いじわる社長の愛玩バンビ

イワキヒロチカ

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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ

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 それでどうして日比谷にいるんだと聞かれたので、万里は昨日からの経緯を説明した。
 予想できた事態だったのか、知っていたのか、「危ないことはするな」と嗜められるようなことはなかったが、何がそんなに可笑しかったのか、話を聞き終えてからも久世は笑っている。
「それは大変だったな」
「いや、笑い事じゃないんですけど!?」
「すまん。笑う所しかなくて。鈴鹿さんは相変わらず飛ばしてるな」
 こっちは、悪(かもしれない)の秘密結社に潜入することになってしまって生きた心地がしなかったというのに、失礼な感想だ。
 そういえば昨日話してくれた時も、「結社には絶対に近づくなよ」と強く念押しはされなかった。
 久世には何か、『暗黒の夜明け団』が危ない組織ではないという確信があるのかもしれない。

 笑いをおさめた久世が、それで、と興味深げな視線を寄越す。
「総統閣下はどうだった?」
「総統閣下?」
「九鬼紅蓮のことだ。月華のオフィスではそう呼ばれてる」
 神導が勝手につけたあだ名ということか。
 あの格好は、言われてみれば確かに『導師様』よりも『総統閣下』の方がハマっている気がする。
 むしろハマりすぎて、もう会う機会はないと思う(思いたい)けれど、次にあったらうっかりそう呼んでしまいそうだ。

 しかし改めて「どう」と問われると、なんと説明したらいいのか。
 謎の地下庭園での彼の言葉の続きを聞きたくなかったといえば嘘になる。
 だが、あれ以上あの空間にいたら、大幅に正気がすり減ってしまいそうなので、やはり中断されてよかったのだろう。
「ちょっと変わった衣装だったし、言ってることもちょっと意味わからなかったけど……、変わった人だったな」
「なるほど。変わっているのだけは伝わった」
「あんたは、会ったことないの?」
「月華の取引相手だし、界隈では有名人だから顔や組織については知っているが、直接話しをしたことはないな。総統本人は、あまり社交的な場所にもでてこないし」
 そんなものかと頷きかけて、唐突に文句を言わなくてはならないことがあったのを思い出した。
「そんなことより、あそこの地下、三角の頭巾?目出し帽?みたいの被ってる人がいっぱいいて、全然普通のサロンじゃなかったんですけど!」
 聞いた久世がぶはっとふきだす。
「マジか。いや、そこまでとは知らなかったな。いや~俺の取引相手じゃなくてよかった。会うたびに笑いをこらえるのが大変そうだ」
 他人事過ぎる。
 彼らと恐らく真面目な話をしているだろう神導に、万里はそっとエールを送ってしまった。(余計なお世話だろうが)

 飲み物がなくなると、店を出た。
 久世が車を停めていたのは、ここからすぐ近くにあるビルで、どうやら知り合いの持ち物らしい。
 知り合いの持ち物というか、そもそも久世が世話した物件らしく、空いていれば停めていいと言われているのだという。
 近かったためすぐに着いてしまい、駐車場に続くエレベーターで地下まで下りる。
 先程のことを思い出し、憂鬱な気分になりかけたが、すぐに久世が「夕飯はどうする?このままどこかで食べて帰るか」と、万里が元気になる話題を振ってきたので、暗い気持ちは吹き飛んだ。
「この時間なら、その方が楽かな」
「リクエストは?」
「……肉……」
 万里は元々、肉が好きだ。
 断じて、父のビフテキが羨ましかったわけではない。

 しんとした地下駐車場に、二人分の足音が響く。
 すっかり見慣れた久世の車が見えてくると、隣を歩いていた久世が、何かに気付いたように突然足を止めた。
 そして、万里に何かを言いかけ…、

「動くな」

 低い声。
 一瞬、誰に向けられたものかわからなかった。
 思わず見上げた久世の鋭い視線の先には、見知らぬ男が立っている。
 その男は、こちらに銃のような物を向けていて、……万里は恐怖を感じたのだと思う。
 怖かったので、脳内で防衛規制的なものが働いたのだろう。
 万里は、凶弾の飛び出してくる銃口ではなく、全く別のところに釘付けだった。

 銃を持った男の、頭部。
 天辺の尖った目出し帽をかぶっている。

 ってこのシルエット、暗黒の夜明け団のアレに似てるんですけど!?
 今、流行ってるのコレ!?

 万里の脳内に、己の絶叫が響いた。
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