命が繋ぐ新たな家族の形

野良太夫

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第一幕

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 「あの人の子供だったら」
君がつぶやいたその一言が今でも胸に残る。
 


 2018年夏、僕たちの新しい家族の形が始まった。
 僕には好きな人がいた。自由奔放で縛られることが苦手な彼女。

 
 僕の精いっぱいの恋が終わったのはその約1ヶ月前。
 僕たちの関係は約1月というとても短い時間だった。その短い時間の中でも、たくさんの思い出を二人で作れた。
 

 それでも、別れは突然で。その日を境に僕たちを取り巻く環境は大きく変化した。唯一の理解者だった女性がいた。君は僕たち二人の関係を良く理解してくれていたし、君の支えがあったから、1月関係を続けられた。そんな気がする。
 



 そんな僕たちの関係を大きく変える出来事が起きたのが2018年夏。その相談に乗ってくれていた君に子供が出来た。
 

 そんな時に僕が発した一つの言葉がきっかけで今のこの関係がある。
 
 僕たちは家族になった。僕たちを精いっぱい応援してくれていた君が、一番笑顔でいてくれる形を模索した結果
 「じゃあ、3人で親になろうか」
 その言葉を聞いた君は戸惑いを隠せず、それでも喜んでいたのが印象的だった。
 
 一人で抱えて生きていく覚悟を決めた君に発した、僕の言葉に君は心から感謝してくれた。
それはきっと、僕の発した言葉の意味にではなく、自分一人で抱えて生きていく辛さから解放されたからだったのかな。
 


 そんな一言がきっかけで僕は新たな家族の可能性を探し始めた。
 
 まずは僕たち二人の関係を元に近い状態に戻すこと。
 



 幸いなことに彼女にとっても君は特別な人で、妹のような存在。
 
 そんな彼女だからこそ、面白そうと言って、
僕のバカみたいな提案を笑って受け入れてくれた。
 



 そうして始まった僕たちの新しい生活。周囲の反対は当然分かり切っていたし、白い目で見られることはわかっていた。だから、3人だけの秘密として、この生活がスタートした。



 
 君はあの時、僕に子供が出来たことを相談したあの日、泣きながら話してくれた言葉を覚えているかな。
 


 君はあの頃、本気で恋した男性に別れを告げられ、自暴自棄になっていた。
 そんな中で、犯したたった一晩の過ち。君はひどく酔っていて。相手のこともよく覚えていない。それで、君はもし本当に子どもが出来ていたら、おろす覚悟をしていた。
 
 その時、僕は叱ってあげるべきだったのかもしれない。でも、本当に苦しそうにしている君に対して、そんな言葉が思い浮かばなかった。
 
 そこで僕はもし、本当に君が新しい命を授かった時のことを考えた。

 そうして始まった僕たちの新たな家族の形。
 彼女は今でも二人の間で笑っている。
 君は新しい命を育みながら、僕たちに笑顔を与えてくれている。
 
 そんな二人の笑顔が、僕を笑顔にさせてくれる。

 
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