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14 カジノ2
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ふっと緩んだ視線で私を見ながら、彼の舌は指先だけでは飽き足らず、人差し指と中指の間をくすぐる……。
「きゃー!!」
と言う声は観客からで、プテラ乙女は蒼白で固まった。私も固まっていた。
「サヤ、そんな顔すなや。堪らんようになるわ」
「わっ!」
アルバートさんはそういうと、乙女含めた観客を放置したまま、私を抱き上げてどこかに向かった。ちょっとアドリブ力がありすぎませんか?こちらは素で驚いて、エウディさん仕込みの淑女ポーズは吹き飛んでいるのですが。
バーの奥にはホールがあって、その先には豪華な宿屋の扉みたいなものが並んでいた。賭博場のように宿泊施設併設なのかな。説明もなく、一つの部屋に連れ込まれる。が、部屋の中に入ると奇妙な内装だった。部屋の真ん中にどでかいベッドがでーんと鎮座していて部屋の機能としてのバランスが悪い。
「ここは、宿屋スペースですか?」
「いや、休憩スペース。意味わかるか?」
「カジノの途中でお昼寝?それとも飲み過ぎた人を介抱するためでしょうか?」
カジノで飲み過ぎている客はいなかったように思うが……
「ちゃうちゃう、男女の交渉の場やな」
交渉……。おおぅ。
「そうです、ね。そう言う場所ってそういえば聞いておりました……」
「と言うわけやし、三十分くらいはここでのんびり待機や」
ふわーっとあくびをしてアルバートさんはベッドにダイブした。跳ね返りもよく、布団もふわふわで気持ち良さ気だ。
「って、クロノさん!クロノさんに連絡しなきゃ!」
ドアの方を見やる。当然だけど、穴は無い。距離だけなら見つけられるかもしれないのに……
「……そんな顔してクロノの事呼んでると、ほんまに女子みたいやな」
「え、ええ?!」
そんな顔?言われて意識して、顔が熱くなる。親を追いかける子供のような、はたまた逆にいつまでも子供を心配してるママみたいな?どちらにしても良い意味ではなさそう。
ベッドの上で頬杖をついてアルバートさんはまた一つ欠伸をした。
「さっき席外した時リードに説明しといたからクロノには大体伝わっとる。安心せえ」
流石です。それなら安心だ、と思ってアルバートさんの発言に気がつく。
「……あの、女の子みたいって……気持ち悪いですか?」
アルバートさんは女性が嫌いだ。と言うことは相当気持ち悪い……?心配しながら彼の顔色を伺ったが、彼は変わらずに寛いでいた。
「アホぬかせ。きしょく悪いんやったら、舐めたりできるか。そもそも、俺が女嫌いなんはどっちかゆーと怖いからじゃ。せやし、サヤ、女にはなるなよ」
「怖いんですか」
どこが?と思ったけれど、エウディさんとプテラ乙女が頭に浮かび、確かに少し分かるかも……と思わざるを得ない。
「というか、そもそも舐めるとか無いです」
「サヤが『舐めろ』って手ぇ出してきたんやんか」
「いやいや、拭いてくださいって意味でしょう」
「そうか?習った通りやねんけどなぁ、エロかったやろ?」
エロい……?エロかったかな?ビックリして覚えてないけど、そう言えば上目遣いで舌を這わすように舐められて……あ、エロいわ。
自覚すると突然恥ずかしく感じた。
「習ったって、……まさかクロノさんとエウディさん……?」
「いや、ちゃう、ちゃうで!そんな顔すんな!リードから借りた小説や!男向けの!」
「男向けの小説って男女のあれやこれや的な?」
「まぁ、主に女があれやこれやされるやつやな」
「……女嫌いじゃ無いんですか?」
「一応男の生理現象はある!大体二次元の女は怖く無いしな!」
「そーですねー」
真顔で力説されて、脱力してしまった。でも、クロノさんとエウディさんがこんなやりとりしてるわけじゃないのね、良かった……。
何故かわからないけれど、二人のそんな所は知りたくない。
「さて、と。このまま出てったら何も無かった事がバレるやろし……、サヤ、こっちや」
