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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ
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しおりを挟む頭上には満天の星。
見渡す限り咲き乱れる四季折々の花。
風が吹き、真紅の薔薇の花びらが、刹那、万里の鼻先で踊り、気まぐれにまたひらりと飛んでいく。
……ここは、一体どこなのだろう。
ティータイムに付き合えと言われ、案内されたのがこの広大な庭園だった。
三角頭巾たちとの衝撃の出会いの場所から、そう移動したわけではない。
少し歩いて、目の前の男がパッと開けたドアが、この場所に繋がっていた。そんな感じだった。
地下にこんな場所を作るのに、どれだけの費用がかかるのだろう。
そして、今は冬で、温室といえるほど暖かくもない(ジャケットを羽織っていてちょうどいいくらいだ)のに、こんなに花が咲いているのも何だか変だ。
空がある…ように見えるが、実はあの時エレベーターで下ったのではなく上がっていて、ここが最上階の空中庭園だったにしても、夜になるほどの時間は経過していないはずで、何が何やらわからない。
VRかなと思う。ゴーグルは、してないけれど。
恐らく自分にはわからない最先端のバーチャル的な何かだと結論づけ、万里はこの空間についてそれ以上考えるのをやめた。
今考えるべきは、如何にして父と二人、ここから生還するか、だ。
庭園の東屋で、『ドウシ様』は手ずから紅茶を淹れてくれる。
格好や口調はアレだが、妙に紳士的な人物だ。
万里が礼を言って受け取ると、自らもカップに口を付ける。
美味しかったらしく、完璧だなと口角を上げた『ドウシ様』は、上機嫌のまま話しかけてきた。
「そういえば聞いていなかったが、貴様の名は?」
「万里…です」
父の名前も伝えてしまったのだから、自分だけ偽名を名乗っても仕方がないだろうと素直に答えた。
「そうか。我が名は九鬼紅蓮。暗黒の夜明け団の創始者にして、我が主の声を聞き、民衆に伝える神子であり導師である」
つまり、一番偉い人ということなのだろうか。
いきなりラスボスとエンカウントなんて、不運すぎる。
どう反応していいかわからず、万里は曖昧に微笑んで、カップに口をつけた。
「……………………。あの、導師様というのは、普段は何をしてるんですか?」
あまり関わりたくはない。
けれど、ただ黙っているというのも気まずいので、『SILENT BLUE』でのことを思い出しながら、対話を試みることにする。
当たり障りの無い話題を振っておけば、相手の振ってくる話題よりは話しやすいかもと考えながら。
「普段……?……ふむ、我が主に仕えるに相応しくあるよう、研鑽を積んでいる時間が最も長いな」
「それは、何か修業的なことですか?」
「修行か。無論、そういった要素もある。我が主より与えられし力を、より巧みに行使できるよう修練をする時間も大切だからな」
そうなんですね、と頷いてはみたものの、何を言っているのか全然わからない。
『我が主』は一体どういう存在なのだろうか。
教義について聞いてみたい気もしたが、そしてそれは相手の好感度を上げるかもしれないが、入信を迫られても困るので、文字通り触らぬ神に……というやつだろう。
これは駄目だと違う話題を探していると、九鬼は焼き菓子の乗った皿を万里の方に寄せた。
「ほら、遠慮せずに菓子も食うがいい。甘いものが好きそうな顔をしている」
「……お、俺はそんなに子供に見えますか?一応……成人はしているんですが」
そんなことはわざわざ教えなくてもいいことはわかっている。
子供だからと見逃してくれたのだから、黙っていればいいのだ。
だが、どうしても聞かずにはいられなかった。
万里のどこが、そんなに子供っぽいのか。
「俺が言っているのは、肉体の年齢の話ではなく、魂の話だ」
「……魂」
もしも「大人だというのなら容赦はしない」と言われたらどうしようという心配は杞憂だった。
杞憂だったが、相変わらず言っていることがよくわからない。
戸惑う万里に、気持ち身を乗り出した九鬼が問いかける。
「貴様には、命を懸けて守りたいものはあるか?」
ちろり、と、九鬼の瞳に炎が見えたような気がして、その奥を深く覗いてしまう。
引き込まれてしまいそうだ。
「俺は、守るべきものに己の全てを捧げられる覚悟を持つもの以外は、幼き魂とみなす。貴様からは、それが感じられなかった」
それは、「好きな人のために何かしたい」と言った父の覚悟のことなのかもしれない。
子供のような父親だが、大竹との一件で危険な目に遭った時も、迷うことなく「自分はいいから、息子を助けてほしい」と言っていた。
万里だって、久世のそばにいたいと決めた時、覚悟を決めたと思っていた。
それでは足りなかったというのだろうか。
「どうしたら…、その覚悟は、決まりますか?」
「決めようなどと思い、決められるものでもないだろう。信じろ。愚直に。己が信ずるものを」
「それは……、」
「……導師様、お話中のところを申し訳ありません」
音もなく現れた三角頭巾が、九鬼に耳打ちをする。
九鬼はわかったと頷き、万里に向き直った。
「喜べ。お前の父が見つかったようだ」
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