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リズさん
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頷くと、さっきの輔祭さんがすちゃっと絵葉書を渡してくれた。絵には美化されたアッサム様のイラストと荒廃した村が美しく再生している様な絵だ。
「この町、以前は村でしたが、ここはマンチェスターで最も貧困に苦しんでいた地域です。アッサム様が平民として勇者の試合で優勝され、マンチェスター家に養子となった際、優勝の褒美にサルフォードの開発を望まれました。お陰様でこの地域も今や町と呼べる規模になりました」
「俺の実親の地元だと聞いていたんだ。褒美っつわれても特に希望は無かったし、身内は既に居なかったしで、そういう事になった」
これは……、完全にこの人達、アッサム様の事覚えてないんだ。
「んで、ウケるのが、リオンもこんな風に連れてきたんだが、俺にめちゃくちゃ似てる女の人がちょうど結婚式で、飛び入りで祝辞やらせてもらったんだよ。ここの人達はすげぇ気安くて個人的に好きだ」
屈託無く笑いを見せてるけど、これ、嘘だよね。今回みたいに、お姉さんの結婚式に合わせて訪れたって事だ。
「確か、リズ、とか言ったな」
「ああ!」
輔祭さんが叫んだ。
「どうした?」
「その、リズは本日ちょうど子供が産まれました」
「マジか。すげぇタイミング。これはちょっと祝いの一言ぐらい言いてぇな。流石に産後すぐだと不味いか?」
「わ、私もお祝い言いたいです!」
産後だと断られるかもしれない。でも、これは断られたら堪らない。
「まさか!アッサム様、カリン様から祝福を受けるなど、親も子も光栄な事です。産院にご案内しましょう」
私達は輔祭さんに連れられて、産院に向かった。道中、道路は舗装され、店も賑わい、とても清潔な町だと感じた。それこそあの絵葉書のアフターの様子そのまま。それなら、と思う。ビフォーの絵は骨が散らばり、ほったて小屋が破壊されている様な有り様だった。この町はそういう村だったのか。
「こちらです」
案内された部屋の前で、前を歩くアッサム様が手を硬く握りしめた。その背中に手を当てる。大丈夫です。アッサム様は大丈夫です。と念を送る。アッサム様は一瞬振り返って、微笑んだ。その唇は「さんきゅ」と微かに動く。
それから彼は部屋に入った。
「邪魔をする」
「これはこれは、アッサム様にカリン様!」
リオネット様の広報活動のお陰様で、どこに行っても誰かわかってもらえる。便利な様な不便な様な。
部屋にはリズさんと赤ちゃん、それからリズさんより年上の女性がいた。
「今日偶然こちらに弟を連れてきたら、兄を連れてきた時に結婚式を挙げてた花嫁さんが出産したと聞いて、邪魔しにきた。産後のつれぇ時期にすまねぇな」
「すみません!私が赤ちゃん見たくて、つい!」
立とうとするリズさんをアッサム様は制止しながらも、無理には近づかなかった。その距離感が、やはり彼女も覚えてないんだと私に教えた。
「そんな、光栄です。ありがとうございます。是非顔を見てやってください」
年嵩の女性は旦那さんのお母さんだろうか。親密な空気はリズさんの実母に見えるけど、アッサム様は他に家族は居ないと言っていた。
その女性がさぁさぁと私達に席を勧めてくれて、私はアッサム様に倣って席についた。赤ちゃん独特の甘い香りがほのかに感じられる。
「可愛い、ですね」
赤ちゃんを抱かせてもらったアッサム様は声にならないのか、まるでナルさんの癖の様な勢いで、ただ赤ちゃんを見ている。
私の感想に小さく頷いただけの、そんなアッサム様を見て、私は何故が泣きそうになった。
「カリン様も是非」
「はい。是非抱かせてください」
小さな温もりを渡されて、壊れそうな大切な物だと実感する。そりゃ無言にもなりそう。
「性別は?」
ようやくアッサム様はリズさんに話しかけた。赤ちゃんはまだ顔が浮腫んでいて、赤くて、ほやほやしている。
「男の子です」
「そうか、強くなりそうな子だ」
褒め方微妙ですよ。しかし、リズさんとの会話の邪魔はしませんが。リズさんは嬉しそう微笑んで、それがちょっとアッサム様が時々見せる表情に良く似ていた。
「アッサム様にお願いがございます」
一呼吸の間を置いて、リズさんは少し遠慮がちに、それでも迷いはない表情でアッサム様に話しかけた。平民から貴族に直接お願い事をするは、フェイさんに基本的にタブーである、と習っていたような。
「なんだ?」
「恐れ多い事は承知しております。けれど、この子にお名前を、アッサム様のお名前を頂くことはできませんか?」
「リズ!なんてことを!」
隣の女性が叫んで、赤ちゃんはビクッとなった。けれど泣かない。本当に強い子なのかもしれない。
