異世界転生 ~生まれ変わったら、社会性昆虫モンスターでした~

おっさん。

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向上心

第153話

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 「行くぞ!ゴブスケ!」
 俺は、木刀を掴んだ片腕を伸ばし、その先をゴブスケに向けた。
 
 「ヴォイッ!」
 それに対して、足首から、頭の先まで防具を身に着けたゴブリンが、両手で一本の木刀を握り、それを体の正面で構える。
 
 静まり返る、河原。
 いつも通りの学習メンバーが見守る中、先に動いたのは俺だった。

 俺は木刀を持っていない方の手首から、ゴブスケの木刀に向けて、糸を射出し、絡めとる。
 後は、こちらに糸を勢い良く引いて、その武器を取り上げるだけだ。
 
 「…ッんだとッ?!」
 予想外にも、ゴブスケは前進を始め、俺の糸を引く力を利用する形で、突っ込んでくる。

 「クソッ!!」
 俺は早々に、武器の収奪を諦めると、バックステップで身を引く。
 しかし、俺の糸を引く力が無くなろうと、ゴブスケの脚力と歩幅から生み出される移動力では一瞬で距離を詰められてしまった。
 
 俺は咄嗟に、木刀を振るうが、ゴブスケの、それも両手の握力で握られた木刀はびくともせず、俺の木刀が、自身の生んだ力の反発力で、はじき返されるだけだった。

 ゴブスケの持った、木刀の先端が、俺の体をとらえて止まる。
 あの、オオカミの時と同じ、勝負は本当に一瞬だった。
 
 「……負けたよ」
 俺は木刀を捨て、ゆっくりと両手を上げる。
 ゴブスケも、静かに木刀を下ろした。
 
 「ウヴァァァ!」「ウヴォォォォ!」
 近くで見ていたゴブリン達が、興奮した様に騒ぎ出す。
 敗者の俺は肩身が狭くなった。
 
 「ゴブスケさん、凄いですね!」
 止めとばかりに、コグモまでゴブスケを褒めだす始末。
 俺は思わず、項垂れる。
 
 そもそも、この戦いは、俺の作った防具装備時の機動力と防御性能を確かめる趣旨しゅしの物だったはずだ。
 これでは走る実験ぐらいにしかなっていない。
 
 ……まぁ、それでも、関節部分を糸で繋げているおかげで、あまり違和感のない動きができていたのは、確認できたが……。
 
 「……はぁ」
 一人、俯き、溜息を吐く俺。

 すると、その服のそでをクイクイと引っ張る感触。 
 顔を上げれば、そこにはクリアがいた。

 「大丈夫。パパ。森の中なら強い」
 どうやら、俺を励ましてくれているらしい。
 
 「クリア……」
 俺は嬉しさのあまり、泣きそうになりながら、その小さな両肩に、手を乗せる。
 
 「パパ、森の中なら、糸をひっかけて逃げ放題。それに、逃げながら、糸をそこら中に引っ掛けて、罠も張れる。
 そもそも、気付かれる前に、糸で殺るのが、パパのスタイル。正々堂々と戦おうとするのが間違い」
 そう言って、俺の両肩に、手を伸ばしてくるクリア。

 俺の真似をしようとしたのだろうが、俺が両肩を抑えているせいで、腕のリーチが足りずに、つま先立ちまでして、全身をプルプルさせている。
 
 それに、クリアよ。その言い分ではもう、俺は卑怯者として生きる道しか残されていないのでは無いだろうか?

 いや、まぁ、確かに、実際の戦いでは、卑怯だろうと何だろうと、勝った者勝ちなのだが、こういう場面では、こう……。空気と言うか……な?

 励まそうとしてくれているのは分かるのだが、色々台無しなクリア。

 「……そうだな。励ましてくれて、ありがとな」
 俺は苦い顔をしつつも、精一杯の笑顔で、その小さな頭を撫でる。
 
 「パパの味方するの。当たり前……」
 表情に乏しいながらも、目を逸らして、少し恥ずかしそうにするクリア。
 そのぎこちない感情表現が、俺の庇護ひご欲を掻き立てた。
 
 最近、彼女は感情と言う感覚を覚えたのか、それを表に出そうと、頑張っている。
 その頑張りが、どんどんと彼女を可愛くさせていた。

 このまま行けば、世界中の男をとりこにする日も違いだろう。
 勿論、そんな男たちは、俺が、どんな卑怯な手を使っても、排除させてもらうが。

 また仮想敵が増えてしまった……。
 これは、いち早く、戦力の増強が必要だろう。
 
 「……よし。お前らも、装備をくれてやるから、どんどん訓練して、どんどん強くなれよ!」
 俺は他のゴブリン達にも防具や木刀を渡す。
 
 彼らは喜んでそれらを受け取るが、その手先の不器用さと、発想力の低さから、防具を着ける段階で、もう既に詰んでいた。
 
 これでは、家の新戦力が使い物になる日は、いつになる事やら……。
 
 「はぁ……」
 俺は、今日何度目になるかも分からない溜息を吐くと、ゴブスケと共に、ゴブリン達への指導を開始した。
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