異世界転生 ~生まれ変わったら、社会性昆虫モンスターでした~

おっさん。

文字の大きさ
156 / 172
向上心

第155話

しおりを挟む
 「よし!終わったぞ!」
 俺がコグモの翼から手を離す頃には、お互い、息が上がっていた。
 顔だけこちらに向けたコグモが、火照った顔で、恨めしそうに睨んでくる。
 
 「そ、そうだな。次回からは止めておこう……」
 俺は、罪悪感と、気恥ずかしさから、顔を赤らめ、両手を挙げると、顔だけそっぽを向かせる。
 
 ……いや、待てよ、俺。これでは俺だけが悪い事をした様に見えないか?
 確かに、俺も悪かったかもしれないが、瞬時に翼を出せない、コグモにも問題がある。
 これでは、非常時に使い物にならないではないか。
 
 「そもそもだな……。その翼、出しっ放しにすれば良いだけの話じゃないか?」
 俺は素早く背中に翼を生やしながら言う。
 それを見たクリアも、真似る様に、無言で、スッと背中から翼を生み出す。

 「これぐらいの速度で出せないと、襲われたとき、使い物にならないぞ?」
 俺の声に、分かっているのか、いないのか、クリアもコクコクと頷いた。
 
 「…………」
 さらに視線を鋭くし、睨んでくるコグモ。
 しかし、反論の余地はないらしい。
 
 「……だって、その……。出しっ放しは、くすぐったいんですもん……」
 その内に、そっぽを向きながら、小さくつぶやくコグモ。
 いじけた子どもの様だった。
 
 「くすぐったいって、お前なぁ……。緊急時に使えない方が困るだろ?」
 
 「翼を生やしていても、感度から何から、自由に変えられる、ルリ様達には分からないんです!この、こそばゆさが!」
 こちらに向き返り、怒るように、訴えてくるコグモ。

 確かに俺達は、感度から形状、密度まで、ある程度、自由に変えられる。
 しかし、コグモの背中に生えている翼は、コグモが、死体のパーツを操るとき同様に、俺が作り出した翼と言うパーツを、コグモの神経に直接つないだだけの物なので、感度も形も質量も、本人は動かすこと以外、一切の操作ができないのだ。
 
 「……んな事言ってもなぁ……。こればっかりは、くすぐったさに、慣れてくれとしか言えないっ!!!」
 コグモが、暗い表情でニヤリと笑った途端、俺の体に衝撃が走る。
 内側から、虫が這うような、気持ち悪さと、くすぐったさだ。
 
 「こ、コグモ……。お前、まさか……」
 俺の問いに、コグモは答えない。
 
 代わりに、いつもの笑顔に戻ると「翼の感度、最大にしてくださいね」と、笑顔で注文してくる。
 
 「そ、そんな事したって、何のメリットもっ!!」
 俺は力が抜けて、ひざから崩れ落ちる。
 
 「一緒に翼の感度に慣れていきましょう?」
 膝をつく俺に視線を合わせるようにして、近距離でしゃがみ込んでくる、コグモ。
 もちろん、その笑顔は、悪寒を覚えるほどの、百点満点だ。
 
 「……それとも、こちらに慣れる方が良いですか?」
 コグモはムカデの尻尾を引きずり出し、その無数の足に抱え込まれるルリちゃん人形を見せつけてきた。
 
 「ッ~~~……!!」
 彼女が、その小さな手で、ルリちゃん人形を優しく撫で上げる。
 それだけで俺は、心臓を舐められたような、なんとも言えない気持ち悪さに、辺りをのたうち回った。
 
 「……あら、ごめんなさい。私、これが、どれ程の感覚なのか分かりませんので……」
 わざとらしさ満載に、顔を背け、申し訳なさそうな顔をするコグモ。
 
 「でも、もしかしたら、ルリ様が、私の翼の感覚が分からないのと、一緒かもしれませんね!」
 そう言うコグモは、罪悪感など一切感じさせない、花の咲いたような笑顔だった。
 
 要するに、俺が、人の苦しみが分からないなら、私も、分からないわ。とでも言いたいのだろう。

 悪魔だ……。ここに悪魔がいる……。
 俺の知っている可愛いコグモはどこへ行ってしまったのだろうか?

 あの、ルリちゃん人形を要求して来た件を皮切りに、たまに、こうやって、過激な事をしてくるのだ。

 その姿は、駄々をこねる様で……。
 わがままを言ってくれる程度には、俺自身、コグモの信頼を得て来ており、生活や、心にも余裕が出てきた証拠なのだろう。
 
 それは嬉しい。確かに嬉しいのだが……。
 もっと、こう……。要求の仕方がソフトにならない物だろうか?
 
 ニコニコと笑う彼女は、精神的にも物理的にも、俺の小さな心臓を掴んで離さなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...