異世界転生 ~生まれ変わったら、社会性昆虫モンスターでした~

おっさん。

文字の大きさ
49 / 172
自立

第48話

しおりを挟む
 「進め」
 「キシシッ!」
 私は今日も、大ムカデの上に乗って、森の中を進む。
 
 この大ムカデを前にしては、私を襲った、あの大蜘蛛でさえも逃げ出す。
 大ムカデに挑もうと言う、虫が現れても、私の糸と、麻痺爆弾の前に無力化され、大ムカデに止めを刺されるだけ。
 私達はもう、この森では、昆虫の頂点だった。

 しかし、上には上がいるもので、私達の次の敵は、哺乳類や、鳥類。爬虫類や、両生類だった。

 ハツカネズミやスズメサイズの生物ならまだ良い。
 私のネットで、動きを拘束出来て、大ムカデの噛みつき毒撃も、致命傷となるからだ。

 しかし、クマネズミ級や、ハト級の大きさともなると、勝てるビジョンが全く浮かばず、挑戦する気にすらならなかった。

 なので、結局の所、何だかの生物に怯え、過ごしている。
 世界は甘く無いのだ。
 
 ……まぁ、それはそれとして。
 私は、今、非常に大きな問題に直面している。
 
 …………発情期だ。
 私は生殖可能な年齢になったせいで、発情期におちいっている。
 
 それの何が恐ろしいかって?
 そんな事、決まっている。家で大切に保管している、ルリの遺体。それを見ると、もう……。めちゃくちゃにしたくなるのだ。

 我ながら狂っていると思う。
 しかし、それは寄生虫としての本能で、理性とは別の物なのだ。

 そもそも、ルリは……私の父親的な存在で、そう言う関係ではない。
 だから、多分、きっと、絶対、本能のせいだ。
 
 今は、ルリ人形を抱きしめる事で、何とか自分を押さえているが、正直、ずっとあの部屋にいたら……。
 
 でも、ルリが生き返って、そう言う事を望んだら……。
 いやいや、そもそも、その想定自体あり得ない。
 で、でも、もし、もしかしたら、復活させてくれた私に、感謝からの、愛が芽生えるなんて事も……。

 私は思わず、ルリ人形を抱きしめて、足をばたつかせる。
 
 「キシィ……」
 大ムカデが、人の頭の上で、発情するなよ……。言いたげに、鳴いた。
 ここ最近、知能の高くなった、大ムカデは、生意気にも恐怖以外の感情も持ち始めたのである。
 それに、私だって、好きで、発情しているのではない。制御できるなら、もうとっくに抑え込んでいる。
 
 「下僕は黙って歩く」
 不機嫌になった私は、大ムカデの頭をポカリと、軽く叩く。
 まぁ、私が本気で殴ったところで、大ムカデの装甲の前には、精々、豆腐の角に頭をぶつけた程度の衝撃だろうが、私の手が痛い。
 
 ……痛いと言えば、そうだ。
 私の入れ物であるはずの人間部分の感覚が、最近、私の感覚器官と共鳴しているのである。
 感覚を切ろうと思えば切れるのだが、無意識に、人間部分の刺激を、自分の刺激のように感じてしまうのだ。
 
 だから、ちょっと、人間の性感帯に触れると……。
 
 「キシィッ……」
 人の頭の上で、変な事をするな。と、言わんばかりに、鳴く、大ムカデ。
 私は、はっとなり、変なところへ向かって伸びていた手を止めると、ルリ人形を抱きなおす。
 
 恥ずかしかった。
 もう、消えてしまいたい程に恥ずかしかった。

 ポカリ。
 八つ当たりと分かっていながら、大ムカデの頭を叩く。
 
 「……シャァ……」
 大ムカデは生意気にも、溜息を吐くと、辺りの散策を再開した。
 
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

「元」面倒くさがりの異世界無双

空里
ファンタジー
死んでもっと努力すればと後悔していた俺は妖精みたいなやつに転生させられた。話しているうちに名前を忘れてしまったことに気付き、その妖精みたいなやつに名付けられた。 「カイ=マールス」と。 よく分からないまま取りあえず強くなれとのことで訓練を始めるのだった。

元救急医クラリスの異世界診療録 ―今度こそ、自分本位に生き抜きます―

やまだ
ファンタジー
12/9 一章最後に番外編『雨の日のあだ名戦争』アップしました。 ⭐︎二章より更新頻度週3(月・水・金曜)です。 朝、昼、夜を超えてまた朝と昼を働いたあの日、救急医高梨は死んでしまった。比喩ではなく、死んだのだ。 次に目覚めたのは、魔法が存在する異世界・パストリア王国。 クラリスという少女として、救急医は“二度目の人生”を始めることになった。 この世界では、一人ひとりに魔法がひとつだけ授けられる。 クラリスが与えられたのは、《消去》の力――なんだそれ。 「今度こそ、過労死しない!」 そう決意したのに、見過ごせない。困っている人がいると、放っておけない。 街の診療所から始まった小さな行動は、やがて王城へ届き、王族までも巻き込む騒動に。 そして、ちょっと推してる王子にまで、なぜか気に入られてしまい……? 命を救う覚悟と、前世からの後悔を胸に―― クラリス、二度目の人生は“自分のために”生き抜きます。 ⭐︎第一章お読みいただきありがとうございました。 第二章より週3更新(月水金曜日)となります。 お楽しみいただけるよう頑張ります!

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...