってイメージ的に盗賊、忍者、踊り子って感じ。
釈然としないまま、アッサム様相手に実戦練習、アンズ相手に瞬発力アップ、そこにリオネット様直伝の戦術の座学。
ひと月は矢のように過ぎて、試合の日はあっという間にやってきた。
試合の前に自分に対しての白魔法不可、相手に対しての直接的黒魔法不可の魔法が私にかけられた。更に今回は攻撃能力無効化と幻影ダメージも付いている。これはつまりどんなに切っても突いても、試合が終われば元どおり。ただし最中は実際と同じ痛みを感じるというものだ。
リオネット様、凡ミス隠蔽のためにまた権限を乱用した様です。ありがたいけど、ブラコン疑惑がかかりそう。
ちなみに魔法を施してくれたお偉いさん自体もリオネット様だった。
「こんな事になるとは思わなかったので、私がこの地位についた時から不正ができない様な強い術にしてあるんですよね」
術は魔法陣や札など事前に施す物だ。ふぅ、とため息をついた彼は絶対不正を試みたと思う。証拠はないが、リオネット様はそういう人だ。このひと月で骨身に染みてるからね、もう。
アッサム様からは「怪我なく、危険な目に遭わなけりゃなんでも良い」。リオネット様からは「なるべく上位を期待します。今後のためにも」と、好き勝手な激励をされて一人受付を済ませた。言う事が微妙に一致してないんだよね、あの二人。
控室に入ると、他の参加者は遠巻きにジロジロと見るが声もかけてはこなかった。盗賊系の服なんて明らかに場違いだし、得物は服の中にしまってるし、私が勇者見習いの有名人で無くとも異様だろうな。
別にここで友達を作ろうという訳では無いけどね。顔見知りの人達はそれなりに声をかけ合っていて、賑やかだった。こういうシチュエーションは慣れてなくて居た堪れない。アッサム様はシード権があるから初めからは出てこないし……。
ライバル達の武器や武具を眺めていると、少し華奢な若者が入ってきた。部屋の隅に陣取っていた坊主頭と一番大きな声で威嚇してた奴がその人の両手を掴んでどこかに連れて行く。
っ……。
『カリンは大丈夫。万一があれば僕は遠慮しなくて良いってリオネットが言ってた』
アンズに言われて、そうだったと思い出した。勇者見習いでバックにアッサム様やリオネット様がいるから、誰も触れずにいるんだ。仲良くされると逆にまずいんでした。
事前に言われた通り、控室に初めから用意してある物には何も口を付けずに壁に背を当てて立って待つ。いかにも出来そうな人達もそうやってて、取材の人が目を輝かせて何か書きつけている。お願い、こっち見ないで、聞かないで。私は言われたとおりにしてるだけですからー。
試合は全部で七試合。敗者復活は無く、リーグ戦。相手の武器が壊れる、立てなくする、負けを認める、その他戦闘不能と判断されれば勝敗が決まる。
二試合が午前中、三試合が午後、そして夜に二試合、と一日仕事。それでも勇者見習い枠だから少なく設定されてるのだとか。
リオネット様やアッサム様から聞いている対戦相手の情報を反芻しながら、私は闘技場に出た。
広い闘技場では同時に何組も試合っている。各ブースには外からの干渉を防ぐ結界が張ってあった。
『はじめの相手はどの作戦ー?』
初戦の相手の事前情報と所持している武器のランクを確認……。武器は大きいが、武具の方にお金をかけている感じ。元々武闘家だったタイプが、剣士に合わせてきたスタイルね。
前回前々回と拳で相手叩き潰して失格になった、と。頭に血が上るまでになんとかしなきゃ。
「作戦Bで」
『りょ。大人しくしてるー』
対峙した時点で相手は笑っている。こちらの戦闘スタイルを知らずにその表情なんて、頭は軽量型って言ってる様なもんだ。
開始と共に私は飛び出した。ゆっくりと。
誘われた相手は剣を振り下ろす。モーションに入った所で少しスピードを上げて飛び込み、マインゴーシュで剣を滑る様に受け流す。慌てた相手は……小心者。その盾で叩き潰しにくれば良いのに守りに入った。私は右手のダガーで相手の右手首を斬りつける。
「がぁっ!」
落とした剣を拾って、はい、終わり。ってめっちゃ重い。アンズに重量弄ってもらいながら、外に投げ、戦闘不能をアピールした。
