異世界転生 ~生まれ変わったら、社会性昆虫モンスターでした~

おっさん。

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帰還

第107話

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 「んじゃ、また明日な、ゴブリン」
 「ヴァゥ!」
 いつもの地下室に戻って行くゴブリン。
 コグモと、コグモの腕の中にいた俺は、その背中に手を振って、見送った。
 
 「……今日は充実した一日だったな……」
 一人、噛み締める様に呟く俺。
 それに、コグモも共感したのか「ですね……」と、息を吐き出す様に呟いた。
 
 「…………」
 心地の良い沈黙。
 
 「……行くか」
 俺の声に「はい」と、答えたコグモは、リミアの部屋を目指して歩き出す。
 
 「……そう言えば、コグモの部屋って、見た事ないな」
 俺は部屋繋がりで思い付いた事を、なんとなく口にする。
 
 「わ、私の部屋ですか?……多分、見ない方が良いですよ」
 茶化す訳でもなく、恥ずかしがる訳でもなく、真っ直ぐな声で呟くコグモ。
 
 「な、なんでだ?」
 俺は怖いもの見たさに聞き返してしまう。
 
 「だって……。ほら、私の体って、そう言うので出来てるじゃないですか」
 そう言うのと言うのは死体の事だろうか。

 「そのパーツの保管庫の様になっているので、多分、優しいルリ様には刺激が強すぎます……」
 別に、俺は優しくは無い。ただ、自分の価値観に逆らえないだけだ。
 ……しかし、コグモの言いたい事も分かる。
 
 「なるほどな……」
 俺は否定もせずに呟いた。
 確かに、今の俺には刺激が強すぎるかもしれない。
 
 「……これからは、私も他人のパーツの露出は控えますので……」
 そう言えば、あれからコグモはムカデの尻尾を見せなくなっていた。
 
 「あ、いや、それは良いんだ。……コグモの一部だと思えば、これっぽっちも気持ち悪くなんてない」
 それは見栄や気遣い等ではなく、まごう事なき俺の本音だった。

 「あはははっ……。そう言って貰えると嬉しいです」
 頬を掻きながら苦笑する彼女。
 俺が気を遣っていると勘違いしている様に見えた。
 このままでは、彼女が他人のパーツを使うたびに、俺に気を遣続けてしまう。
 
 「俺は本気だぞ?!試しにさっきの尻尾を見せてみろ!」
 そう言う俺に、コグモは「えぇっ?」と、戸惑いの声を上げる。
 
 「大丈夫だ!いつでも来い!なんなら、俺の治療に付き合っていると思え!」
 俺は真っ直ぐにコグモの瞳を見つめる。
 
 「そ、そう、改めて見られると思うと、恥ずかしいです……」
 軽く頬を染め、顔をそむける彼女。
 
 「そ、そうなのか……。いや、無理強いはしないが……」
 その姿を見て熱が冷めた俺も、顔をそむける。
 
 「で、でもそうですね!ルリ様の治療の一環だと思えば、私、付き合います!」
 彼女の中で、何かスイッチが入ったのか、グッと、気合を入れるポーズをとると、ムカデの尻尾を差し出してきた。
 
 「ど、どうですか?怖くないですか?」
 ムカデの頭部分を慎重にこちらに近付けつつ、質問してくるコグモ。
 
 「あぁ、全然怖くない……。ちょっと、触っても良いか?」
 そう聞く俺に、彼女は「ちょっとだけなら……」と言って、了承してくれた。
 俺は、その言葉に甘えて、ゆっくりとムカデの尻尾に手を伸ばす。
 
 「お、おぉ……。触り心地はムカデその物なんだな……。こう、スムーズに動いていると、生きているように見えて、違和感も無いし……。少し、ひんやりしていて気持ちが良い……」
 優しく撫で回す様に触っていると、コグモが「ピッ!」と、変な声を上げた。
 顔を上げてみてみれば、目をギュッとつぶって、顔を真っ赤にしているコグモ。
 
 「わ、悪い!」
 俺は急いでその尻尾を離した。
 
 「い、いぇ……。私の体、お嬢様にもちゃんと触られたことが無かったので、ちょっと驚いてしまっただけです……」
 そう言う彼女の顔は真っ赤だったが、しっかりとこちらに微笑みかけてくれている。
 これが彼女が頑張ると言っていた、恥ずかしさの克服なのだろうか。
 
 「そう言って貰えると助かる……。まぁ、これで俺が、お前の体の一部なら大丈夫だって事が証明できたな!」
 俺の恥ずかしさを隠す声に合わせる様に、彼女も赤い顔で「はい!」と、元気に答えた。
 
 「さて、早くリミアの部屋に行こう!あんまりほっぽって置くと、あいつ、すねねるからな!」
 空気がおかしくならない内に、俺はコグモをせかす。

 ムカデの尻尾は案外、敏感なんだな、次回から注意しよう……。
 そうは思いつつも、またチャンスがあれば触ってみたいと考える自分を、俺は抑えられそうもなかった。
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