アルバートさんはいきなり私の手首をぐいっと手を引いて、ベッドに押し倒してきた。数十センチまで顔を近づけられて、流石に緊張する。
「あの?」
「服の皺と、髪もやな。化粧もちょっと移しとくか」
その体勢のまま彼は上着を脱いで、左手で頭を優しく掴んだ。それから、右手の親指で私の唇を拭って、自分の唇に紅を移す……
偽装。これは偽装のため。と心で唱えて耐えていたら、彼の目に赤みが帯びていく気配が見えた。
「アルバートさん?目が……」
「目……?……っ!?……くそっ!」
ベッドから飛び退いて、彼は上着から小さな瓶を取り出して、あるだけのタブレットを口に含んだ。その様子を私はベッドの上で見守るしかできない。
「静まれ……静まるんや……」
部屋の隅で小さくなったアルバートさんは、心臓の上に手を置いて祈るように呟いていた。険しげな症状と固く瞑った目、それから伝う汗から状態が悪い事が伺える。
クロノさんを呼びに出るか?いや、離れるのは良くない気がする。一瞬開けた彼の目の赤色の鮮やかさで、エウディさんから貰ったタブレットを思い出した。
「これ!もしかして使えますか?エウディさんに渡されてました!」
「……おおきに」
一瞬だけ迷って、彼はすぐにそれを口に含んだ。効果はあるものらしい。でも、この特別なタブレットを見た彼の、絶望したような苦しげな、自虐的にも見えた笑みに私は言葉を失った。
鋭敏な視覚を介して伝わる、方向性が分からない強い感情に、私はアルバートさんの事を何も知らないという事を知ってしまった。
赤のタブレットの効果は絶大で、次に彼が私を見た時には瞳は金色に戻っていた。
「……あれ、何か知っとるか?」
「いえ……、エウディさんに、お守りって」
「聞かんとってな……?」
「分かりました」
「……すまんな」
少し弱った笑顔を向けられても嬉しくない。聞かないけど、聞けないけど、私が頼れる仲間でない事が悔しい。
予定の時間までアルバートさんはベッドで仰向けになっていた。目の上に両手首を乗せるようにしていて、寝ているのかは分からない。私やメイクを少しいじって、偽装工作を続けておいた。
「きゃー!!」
と言う声は観客からで、プテラ乙女は蒼白で固まった。私も固まっていた。
「サヤ、そんな顔すなや。堪らんようになるわ」
「わっ!」
アルバートさんはそういうと、乙女含めた観客を放置したまま、私を抱き上げてどこかに向かった。ちょっとアドリブ力がありすぎませんか?こちらは素で驚いて、エウディさん仕込みの淑女ポーズは吹き飛んでいるのですが。
バーの奥にはホールがあって、その先には豪華な宿屋の扉みたいなものが並んでいた。賭博場のように宿泊施設併設なのかな。説明もなく、一つの部屋に連れ込まれる。が、部屋の中に入ると奇妙な内装だった。部屋の真ん中にどでかいベッドがでーんと鎮座していて部屋の機能としてのバランスが悪い。
「ここは、宿屋スペースですか?」
「いや、休憩スペース。意味わかるか?」
「カジノの途中でお昼寝?それとも飲み過ぎた人を介抱するためでしょうか?」
カジノで飲み過ぎている客はいなかったように思うが……
「ちゃうちゃう、男女の交渉の場やな」
交渉……。おおぅ。
「そうです、ね。そう言う場所ってそういえば聞いておりました……」
「と言うわけやし、三十分くらいはここでのんびり待機や」
ふわーっとあくびをしてアルバートさんはベッドにダイブした。跳ね返りもよく、布団もふわふわで気持ち良さ気だ。
「って、クロノさん!クロノさんに連絡しなきゃ!」
ドアの方を見やる。当然だけど、穴は無い。距離だけなら見つけられるかもしれないのに……
「……そんな顔してクロノの事呼んでると、ほんまに女子みたいやな」
「え、ええ?!」
そんな顔?言われて意識して、顔が熱くなる。親を追いかける子供のような、はたまた逆にいつまでも子供を心配してるママみたいな?どちらにしても良い意味ではなさそう。
ベッドの上で頬杖をついてアルバートさんはまた一つ欠伸をした。