相手は……茫然としている。その間に判定が下りて、結界が解かれた。セーフ。ここで判定前に暴れられたら困ってしまう。
消耗ほぼ無しで、とりあえず第一試合は終わった。
今日は防具と武器を選びに来ました。試合では通常、自分の得物に魔法関係の偉い人が特殊な魔法をかけて致命傷にならないようにするのだとか。武具防具の総費用も規定があるため、試合用の道具は普通ひと月前に揃える。
あまり早くから馴染む様にと使い込むと最悪試合中に破壊されてしまい棄権となってしまう。
私はアッサム師匠より、基本は充分という判断をもらったので初めて自分用のを揃える事になった訳です。
「安価な武具は重さと防御力がある程度相関してる。できれば竜の服とか軽い奴与えてやりてぇんだけど、試合時の防具武具の費用にゃ規定があんだよな。それと、戦闘スタイルも決めていかねぇとだし」
歩く度にそれだけで疲労が蓄積されそうな鎧からなんとか脱出する。防護力高くても、こんなの着てたら360°どこからでも切ってくださいってなもんだ。
「ねーねー、しあいの時、僕もついて行っていいー?」
「流石にぬいぐるみ同伴は不味いんじゃない?」
小脇に子狐を抱える剣士。それだけで弱そう。
「ああ、そろそろ影に入れても大丈夫だと思いますよ。カリンの魔力も安定していますし、上手くいけば剣に炎などの付加もできるかもしれませんね」
「アンズがいりゃあ、万一の時も安心、か。本体晒しゃ失格にはなるかもしれないが」
「……今回に限り、大丈夫だとは思いますが、ね」
リオネット様の言葉にアッサム様が怪訝な顔になる。
アンズが側にいるのは心強いが、それでもできたら平時は子狐スタイルが良い。私の好みの問題で。
その子狐がぽてっと倒れた。抜けた黒い影は私の影に……って。
「はみ出てる」
「はみ出てるな」
「完全にはみ出てますね」
私の体型から考えて明らかに不自然な影がモゴモゴしている。
「魔力の能力に差がありすぎて影が浅くて入りきらないんでしょう」
「つーことは、ぬいぐるみのまま出場だな」
「いや、それは流石に無理ですってば」
リオネット様がスッと私に何かを着せてくれた。少し膨らんだマントの様なローブの様な。リオネット様のとはだいぶ形が違うから、黒魔道士用?
「おい、それ、盗賊か暗殺者用じゃねーの?」
盗賊?暗殺者?その二つって一目で分かる様な装具って意味あるんだろうか。職業的に。
道歩いていて、明らかに盗賊とか捕まりそうなんですけど。
「暗器を隠すスペースがあるので影の容積が大きいんですよ」
確かに、さっきと比べて影に不自然さは無い。服の膨らみ自体で影も少し大きくなっているし。
「防御力は非常に低いですが、急所が分かりにくくなる利点もある。スピードを殺さず、値段も安価でその分武器に回せます」
呼応する様にアッサム様が「これは?」と言っていって短剣を二本選んだ。ダガーとマインゴーシュ?普通は長物と盾であろうに、短剣に短剣型の防具……、これはもしかして。
アッサム様を見る。肯く。
リオネット様を見る。肯く。
「ヒ、ヒットアンドアウェイ?」
「流石カリン。ご明察」
ここで重要なお知らせです。戦闘スタイルが決まりました。当てる、逃げるの繰り返し。あれです。蝶の様に舞い、蜂の様に刺し、ゴキ◯リの様に逃げるという。
って、短剣しか使わないなら、今までの素振り意味ねぇぇぇえー!
「カリン、心の声漏れてるー」
「意味なくは無いぞ。相手は結局その型で動いてくるからな。間合いが分かるだろ」
釈然としない私を他所に、着々と武器や武具は選ばれていった。
勇者は基本的に剣を使う事になっている。だから、いわゆる剣士か騎士を目指さなくてはならない。魔王を倒すために旅をする時の物理攻撃役となる。弓矢の様に消耗品は不可。格闘家の様に直接攻撃も不可。
途中で弾切れになったり、表面が酸でできたクリーチャーも確認されているからだ。だから、逆に短剣メインでも勇者と言い張れなくもないけれど。
魔王と対峙した時に、短剣の勇者?おかしかないか?勇者決める試合に、それで良いの?
