いじわる社長の愛玩バンビ

イワキヒロチカ

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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ

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 唐突すぎる久世の謎の口上に、万里は引き攣った表情で固まることしかできなかった。
 何を言っているの?と視線で問えば、『任せとけ』とでもいうような、自分の行動に一切疑問を覚えていない力強い笑顔が返ってくる。

 え、やぶれかぶれとかじゃなくて、会心の作戦行動なのこれ?
 いくら何でも、そんなもの信じるわけが……、

「まさか……」
「こんな平凡そうな奴が、肉体を持つものが到達できる最高位と言われるアデプト…だと…?」
「だが、いともたやすく同志のバッジを手にしているのだ。あるいは……」


 あ っ た 。


 あからさまな嘘でざわつく男たちに、万里は白目になった。
 なんでだよという気持ちしかない。
 (恐らく)数々の修羅場をくぐってきた久世のやることなので、万里などには及びもつかない深謀遠慮の末の策なのかもしれないが、こんな無駄な大風呂敷を広げて、どんなオチをつけるつもりなのか。
 自分で言うのもなんだが、振られたところで役者は万里である。
 そもそも、『暗黒の夜明け団』で授けられる奥義とは、どんなものなのだろう。
 久世のせいで万里に奥義を授けたという設定になってしまった九鬼のことを思い返してみる。
 印象的すぎる衣装だとか、芝居がかった口調だとか、あと紅茶は美味しかったとか、そんなことしか思い浮かばない。
 誰だって、ない袖は振れない…が、やるしかない空気ではある。
 肝心なところはファジィにぼやかしつつ、『あでぷと』らしいふりをすれば、久世がフォローしてくれるだろうか?
「(ていうかそもそも『あでぷと』ってなに!?意味が分からないんですけど!?)」
 その憤りをぶつけるしかないと、万里は苦悩の表情で重い口を開いた。

「やめろよ……!俺はそんな、アデプトなんて胡散臭いものじゃない!ただの一般人だよ!」
「そう思っているのは、お前だけだ。お前こそ、選ばれし者なんだ」
「俺はあんな力…望んでなかった。あんな、恐ろしい……」
「お前になら、使いこなせる。そう信じたからこそ、導師様も……」

 何だろうこの茶番。
 咄嗟に思いついた、万里が『暗黒の夜明け団』についての知識が乏しいことに齟齬が出ない『突然巻き込まれた潜在能力高めの一般人』設定だったが、即座に乗ってくる久世はすごいと思う。
 どこかで聞いたようなベタな会話をどう捉えたのか。男たちはこちらを見てひそひそと話をしている。
 「やはり……」「いや、その結論はまだ早い」「だが、本当に奥義を使えるのだとしたら?」「あの力は、導師様だけの……」等々、時折聞こえる言葉から推測すると、どちらかというと信じる方向で話を進めているようだ。
 本当に、奥義とは何なのだろう。

 しばらく推移を見守っていると、話し合いは終わったらしい。
 リーダー格の男が万里の前に立つ。
「貴様がアデプトだというのなら、力を見せてみろ。黄泉の神より賜りし、神の力を」
「……、」
 まあ、そう来るよな。
 どう答えたものか、そんな力はないのでやりたくないとごねる以外の選択肢はない。
 思案していると、久世が先に答えた。
「お前たちみたいな、バッジすら持っていない雑魚に見せてやるようなものじゃない」
「貴様には聞いていない!」
「ッ!」
「……!」

 何かが破裂するような大きな音が響いた。

 耳がキンとして、音が遠い。
 一瞬何が起きたのかわからなかったが、目の前の男が久世に向けて発砲したのだと気付き、慌てて隣を確かめる。
 目が合うと、久世は大丈夫だというように笑った。
 それが本当なのかどうか、血が噴き出しているようではないものの、万里の位置からは久世の全身は見えない。
 ここにきて、あの銃が本物で、いつでも自分達を殺せる凶器なのだということを、ようやく実感した。
 我ながら、遅すぎるとは思う。
 以前、大竹との一件でナイフを突きつけられたときは、すぐに死に結びつく恐怖を感じた。
 今回は久世がそばにいたから、そしてあまりにも万里の日常と遠いものだから、どこか現実感が薄かったのだろう。
 日本では、発砲の瞬間を見ることなんてほとんどない。
 今更ではあるが、この現状に震えが走る。
 久世は本当に大丈夫だったのか。
 あんなことを言えば、証拠を求められるに決まっているのに、変な嘘をつくからだ、と怒ってやりたい。
 ……そもそも万里が、父を止められなかったせいでこんなことになっているのだから、久世がその身を危険に晒す必要なんてないのだから。

 相手はこんな風に、簡単に発砲するような奴らだ。
 久世は、バッジを渡したところで無事に解放してもらえないことを察していて、時間を引き伸ばそうとしていたに違いない、と、これも遅まきながら気付いた。
 久世は神導にとって重要な人間のはず。
 時間さえ稼げれば、絶対に神導が動く。
 それが今、二人揃って無事生還することへの最も確実な道のような気がした。

「……どうやら、ただのブラフか」

 万里は、一瞬恐れを忘れて銃を持った男を睨んだ。
 これ以上、発砲させないようにしなくては。
 そう決意したところで、何か名案が浮かぶわけでもない。
 どうして自分には、何の力もないのだろう。
 秘密結社の奥義を極めるなんて、絶対に御免だけれど、今は、そんな力でもあればよかったのにと思う。
 何でもいい、この状況を打破できるような、何か、

 そう、強く願った時。

 地響きと共にドンッと大きな音が響き渡った。
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