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 その後1週間程度、不足分の機械を運んだりファンクラブの事務仕事をしたりして過ごした。基本的にナルさん教布教がメインだけど、ちょくちょく村や街も見回りながらアッシャー教派も増やしていく、その際は私もアッシャーに同伴し、灰になって帰ってくる。

「アッシャー、色香切る時教えて。そして、私の目の前で切ってね」
「……しばらく怖くて切れねぇよ」

 何やらかしてるかの自覚はあるらしい。
 私の方は耐性がぐんぐん上がってるから、だんだんマシにはなってるけどね!
 しばらく怖くて油断にかかりたくない。

 しかし、リオネット様の狙い通りに動いている事に、ちょっと快感すら覚えたのも事実。

 雨情は魔石の宝石が水の中にできる事を広めたらしく、それに応じてナルさんはサンダーランドの主産業である魔具の流通を増やす様に自国に連絡したりして、ほんの1週間なのに街には明らかに活気が出てきた。

 そしてとうとう、ロイヤルグレイス公ご本人がリオネット様に面会を申し込んできた。

「流石に断りはしませんよ」

 リオネット様達の部屋の主寝室は改造されて応接室になっていたので、そのままお通し。この地域で作られる最高級の応接セットでお出迎え。ロイヤルグレイス公は顔を真っ赤にしていながらも笑顔は一応張り付けてはいらっしゃった。

「貴公は他人の領地の宿に勝手に自らの応接間を作らせるとはどういう了見か」
「いえ、必要ですねとお話したら宿の方がしつらえてくださいました。皆様のご好意です」
「この応接セットは東の森の一本木から作られた物では?」
「ええ、必要ですねとお話したら、街の方がご用意してくださいました。皆様のご好意です」
「まぁ、都の細工の見事なものとら比べると田舎臭い……」
「そうですか?こちらの職人の方は腕だけで無く、目利きも良い。この美しい木目を生かす最高の技術だと思いますよ。陛下のお側に控えさせていただいている私からすると」

 全ての苦情も嫌味も笑顔で打ち返しすリオネット様は絶好調だ。

「……こ、此度の用件は?」
「女王陛下の命で森への出入りの許可を取りに参りました。ついでに、それに伴う街への滞在許可も」
「街の滞在許可の方は聞いておらぬが?」
「こんな酷い治世とは思っておりませんでした。民は宝です。貴族は民を守るもの。ロイヤルグレイス公への越権行為にならぬ程度、お役に立ちたいと思いまして」
「ならない!民を甘やかす事はイタズラに民を堕落させる事!無駄な力を民が持つ事は怨嗟を呼ぶ事として、女王陛下も好まれない筈だ!」
「……それは確かに一理ありますね。失礼、我々が出過ぎました。森への滞在のための買い出し等のためだけの滞在は?」
「……許可する」
「ありがたき幸せ。女王陛下には、到着二日目に、未だ面会ならずとお知らせしたのみですから、ご安心ください」
「うむ」

 ロイヤルグレイス公は一応勝った!という顔で帰っていった。

「と言うわけで、これから私は皆様の治療ができません。お手伝いも禁止されました。申し訳ありませんが、私達を待っている方々にすみませんとお伝え願えますか?我々は最早、お知らせする事もできません」

 心の奥底から申し訳ないと言う表情で、応接間の横の部屋にいた人々、宿の支配人やら各街の有力者、ファンクラブ会長そして、ナルさんのインタビューにきていた有力紙の記者に向かってリオネット様は謝罪した。

 宿の支配人には、素晴らしい宿だと言う事を公にお伝えするため、すぐに呼ばれるのではないか、と。
各街の有力者には、今後の手伝いと具体的に街で困っている事を直接公に伝えるために、と。
 ファンクラブとインタビューはそのままの理由で隣の部屋にリオネット様が集めていたのだった。

 もちろん応接間の部屋の話は盗聴してスピーカーで大きくして隣の部屋に流していました。

 全員お帰りいただいて、リオネット様は上機嫌。

「急いで森に避難しますよ」

 避難?

「前後したが、概ね予定通りだな。カリンの兄貴に会いに行くぞ」

 アッシャーの騎獣に私は乗せられた。

「アンズはカリンの影に入れ。あの森は今、影に潜めない強い魔力の奴の乗り入れが制限されてる」
「ニイサマに会えるの!?わぁい!……カリン、家出の事怒られると思う?」
「え?あ?うん、多分」
「怖い?」
「危ない事した時の怒られ方、かな」

 アンズ、影の中で固まる。

「ボクワルクナイ……」
「アンズ?怒られると限った訳じゃ……」
「ニイサマは理由いかんによらず、危ない事した時は叱らなきゃダメだって言って無かった?」
「まぁ、そうだけど」
「ボク、シカラレタクナイ」

 アンズが、ヘソ曲げてる。そして、ほぼ怒られるのは確実。

「って、アッシャー、兄様の森見つけてたの?」
「悪りぃな。あそこに着けばやっと全部話してやれるから」

 全部って、何?

 森の入口、少し空間が歪んでいる様な場所で索冥ら出迎えてくれた。

「久しいの。カリン様。森の王の代理は奥にて待ち侘びておる」

 懐かしい森、そこに近づけば、その場所は良く知った場所だとすぐわかった。
 小さな仔達は皆、知らない仔ばかりだけど、大きな仔達はよく知っている。その中央で相変わらず無表情に近い、それでも良く見れば分かる笑顔。

「兄様!」
「おかえり、カリン」

 私は騎獣を飛び降りて兄様に抱き付いた。

「あまり大きくはなら無いんだな、獣と違って」
「大きくなったよ、充分。兄様の話してた内容が分かるくらいには!」
「知ってる。アッサムに話した事、俺の耳にも届いている。お前を送り出した後、未だ敵は現れてはいない。そして、お前がリオネット達との縁を結んでくれた。その未来は変わった。お前のおかげだ」

 それは、もうそんな戦いは無いっていう事?それなら嬉しい。嬉しいけど、何故?
 そもそも、リオネット様達との縁って?
 
「みんな、兄様の事知ってたの?」
「知り合いであった、というならば我は知り合いと言える。リオネットやナルニッサ様は顔を合わすのは初めてであろ」
「どういう事?」

 混乱する私にナルさんは語りかけた。

「そもそもの始まりは私からお話ししましょう」
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