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向上心

第135話

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 「……よし。息はあるな……」
 家の出入り口の目の前でボロボロになり、倒れていたコトリ。
 そのケガは打撲による物が多くみられ、骨折をしている恐れもあるが、何とか生きてはいる様だった。
 
 「ヴワァァァゥ!」
 俺がコトリ内部の損傷具合を糸で確かめていると、背後で、ゴブスケが憤怒の籠った雄たけびの様な物を上げる。
 
 驚いた俺は、コトリの神経を刺激してしまい、その苦しみに終止符を与えてしまった。

 泡を吹いて倒れるコトリ。
 ……大丈夫。生きているはずだ……。多分。
 
 コトリの心臓が動いている事と、体に致命傷がない事を確認し、再びゴブスケの方へ眼をやる俺。
 
 そこには見た事が無いほど、怒りに満ちた表情のゴブスケがいた。
 ゴブリンが小鬼と言うなら、今のゴブスケは本当の鬼に見える。
 
 普段、あんなに穏やかなゴブスケが、ここまで豹変ひょうへんするとは、思っても見なかった俺は、軽く腰を抜かしそうになる。
 
 「ヴァゥグワゥ!」
 ゴブスケの怒りの咆哮に反抗するように、声を上げたゴブリン。
 しかし、ゴブスケの視線に射抜かれた瞬間に、黙り込む。
 
 きっと、ゴブリンは仲間思いで、争いを好まない生き物なのだろう。
 だから、ゴブスケを助け出す為に、皆でここを襲って、その理由がなくなれば、一気に弱腰になる。

 逆に、ゴブスケは、心の底から、俺達を仲間だと思ってくれているらしく、本気で怒ってくれている。
 それはとても嬉しい事に思えた。
 
 「まぁ、ゴブスケ…。じゃなかった、ゴブリン。そんなに怒らなくても良いぞ、コトリは何とかなりそうだ」
 鳥特有の軽く脆い骨のせいか、多少骨折はある物の、俺の糸で内部から矯正し、安静にしていれば、何とかくっつくのではないか。と言うレベルの物だった。
 臓器にも、特に破裂等の損傷はみられなかったし、脳も正常。死ぬような事も無いだろう。
 
 「ヴァゥ……」
 俺の態度を見て、安心したのか、怒りを収めて、申し訳なさそうにして来るゴブスケ。
 そんなゴブスケを見て、今度は、ゴブリン達が安堵したように、力を抜いた。
 
 ……しかし、大事にならなくて本当に良かった。
 でも、そうだよな。この頃は外敵と言う外敵に襲われていなかった為に、完全に気を抜いていた。
 この世界はいつだって、死と隣り合わせなのだ。

 こちらや、あちらに死者が出ていたら、取り返しのつかない事になっていただろう。
 今回は運が良かっただけ、それこそ、次は別の好戦的なゴブリン達が攻めてくるかもしれないし、この世界にいる人間が俺達の生活を脅かすかもしれない。
 
 その時になってからでは遅い。それらに対抗する策も打っておくべきだろう。

 リミア復活の研究に集中できる環境に、コグモが周りを気にせず自分を押し出せるほどの、余裕のある生活。そして、どんな脅威にも抵抗できる対策作りとなると……。
 
 「あ、あれ……?」
 頭がくらくらしてきた。
 ……あぁ、そうか、俺、腹減ってたんだっけ?
 
 そう気づいた時にはもう遅く、コトリの横で第二の死体と化した俺は、そのまま意識を失った。
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