Grow 〜異世界群像成長譚〜

おっさん。

文字の大きさ
1 / 132
おはよ。

第1話 少年と目覚め

しおりを挟む
 此処ここ何処どこだろう。

 目を覚ますと僕はきりがかる森の中に一人立ち尽くしていた。

 僕の背丈せたけほどまでに伸びた大きな植物の葉。
 僕はこの植物を知っている。シダ植物って言うんだ。

 でもこんなに大きくなったものは見たことがない。
 このような種なのか、あるいは年月がなせるわざなのか…。
 どちらにも要因よういんがあるのだろう。

 葉をかき分けて周囲を見渡せば、これまた大きな針葉樹しんようじゅの木。

 そのみきの直径はゆうに5メートルを超えている。
 樹高じゅこういたっては葉におおかくされ、この場からうかがい知る事もできなかった。

 そのような木々が視界に入る限り何処までもひしめき合っていると言うのだからおどろきを隠せない。

 雄大ゆうだいと言うに値する風景を霧がからめ取ってく。
 その姿は何処か幻想的げんそうてきで、一枚の絵画を見ているような気にさせられた。

「あれ?なんでこんなところにいるんだっけ」

 声に出して意識してみるとあまりにも不可解ふかかいなこの状況に現実味がわいてきた。

 そもそも僕は何なのだろう。
 体は…人間とさほど変わらないように思える。
 身長は低学年の小学生ほどだろうか。髪は黒色をしている。

 黒。そうだ、黒い色は邪悪じゃあくな色。
 悪魔の色で、呪いの色。そしてママと同じ髪の色。

 髪色でいじめられていた僕をママは優しくめてくれた。
 頭を撫でて「綺麗きれいな黒ね」って褒めてくれた。
 だから僕はこの黒髪が大好きだったんだ。

 パパはママの黒髪なんて気にしていないようだった。

 いつも優しくて、勇敢ゆうかんで、ちょっとどんくさいパパ。
 そんなパパは村を守る衛兵長えいへいちょうとして働いていた。

 だから僕やママの事を悪く言う人は少なかったし、僕をいじめる様な奴はごく一部の子どもだけだった。

 そう…あの日までは…。

 自身の過去を回想をしていると、大樹たいじゅかげからオオカミが顔をのぞかせた。
 それも一匹ではない、二匹三匹と数を増やしていく。

 霧のせいか、しげるシダ植物のせいか、或いはオオカミの狩人としての能力が十二分じゅうにぶん発揮はっきされた為か。
 少なくとも僕はその接近に全く気付かなかった。

 そうだ、そもそも僕はこんなところに立ち止まって過去を振り返っているひまなどなかったのだ。
 なんせ奴らに追われてこんな山奥まで迷い込んでしまったのだから。

 すぐにその場を離れる為、おおかみに背を向けそうになるが、それは駄目だと頭のどこかが警鐘けいしょうを鳴らす。

 なめられては終わりだ。
 警戒けいかいさせろ。
 おびえさせろ。

 僕は咄嗟とっさに近くに落ちていた小石を拾いあげ、狼に向かって投げた。
 怒らせないように直接は当てずに狼たちの鼻先めがけて投げていく。
 それだけで狼達は近づいてこなくなった。

 しばらくの間は間合いを取ってこちらを観察かんさつしていた。
 しかし、それも近づいてくるたびに追い払っていると、他に良い獲物えものがいると言わんばかりに狼たちは霧の中に消えていく。

 その結果に驚いている僕がいて、当たり前だと思っている僕もいる。

 狼は臆病おくびょう、よく言えば慎重派しんちょうはなのだ。
 特にえているわけでもなく、他に獲物がいるのであれば、わざわざ仲間や自分がけがを負うリスクを抱えてまでおそってきたりはしない。

 まして食べる部位の少ない人間の子どもだ。
 割に合わないと見切みきったのだろう。

 その興味を失ったような素振そぶりすらもフェイクだと言う事があるのが狼の狡猾こうこつさだが、そこは常に気を張って警戒する他ないだろう。

 まずは川を目指す。それだけだ。

 …なんで川を目指すんだろう。

 と言うよりそもそもシダ植物や針葉樹、狼なんて聞いたこともない。
 木は木だし、あのけものは"狼"ではなく森に住まう"牙獣きばじゅう狩人かりゅうど"だ。
 ましてや彼らの生態についてなんて僕が知るわけがない。