「いや、構わねぇよ。ただ、生まれた時と、あと結婚式か?で会っただけの奴の名で良いのか?まぁ、ありふれた名前ではあるが」
「この町を救ってくださった事も、です。けれど、他に理由があります」
出されたのは小さな男の子の人形。髪色はアッサム様とリズさんと同じ色。そして、赤ちゃんとは違う色。
「母が残してくれた物で、この人形もアッサム様ド同じ名をしていました。お恥ずかしながら、私の宝物なんです。この子がいたから私は生きてこれたと言ってもおかしく無いくらい、大事な子なんです。変ですよね。でも、だから、男の子が生まれたら同じ名を付けたいと思っていました。不遜になるため諦めるつもりでいたのですけれど、奇跡の様にアッサム様がいらしたので」
「なるほど。それなら、かまわねぇよ」
アッサム様は優しく微笑んだ。
「そんな思い入れのある名前なら、存分に呼んでやってくれ」
「ああ!ありがとうございます!」
ぱあっと花が咲いた様な笑顔でリズさんは喜んだ。そして、我が子を優しく抱きしめる。
「あなたは、今日からアッサムよ。アッシャー、私の可愛いアッシャー」
リズさんはアッシャーちゃんを本当に愛しそうにしている。ふと、アッサム様の幼い日が目に浮かぶ。宝物だったのは、きっとこの人形じゃ無くて……。
「もう一回抱かせてもらってもいいか?」
「?はい」
渡されたアッシャーちゃんをアッサム様は優しく抱いた。
「アッシャー、お前は強くなる。そんで、リズを守るんだ。俺はお前らを護るから」
「ありがとうございます。私どもも魔王征伐の成功をお祈りしております」
正視できない。多分、このシーンを直に見たら、私の目は決壊する。
「ほ、本当に素敵なお人形ですね」
やばいやばい。ここで泣いたらダメだ。
「ありがとうございます。守り人形だと思うのですが、誰かは分からないんです」
「アッサム……兄上と同じ髪で少し似ていて不思議です」
ぎゃー、ばかばか私!リズさんにアッサム様が本当は弟だって感づかせる様な事言うのは完全に悪手だった。焦りすぎてもやっちゃダメなやつ!
「宜しければ、差し上げましょうか?」
「え?」
「あ、こんな古い人形、失礼しました」
「いえ、大切な物なのでは?」
「はい、ですが何故か急にこの子をお願いしたいと思ってしまって。すみません」
「出産後間もないので、少し混乱しているようです。不躾ばかり言って申し訳ございません」
額に当てを当て、困惑しているリズさんを護る様に、隣の女性が謝った。
「この町、以前は村でしたが、ここはマンチェスターで最も貧困に苦しんでいた地域です。アッサム様が平民として勇者の試合で優勝され、マンチェスター家に養子となった際、優勝の褒美にサルフォードの開発を望まれました。お陰様でこの地域も今や町と呼べる規模になりました」
「俺の実親の地元だと聞いていたんだ。褒美っつわれても特に希望は無かったし、身内は既に居なかったしで、そういう事になった」
これは……、完全にこの人達、アッサム様の事覚えてないんだ。
「んで、ウケるのが、リオンもこんな風に連れてきたんだが、俺にめちゃくちゃ似てる女の人がちょうど結婚式で、飛び入りで祝辞やらせてもらったんだよ。ここの人達はすげぇ気安くて個人的に好きだ」
屈託無く笑いを見せてるけど、これ、嘘だよね。今回みたいに、お姉さんの結婚式に合わせて訪れたって事だ。
「確か、リズ、とか言ったな」
「ああ!」
輔祭さんが叫んだ。
「どうした?」
「その、リズは本日ちょうど子供が産まれました」
「マジか。すげぇタイミング。これはちょっと祝いの一言ぐらい言いてぇな。流石に産後すぐだと不味いか?」
「わ、私もお祝い言いたいです!」
産後だと断られるかもしれない。でも、これは断られたら堪らない。
「まさか!アッサム様、カリン様から祝福を受けるなど、親も子も光栄な事です。産院にご案内しましょう」
私達は輔祭さんに連れられて、産院に向かった。道中、道路は舗装され、店も賑わい、とても清潔な町だと感じた。それこそあの絵葉書のアフターの様子そのまま。それなら、と思う。ビフォーの絵は骨が散らばり、ほったて小屋が破壊されている様な有り様だった。この町はそういう村だったのか。
「こちらです」
案内された部屋の前で、前を歩くアッサム様が手を硬く握りしめた。その背中に手を当てる。大丈夫です。アッサム様は大丈夫です。と念を送る。アッサム様は一瞬振り返って、微笑んだ。その唇は「さんきゅ」と微かに動く。
それから彼は部屋に入った。
「邪魔をする」
「これはこれは、アッサム様にカリン様!」
リオネット様の広報活動のお陰様で、どこに行っても誰かわかってもらえる。便利な様な不便な様な。
部屋にはリズさんと赤ちゃん、それからリズさんより年上の女性がいた。
