うっかり喚びだしたのはスーツの邪神でした。

イワキヒロチカ

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続・うっかり喚び出したのはスーツの邪神でした。

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 おかしい、さっきまで自分は、よれたTシャツにハーフパンツという、ごく普通の格好をしていたはずだ。
 いつの間にこんなことになってしまったのか。
 ……夢?もしや、またあの変態の催眠術だか何だかで夢を見せられているのか。
 確信を持ちかけた時、脳内に直接声が響いてきた。

『何を叫んでいる?それがニンゲンの剣闘士のトラディショナルなスタイルではないのか?』

 やはり奴の仕業だった。
 まどかの額に青筋がビシッと浮かぶ。
「剣闘士って普通ローマのコロッセオのアレとかなんかそういうのだろ!こんなビキニなウォーリアー二次元にしかいねえよ!」
 この男と出会ってから、口が悪くなったとまどかは痛烈に感じている。
 だが、脳内に直接話しかけられるなどというおかしな事態をもスルーして入れたキレ気味のツッコミにも、自称・神はしれっと返すばかりだ。
 
『そうか。ニンゲンの衣服などどれも似たようなものに見えるからな』

 何を着てても同じなら尚更こんな格好にする必要毛ほどもないだろ。

『お前の体は貧相だし、女の格好の方が、半人の奴らも興奮するだろう』
 奴ら、というのが階下のヒレを生やした半魚人のような生き物のことだとすぐにわかった。
「あいつらは…一体何なんだ…」
『私の眷属だ。己が神の降臨に狂喜している』
 その言葉には、何かぞっとするものがあった。

 これは、奴の見せている悪夢だ。
 邪神なんているはずもない。
 こんなことがあるはずがないのに、九頭龍の言葉にはおかしな現実感があった。
 ここには湿度がある。篝火の熱。魚人達のひしめく下方から押し寄せてくる生臭い臭い。触れる鎧のひんやりとした質感。
 夢のような曖昧さも、バーチャルの人工感もない。
 だが、これが現実だとしたら?
 …そんな悍ましいことを、認めてはならない。

「っな、んで…こんなところに、俺を連れてくるんだよ」

 震えを誤魔化すように、グッと拳を握って問いかけると、何故とは?と意外そうな返答があった。


『私の神らしいところが見たかったのだろう?』


 違うそうじゃない。


「いや、違う。あれはただの皮肉っていうか、確かに神らしいところを見せろっていう気持ちはあったかもしれないけど、単に雨を止めてくれれば……待て、この流れで俺は何で間違った剣闘士の格好を?」
『無論、神殿での剣闘士の役目といえば、血の奉納だろう』

 理解を拒むような言い分に、文句を言おうと開いた口は、ズン!と何かが背後に落ちてきた衝撃で凍りついた。

 あ、これは、振り返ってはいけないやつだ、とどこか冷静に考える。
 ホラー映画などは、登場人物が振り返った瞬間が一番怖い。
 ただ、多くの人がそうせずにはいられないように、まどかもまた見ずにいることにも耐えられなかった。
 恐る恐る、やや距離を取るように振り返ると、そこには。

 ……そこには、一般的に『スライム』と称される不定形のぶよぶよした巨大な塊が、鎮座ましましていた。
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