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第一章 勇者を目指して!
高峰恭也≒アドルフ・ルイ・シャヴァネエ
しおりを挟むああ、死んじまったか。もうちょっと死ぬって怖いもんだと思っていたぜ。
俺?俺の名前は高峰恭也。死んだら名前もクソもないもんだが、取り敢えず今言えるのはそれだけだ。高校二年生十七歳。でも、妙に達観してるところがある。
というのは傲りだったらしい。「死ぬなんて痛みさえなければ辛くねーだろ」とか思ってた俺は、死んだ直後、真っ先に起こしたのはパニックによる絶叫だった。なにせ、気付いたら誰もいない広い広い空間、とにかくだだっ広い闇の中に放り出されて、頭の中にあるのは死の実感、体感しているのはいやな寒さだけ。叫んで、叫んで、それから泣いて、叫んで、叫んで、そうしてようやく冷静になった。まったく、死ぬってのは嫌なもんだぜ。でもなんとなく気付いたこともある。
「死ぬってのは思いの外怖くねえんだ。ほんとだぜ。」
誰にともなく呟いたが返事なんかありゃしない。たりめーだよ、馬鹿野郎。誰もいないんだから。
寂しいっちゃ寂しいし、暇っちゃ暇だ。一応生きてるときは、泣き叫べばなにかアクションが返ってくる。世界の中に俺がいる。けど、ここでは俺しかいない。でも、一方でなんとなく落ち着いている心。死後の世界では執着が消えるのか?
「いや、そんなことはない。中にはずっと人間関係に執着するものがいる」
「へー……って誰だおめぇ!?」
びっくりした。おい、さっき誰もいない孤独感に浸ってたところなんだぞ。いきなり出てくるなよ。
俺はあちこちを見回したけれど、やっぱりただの無の世界だ。声がしそうなところなんてどこにもないし、人がいる気配もなにもない。……いや、『人』なのか?
「私は人ではない。これは声でもない。強いて言うなら、そう、"意志"だ。少年、朗報だぞ。もう一度だけチャンスをやろう」
「い、意志ってなにさ。もしかしてあれか? 神様的存在?」
「ふむ、神。良い概念だ。そう、私は例えば神である」
その瞬間、俺の眼の前に茫洋とした光が現れた。と思ったら、それは水に映る月を引っ掻き回したみたいに自由に歪んで、捻れて、だんだんと人の形をそなえた。
「偶像といえば、こんな姿だろう。何に見える?」
「なにって、人形の光?」
「ほう、光か。神と言う割には信仰心がない。興ざめだ。用件だけ伝えてやろう」
なんだよこいつ。会話のキャッチボールをしろ。
「さて、少年……貴様にはもう一度機会が与えられる。それは意志によって与えられる。貴様はそれを享受する。私は少年が望む形の機会を与える」
「機会?」
「意志を神とするならば、機会は人生である。少年に人生が与えられる」
人形の光がそう言うと、ふいに暗い空間がほの明るくなった。ろうそく程度の小さな灯だが、暗闇に慣れた俺の眼には眩しいくらいだった。
「機会は意志が与える。人生は神が与える。法則に従い、魂を肉付けする。名前は定まる。今、名前は忘れ去られる」
名前?
……あ。俺、なんて名前だっけ。
「少年の名はアドルフ。アドルフ・ルイ・シャヴァネエ。アドルフに人生を与える」
アドルフ。そうだ、多分俺はアドルフって名前――
「ぐおっ!?!?」
なんだなんだ急に。今鳩尾がぐいっと引っ張られるような感覚だったぞ。
「機会には恵みを要するだろう、アドルフ。名前以外の全てを持っていくが良い」
なに言ってんだこいつ、いいから早くこの気持ち悪い感覚をどうにかしてくれ。口を開いたが、水槽の金魚みたいにぱくぱくするばかりで声が出ない。どうなってんだ!?
「産み落とされろ。……今すぐに」
俺は必死に抵抗し、逃げようとした。が、なんだかなにもない空間をけるような感覚で一歩も勧めない。下を見た。怪物の口みたいな大穴が、俺に向かって開かれていた。
ようやく、声、が、
「ああああああああああああっっっっっっ!?!?!?!?」
何が起きたのか、結局なんだったのか、なんの意味があるのか、これからどうなるのか。
よく分からないまま俺は穴の底へと落ちていった。
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