かみクズカゴ。

おっさん。

文字の大きさ
20 / 32

「無意味な一生」  (お題:リンゴ・大学・ゲーム)

しおりを挟む
 「…」
 日が傾き始めた帰路きろの途中。
  突然目をした光に、眉をしかめる。

 何事かと思い、光を追えば、頭上にる赤い果実が目に入った。
 リンゴである。

 その大きく、赤い実は、丁度沈みかけていた日の光を受け、燃え盛る炎の様な、それでいて宝石のような輝きを見せていた。

 …鬱陶うっとうしい。
 そんな私の視線を嘲笑あざわらうかのように、リンゴはよりいっそ、紅く光った。

 「…なんてね…」
 リンゴがそんなことを思うはずがない。ただの被害者妄想だ。

 そう。被害者妄想。
 相手がこちらを嘲笑っているなんて。
 相手はこちらの存在を認識してすらいないというのに。

 気に留めて貰えているなどと、思い上がった末のうらみ。
 恨み、うらみ。うらやみ。

 そう、ただの羨みなのだ。
 そんな思いをリンゴにぶつけている私はどれだけみじめなのだろう。

 「それでも…」
 私は手を伸ばす。
 その光を地に引きずり降ろしてやろうと、手を伸ばす。

 「あ…」
 そして、思いの外簡単に、その輝きを私はもぎ取った。

 「…」
 赤い実は私の影におおわれ、もう光ることはない。

 リャリッ
 私はさぞ美味しかろうと、その実をかじる。

 次の瞬間、口いっぱいに広がるのは、無味。
 甘味を期待していた口内を、空いたその果肉が乾かしていく。

 「ペッ!」
 私は驚き、果肉を吐き出す。

 信じられないという感情。
 口の中に残るザラザラとした果肉の残りだけが、その現実を私に教えていた。

 今一度、齧ったその実を夕日に照らしてみる。
 が、やはり、齧られた部位すらも芸術的に見える程、その見た目は美しい。

 私が吐き出した果肉は、これほどみにくい姿を路上にさらしているというのに。

 「…」

 無意味だ。

 私はやぶの中にリンゴをほうる。
 その内にリンゴはその身を腐らせ、醜い姿を晒しながら土にかえるのだろう。

 そう、すべては無意味なのだ。
 …私の人生も含めて。



 彼女は考える事を放棄し帰路に着く。

 数十年後、この場所に立派なリンゴの木が生えていると知ったら、彼女はどう思うだろうか。
 いや、そもそもリンゴの種が無事に育つ保証もないし、彼女がこのリンゴの木の事を覚えている保証もない。
 見る保証も感じる保証も無いのだから、考える事すら無意味だ。

 「だけど…」

 「そんな無駄な事を考える事が面白い…だろ?」
 僕の後ろから、先輩が声を掛けてきた。

 「またノベルゲーム作ってんのか」
 先輩が僕のPC画面をのぞき込む。

 「や、やめてくださいよ!勝手に見ないでください!」
 僕は覆いかぶさるようにPC画面を隠すと先輩をにらんだ。

 「いいじゃんか。どうせ、ゲー研の課題なんだから、提出するんだろ」
 そんなことを言って僕の隣の席に座った先輩は大学4年生。もう半年もすれば立派な社会人だ。

 「ほんと。俺たちの人生って何なんだろうなぁ~」
 先輩が椅子の背もたれに体重を預けながら、り返るように天井をあおぐ。
 僕のゲームを見て思うところがあったのだろうか。

 「っていうか、全部見てるじゃないですか?!いつの間に?!」
 先輩は「ちょこっとな」と言うと、人差し指を立て空中でくるくると回す。
 この人は本当に謎な人だ。
 まぁ、考えるだけ無駄なのだろうけど。

 「あぁ。無駄さ」

 先輩の言葉に僕は驚き、振り返る。

 「でも…。無駄でも、楽しいもんは楽しいだろ?」
 先輩は席を立つと、僕の頭をクシャクシャっとでて、笑った。

 「人生は楽しんだもん勝ちだ。全部無駄なら楽しもうぜ」
 そう言うと先輩は笑い声を上げながら教室を去っていく。

 僕はその背中を見て…。

 「…ふふっ」

 小さく笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...