「さっき席外した時リードに説明しといたからクロノには大体伝わっとる。安心せえ」
流石です。それなら安心だ、と思ってアルバートさんの発言に気がつく。
「……あの、女の子みたいって……気持ち悪いですか?」
アルバートさんは女性が嫌いだ。と言うことは相当気持ち悪い……?心配しながら彼の顔色を伺ったが、彼は変わらずに寛いでいた。
「アホぬかせ。きしょく悪いんやったら、舐めたりできるか。そもそも、俺が女嫌いなんはどっちかゆーと怖いからじゃ。せやし、サヤ、女にはなるなよ」
「怖いんですか」
どこが?と思ったけれど、エウディさんとプテラ乙女が頭に浮かび、確かに少し分かるかも……と思わざるを得ない。
「というか、そもそも舐めるとか無いです」
「サヤが『舐めろ』って手ぇ出してきたんやんか」
「いやいや、拭いてくださいって意味でしょう」
「そうか?習った通りやねんけどなぁ、エロかったやろ?」
エロい……?エロかったかな?ビックリして覚えてないけど、そう言えば上目遣いで舌を這わすように舐められて……あ、エロいわ。
自覚すると突然恥ずかしく感じた。
「習ったって、……まさかクロノさんとエウディさん……?」
「いや、ちゃう、ちゃうで!そんな顔すんな!リードから借りた小説や!男向けの!」
「男向けの小説って男女のあれやこれや的な?」
「まぁ、主に女があれやこれやされるやつやな」
「……女嫌いじゃ無いんですか?」
「一応男の生理現象はある!大体二次元の女は怖く無いしな!」
「そーですねー」
真顔で力説されて、脱力してしまった。でも、クロノさんとエウディさんがこんなやりとりしてるわけじゃないのね、良かった……。
何故かわからないけれど、二人のそんな所は知りたくない。
「さて、と。このまま出てったら何も無かった事がバレるやろし……、サヤ、こっちや」
アルバートさんはいきなり私の手首をぐいっと手を引いて、ベッドに押し倒してきた。数十センチまで顔を近づけられて、流石に緊張する。
「あの?」
「服の皺と、髪もやな。化粧もちょっと移しとくか」
その体勢のまま彼は上着を脱いで、左手で頭を優しく掴んだ。それから、右手の親指で私の唇を拭って、自分の唇に紅を移す……
偽装。これは偽装のため。と心で唱えて耐えていたら、彼の目に赤みが帯びていく気配が見えた。
「アルバートさん?目が……」
「目……?……っ!?……くそっ!」
ベッドから飛び退いて、彼は上着から小さな瓶を取り出して、あるだけのタブレットを口に含んだ。その様子を私はベッドの上で見守るしかできない。
「静まれ……静まるんや……」
部屋の隅で小さくなったアルバートさんは、心臓の上に手を置いて祈るように呟いていた。険しげな症状と固く瞑った目、それから伝う汗から状態が悪い事が伺える。
クロノさんを呼びに出るか?いや、離れるのは良くない気がする。一瞬開けた彼の目の赤色の鮮やかさで、エウディさんから貰ったタブレットを思い出した。
「これ!もしかして使えますか?エウディさんに渡されてました!」
「……おおきに」
一瞬だけ迷って、彼はすぐにそれを口に含んだ。効果はあるものらしい。でも、この特別なタブレットを見た彼の、絶望したような苦しげな、自虐的にも見えた笑みに私は言葉を失った。
鋭敏な視覚を介して伝わる、方向性が分からない強い感情に、私はアルバートさんの事を何も知らないという事を知ってしまった。
赤のタブレットの効果は絶大で、次に彼が私を見た時には瞳は金色に戻っていた。
「……あれ、何か知っとるか?」
「いえ……、エウディさんに、お守りって」
「聞かんとってな……?」
「分かりました」
「……すまんな」
少し弱った笑顔を向けられても嬉しくない。聞かないけど、聞けないけど、私が頼れる仲間でない事が悔しい。
予定の時間までアルバートさんはベッドで仰向けになっていた。目の上に両手首を乗せるようにしていて、寝ているのかは分からない。私やメイクを少しいじって、偽装工作を続けておいた。
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