短剣ってイメージ的に盗賊、忍者、踊り子って感じ。
釈然としないまま、アッサム様相手に実戦練習、アンズ相手に瞬発力アップ、そこにリオネット様直伝の戦術の座学。
ひと月は矢のように過ぎて、試合の日はあっという間にやってきた。
試合の前に自分に対しての白魔法不可、相手に対しての直接的黒魔法不可の魔法が私にかけられた。更に今回は攻撃能力無効化と幻影ダメージも付いている。これはつまりどんなに切っても突いても、試合が終われば元どおり。ただし最中は実際と同じ痛みを感じるというものだ。
リオネット様、凡ミス隠蔽のためにまた権限を乱用した様です。ありがたいけど、ブラコン疑惑がかかりそう。
ちなみに魔法を施してくれたお偉いさん自体もリオネット様だった。
「こんな事になるとは思わなかったので、私がこの地位についた時から不正ができない様な強い術にしてあるんですよね」
術は魔法陣や札など事前に施す物だ。ふぅ、とため息をついた彼は絶対不正を試みたと思う。証拠はないが、リオネット様はそういう人だ。このひと月で骨身に染みてるからね、もう。
アッサム様からは「怪我なく、危険な目に遭わなけりゃなんでも良い」。リオネット様からは「なるべく上位を期待します。今後のためにも」と、好き勝手な激励をされて一人受付を済ませた。言う事が微妙に一致してないんだよね、あの二人。
控室に入ると、他の参加者は遠巻きにジロジロと見るが声もかけてはこなかった。盗賊系の服なんて明らかに場違いだし、得物は服の中にしまってるし、私が勇者見習いの有名人で無くとも異様だろうな。
別にここで友達を作ろうという訳では無いけどね。顔見知りの人達はそれなりに声をかけ合っていて、賑やかだった。こういうシチュエーションは慣れてなくて居た堪れない。アッサム様はシード権があるから初めからは出てこないし……。
ライバル達の武器や武具を眺めていると、少し華奢な若者が入ってきた。部屋の隅に陣取っていた坊主頭と一番大きな声で威嚇してた奴がその人の両手を掴んでどこかに連れて行く。
っ……。
『カリンは大丈夫。万一があれば僕は遠慮しなくて良いってリオネットが言ってた』
アンズに言われて、そうだったと思い出した。勇者見習いでバックにアッサム様やリオネット様がいるから、誰も触れずにいるんだ。仲良くされると逆にまずいんでした。
事前に言われた通り、控室に初めから用意してある物には何も口を付けずに壁に背を当てて立って待つ。いかにも出来そうな人達もそうやってて、取材の人が目を輝かせて何か書きつけている。お願い、こっち見ないで、聞かないで。私は言われたとおりにしてるだけですからー。
試合は全部で七試合。敗者復活は無く、リーグ戦。相手の武器が壊れる、立てなくする、負けを認める、その他戦闘不能と判断されれば勝敗が決まる。
二試合が午前中、三試合が午後、そして夜に二試合、と一日仕事。それでも勇者見習い枠だから少なく設定されてるのだとか。
リオネット様やアッサム様から聞いている対戦相手の情報を反芻しながら、私は闘技場に出た。
広い闘技場では同時に何組も試合っている。各ブースには外からの干渉を防ぐ結界が張ってあった。
『はじめの相手はどの作戦ー?』
初戦の相手の事前情報と所持している武器のランクを確認……。武器は大きいが、武具の方にお金をかけている感じ。元々武闘家だったタイプが、剣士に合わせてきたスタイルね。
前回前々回と拳で相手叩き潰して失格になった、と。頭に血が上るまでになんとかしなきゃ。
「作戦Bで」
『りょ。大人しくしてるー』
対峙した時点で相手は笑っている。こちらの戦闘スタイルを知らずにその表情なんて、頭は軽量型って言ってる様なもんだ。
開始と共に私は飛び出した。ゆっくりと。
誘われた相手は剣を振り下ろす。モーションに入った所で少しスピードを上げて飛び込み、マインゴーシュで剣を滑る様に受け流す。慌てた相手は……小心者。その盾で叩き潰しにくれば良いのに守りに入った。私は右手のダガーで相手の右手首を斬りつける。
「がぁっ!」
落とした剣を拾って、はい、終わり。ってめっちゃ重い。アンズに重量弄ってもらいながら、外に投げ、戦闘不能をアピールした。
相手は……茫然としている。その間に判定が下りて、結界が解かれた。セーフ。ここで判定前に暴れられたら困ってしまう。
消耗ほぼ無しで、とりあえず第一試合は終わった。
応援ありがとうございます!
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