百合の匂い

青埜澄

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3-2話

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 修が皿を平らげると、突然スマートフォンのカメラを佑へ向けた。蛍光色の黄色いケースには、流行りのアーティストのステッカーが挟まっている。
「え、なに」
 顔を上げた瞬間、シャッターが切られた。
 修は画面を確認してふっと笑い、そのまま佑へ向けてくる。
「佑の話を大学でしてたら、どんな人か見せてって言われてたの思い出してさ。佑、SNS全然やらんやん?」
「それで写真撮ったん?」
「そう。ほら、一個上の彼女作るチャンスやで」
「…修って一個上やっけ?」
「忘れてたんかい」
 そんなやりとりをしながら、佑は言われるままにいくつかポーズを取った。
 最中、その写真にあーだこーだ言われる未来を想像して少しゾッとした。けれど──どうせ知らない誰かに見られるだけだ。
 そう思おうとした。けれど、その「誰か」の中に修が含まれていることを、佑は意識しないようにした。
「じゃあ最後、ピース」
 佑はやる気なく、机の上に指先で小さなピースを置いた。
 しかし修はカメラを構えたまま、じっとしている。
「え、もういい?」
「もっと元気にピース!笑顔で!」
 仕方なく投げやりに「ピース!」と笑顔を作ると、しばらくして修が噴き出した。
「佑、これ動画」
「はぁ?もう、なんなん?」
 頬がじわりと熱を帯びる。スマートフォンを取り上げようと身を乗り出したところで、店員が「お下げしてよろしいですか?」と声をかけてきた。
 その店員の冷ややかな目に、佑はさらに居たたまれなくなった。
「……その動画も大学の友達に見せんの?」
「いや、これは俺の」
 修は淡々と言うと、伝票を持って立ち上がった。
 その言葉の意味を蒸し返すこともできず、文句も言えないまま、車で家まで送ってもらうことになった。

 帰り道、ふいに修が言った。
「でもさ。素直なやつ連れて来てよかったわ。余計なもん買わずに済んだ」
「役に立てたんならよかった」
「佑は?折角の半日休みを俺に使ってさ。笠松さんじゃないけどさ、大学の友達とは遊ばんの?」
「……休日まで会う人はおらん」
「ドライやなぁ」
「そうかもなー」
 自分でも驚くほど、その言葉は軽く出た。
 ──大学での俺のこと、聞いてくれる?
 そんな言葉がふと浮かんで、すぐ消えた。
 窓に映った自分の顔を見た瞬間、胸の奥がじんわりと緩んだ。
「今日は楽しかったな」
 
 翌週の土曜日。ロッカーで修を見つけた佑は、無言でシャツの裾を広げて見せた。
「お、早速着てるやん。似合ってる」
 そう言われて、佑は顔を綻ばせた。
「俺も」
 修は、あの日買ったスニーカーを見せてきた。
「そういえば佑の写真な、好評やったで。会いたいって言う子もおる」
「え……」
 佑が動揺するより早く、修が続けた。
「ただその子、前に二股かけとったって噂あるから俺はオススメせーへん」
 年上の彼女、という言葉にほんの少し期待していただけに、胸の奥がざらついた。
 ──もしかして修、最初から俺に彼女を作らせる気なんてなかったんじゃないか。
 そんな疑いまで生まれた。
「…なら断る」
 文句の一つでも言ってやろうと口をもごもごさせていると、近くにいた笠松が気軽に声をかけてきた。
「二人とも最近さらに仲ええよな~」 
「この前一緒に遊びに行ったんすよ」
「へぇ~いいなぁ」
「今度三人で飲み行きましょう。佑がもうすぐ誕生日なんで」
 その言葉に自分がもうすぐ二十歳になることを思い出す。誕生日が少し楽しみになった。
 勝手に約束を取りつけた修に「はよしろ」と呼ばれ、佑はいつものように作業場へ向かった。
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