「今日偶然こちらに弟を連れてきたら、兄を連れてきた時に結婚式を挙げてた花嫁さんが出産したと聞いて、邪魔しにきた。産後のつれぇ時期にすまねぇな」
「すみません!私が赤ちゃん見たくて、つい!」
立とうとするリズさんをアッサム様は制止しながらも、無理には近づかなかった。その距離感が、やはり彼女も覚えてないんだと私に教えた。
「そんな、光栄です。ありがとうございます。是非顔を見てやってください」
年嵩の女性は旦那さんのお母さんだろうか。親密な空気はリズさんの実母に見えるけど、アッサム様は他に家族は居ないと言っていた。
その女性がさぁさぁと私達に席を勧めてくれて、私はアッサム様に倣って席についた。赤ちゃん独特の甘い香りがほのかに感じられる。
「可愛い、ですね」
赤ちゃんを抱かせてもらったアッサム様は声にならないのか、まるでナルさんの癖の様な勢いで、ただ赤ちゃんを見ている。
私の感想に小さく頷いただけの、そんなアッサム様を見て、私は何故が泣きそうになった。
「カリン様も是非」
「はい。是非抱かせてください」
小さな温もりを渡されて、壊れそうな大切な物だと実感する。そりゃ無言にもなりそう。
「性別は?」
ようやくアッサム様はリズさんに話しかけた。赤ちゃんはまだ顔が浮腫んでいて、赤くて、ほやほやしている。
「男の子です」
「そうか、強くなりそうな子だ」
褒め方微妙ですよ。しかし、リズさんとの会話の邪魔はしませんが。リズさんは嬉しそう微笑んで、それがちょっとアッサム様が時々見せる表情に良く似ていた。
「アッサム様にお願いがございます」
一呼吸の間を置いて、リズさんは少し遠慮がちに、それでも迷いはない表情でアッサム様に話しかけた。平民から貴族に直接お願い事をするは、フェイさんに基本的にタブーである、と習っていたような。
「なんだ?」
「恐れ多い事は承知しております。けれど、この子にお名前を、アッサム様のお名前を頂くことはできませんか?」
「リズ!なんてことを!」
隣の女性が叫んで、赤ちゃんはビクッとなった。けれど泣かない。本当に強い子なのかもしれない。
「いや、構わねぇよ。ただ、生まれた時と、あと結婚式か?で会っただけの奴の名で良いのか?まぁ、ありふれた名前ではあるが」
「この町を救ってくださった事も、です。けれど、他に理由があります」
出されたのは小さな男の子の人形。髪色はアッサム様とリズさんと同じ色。そして、赤ちゃんとは違う色。
「母が残してくれた物で、この人形もアッサム様ド同じ名をしていました。お恥ずかしながら、私の宝物なんです。この子がいたから私は生きてこれたと言ってもおかしく無いくらい、大事な子なんです。変ですよね。でも、だから、男の子が生まれたら同じ名を付けたいと思っていました。不遜になるため諦めるつもりでいたのですけれど、奇跡の様にアッサム様がいらしたので」
「なるほど。それなら、かまわねぇよ」
アッサム様は優しく微笑んだ。
「そんな思い入れのある名前なら、存分に呼んでやってくれ」
「ああ!ありがとうございます!」
ぱあっと花が咲いた様な笑顔でリズさんは喜んだ。そして、我が子を優しく抱きしめる。
「あなたは、今日からアッサムよ。アッシャー、私の可愛いアッシャー」
リズさんはアッシャーちゃんを本当に愛しそうにしている。ふと、アッサム様の幼い日が目に浮かぶ。宝物だったのは、きっとこの人形じゃ無くて……。
「もう一回抱かせてもらってもいいか?」
「?はい」
渡されたアッシャーちゃんをアッサム様は優しく抱いた。
「アッシャー、お前は強くなる。そんで、リズを守るんだ。俺はお前らを護るから」
「ありがとうございます。私どもも魔王征伐の成功をお祈りしております」
正視できない。多分、このシーンを直に見たら、私の目は決壊する。
「ほ、本当に素敵なお人形ですね」
やばいやばい。ここで泣いたらダメだ。
「ありがとうございます。守り人形だと思うのですが、誰かは分からないんです」
「アッサム……兄上と同じ髪で少し似ていて不思議です」
ぎゃー、ばかばか私!リズさんにアッサム様が本当は弟だって感づかせる様な事言うのは完全に悪手だった。焦りすぎてもやっちゃダメなやつ!
「宜しければ、差し上げましょうか?」
「え?」
「あ、こんな古い人形、失礼しました」
「いえ、大切な物なのでは?」
「はい、ですが何故か急にこの子をお願いしたいと思ってしまって。すみません」
「出産後間もないので、少し混乱しているようです。不躾ばかり言って申し訳ございません」
額に当てを当て、困惑しているリズさんを護る様に、隣の女性が謝った。
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