不器用な初恋を純白に捧ぐ

イワキヒロチカ

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「ましろ」

 そっと肩を揺すられて、自分が寝てしまっていたことに気づいた。
「ん……ちー……さま……?」
「起こしてすまない。俺はそろそろ戻る」
 目も開かないままほとんど夢うつつで返事をしたが、『戻る』という言葉にハッとする。
「……あ、お、起き…ます……」
 一度寝てしまうと、寝起きの悪いましろは中々覚醒しない。
 それでも何とか起きようと、もぞもぞ身じろぎするのを天王寺に押し留められる。
「すぐに行くから、寝ていていい。……………………、」
 天王寺は続けて何かを言いかけたが、言葉を呑み込み、さらりとましろの髪を撫でた。
 その手の優しさに、完全に覚醒しきっていないましろは無防備にうっとりと目を細める。

「また、連絡する」

 そう言い残し、天王寺は部屋を出て行った。
 一人になり、あたたかいベッドの中で、ましろはその言葉を反芻する。
 玄関先であんな風に取り縋ったからだろうか。聞いたことへの答えはもらえなかったが、天王寺は「店で」ではなくて「連絡する」と言ってくれた。
 微かな変化に、彼も少しくらいは自分との時間を望んでいるのではないかと期待してしまう。
 ……伝えるべきことを伝えられていない卑怯な自分には、期待する資格などないのに。
 せめて、自分といることで天王寺にも何か得るものがあればいいのだが。

 悩んでいたら、少しずつ目が覚めてきて起き上がった。
 窓の外はもう暗い。驚いたが、時計を見るとまだ七時前で、あれからそう長いこと寝ていたわけではないようだ。
 服は着ていないが、身体は綺麗に清められている。
 後始末をさせてしまったのかと思うと、恥ずかしさと申し訳なさでいたたまれない心地になるも、よく考えてみればそれもすでに二度目で、一度目はそんなことを考えられないくらい混乱していたのかと己の鈍さが身に染みた。
 天王寺を受け入れていた場所に違和感はあるものの具合は悪くないため、椅子の背に無造作に掛けてあった服を身に着けると寝室を出て、広いリビングの窓の近くに置いてある植物のそばへと移動した。
 窓際のグリーン用の棚にはポトスやモンステラなど、大小いくつかの鉢と、多肉植物の寄せ植えが置いてある。
 これから来る真冬は植物にとっては大変な季節だ。
 もっとも、一年中気温の安定した室内に置かれる観葉植物の場合成長が鈍くなる程度で、今日見てきたイングリッシュガーデンで木々に施されていたような寒さ対策は必要ないので、世話をするましろは、水加減に気を付ける程度だが。
 モンステラの葉の個性的な形の切り込みを、そっと指でなぞる。

 天王寺は今日一日、どんな気持ちでいたのだろう。
 ただ単に、ましろの『営業』に付き合ってくれただけなのだろうか。
 まだ子供の頃、ましろが校庭の花壇で花の世話をしていると、天王寺は近くでそれを見ていることがあった。
 ある日、「退屈じゃないですか?」と聞くと、「植物の世話や知識に関してはましろの方が上だ。見てると勉強になる」とあっさり返されて、驚いた。
 上かどうかはともかく、天王寺からそんな風に認めてもらえていたなんて。
 本当は、一緒にどうかと誘いたかった。
 勇気が出なくて、結局言い出せなかったけれど。
 植物と接するましろのそばにいるときの天王寺は、いつもより少し優しい気がする。今も、昔も。

「(今日、優しくしてもらえたのは……植物たちのおかげ……なんてことはないですよね……)」

 天王寺の様子は、明らかに再会した日とは違っていた。
 違っていた……と思う。
 一度目は、混乱していたから相手の様子を観察する余裕などなかったけれど、それでも違うと断言できるほどに。
 一度目も二度目も、天王寺がましろを抱いたのは、どちらもキャストとしての営業に応えてくれたからだろう。
 同じように客をとるような仕事をしている友人と再会したら誰にでも優しくするのではないか。
 そう思うと、なんだかとても胸が痛むけれど。

「(でも、厚意に甘えてばかりいては駄目だ)」

 次に会ったときには、きちんと説明する。
 ましろはきゅっと拳を握り、決意を固くした。
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