 これは誰かの記憶?
 いや、確かに僕の記憶…のはずだ。何かがおかしい。

 と、いつの間にやら再び止まりかけている脚に気が付く。

 再度、獣や魔物に襲われても笑えない。
 僕は考える事を一度やめ“記憶“を頼りに人里を探した。

 人里は川沿かわぞいに多く存在する、そして川が流れるのは低い場所だ。
 谷のようになっている場所を探しつつ一直線に山を下っていく。

 獣や魔物の前では僕が即興そっきょうで行えるような隠密行動おんみつこうどうなど意味をなさない。

 かと言ってむやみやたらと音をたてたり、素早すばやく移動するのも良くはない。
 しかし、この森で無事に一晩をせるとも思えなかった。
 此処ここは急いで山を下る、の一択いったくで正解だろう。

 僕は急いだ。
 急いで、急いで転んでケガをした。

 転んだ足元を見てみれば、そこにはしっかりと木の根が見えている。
 あれにつまずいたらしい。

 針葉樹林はいつの間にやら広葉樹林こうようじゅりんへと姿を変え、足元を柔らかい腐葉土が覆い隠していた。

 完全に不注意だった。あせりと疲れで完全に足元がおそろかになっていた。

「いっ!」

 反省して立ち上がろうとすると、足首に妙な痛みが走った。今度はゆっくり角度を上げていく。

 やはり一定の角度まで足首を伸ばすと痛みが走った。

 これは捻挫ねんざというやつだ。
 そう簡単には治らないが、ここでこうして倒れこんだままでいるわけにもいかない。

 日のかたむきは木々に覆い隠され見る事ができない。
 ただ、昼間でも薄暗うすぐらいであろう広葉樹の森は、既に暗闇くらやみが迫っていた。

 と、またしても狼が姿を現す。先ほどの個体と同じかは分からない。
 が、どちらにしろケガをして弱り切った僕は恰好かっこうの獲物に違いないだろう。

 早く歩きださなければいけない。
 分かってはいるのだが、もう足が動かない。

 数日前から何も食べていない腹は空腹を通り越して、吐き気すら覚える。

 のどだってカラカラに乾いて、息と一緒に吐き出される水蒸気すらもしい。

 一日中、緊張きんちょうの中歩き回るのも疲れた。
 それに足も痛い。

「僕が何をしたって言うんだ!悪い事なんて何もしてないのに!ただパパとママと幸せに暮らしたかっただけなのに!それすらも叶わなくて…。挙句あげくてに、こんな、こんなところで…」


 あぁ、もうこれで終わりでも良いのかもしれない。
 痛いのもつらいのもこりごりだ。

 もう終わりだ。全部終わり。
 いいじゃないか、別に、何かやり残したことがあるわけでもなければ希望もない。

 きっとこの狼たちは初めに獲物の首を折って楽に殺してくれるだろう。
 獲物に抵抗ていこうされないための手段。
 相手が利口りこうな狼であったことが最後の救いだった気がする。

 ひと思いにやってよ。
 そう、身を投げ出すと、今までの疲れがせきを切ったかのようにあふれ出してきた。
 もう指一本動かせる気がしない。

「おやすみ」

 目をつぶるとママがそうしてくれたように、自分自身に暗示あんじをかける。
 安心して眠れるおまじない。

 ふと、ママの匂いがした気がした。
 柔らかくて暖かい何かが僕を優しく包み込む。

 腐葉土のせいだろうか。
 それとももう死んでしまったのかもしれない。

 …どちらでも良いか。

 僕はとても安らかな気持ちで意識を手放した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜
ファンタジー
魔法と、魔導科学が進んだ強大な国、グランダメリス大帝国。 俺は、この国を陰からコントロールする秘密組織でエージェントとして働いている。 今回の任務は、豪華客船で行われる密売の現場を探ることだった。 その任務の途中、俺は第三継王家の王女『メリーナ・サンダーブロンド』と出会うことになる。 メリーナ王女は婚約しようとしていたのだが、俺の軽はずみな行動が彼女の運命を変えてしまった。 その後、なんやかんやあり、俺はメリーナ王女に惚れられることに……。 こんなことは、エージェントとしては絶対にあってはならないことだ。 というわけで、俺はメリーナ王女と別れ、二度と会わないよう工作をした。 それなのに、まさか再び出会うハメになるなんて……。 しかも次の任務は、メリーナを大帝王に即位させることだって!? ――これは最強のエージェントが、乙女の恋心に翻弄されながら、過去最難関のミッションに挑む物語である。 ※『ノベルアップ+』、『ネオページ』にも投稿してます。 ※『小説家になろう』『カクヨム』に投稿し、一度完結済みとなった作品です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...