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しおりを挟む高い窓から広がる東京の夜景をバックにソファから立ち上がった八重崎は、相変わらず感情の乗らない作り物めいた美貌に純白のフリルシャツ、結ばれた黒いリボンタイがよく似合っている。
隣に座るように促され、「失礼します」と一声かけて一緒に座った。
「でも、どうしてここに?」
「怪我……平気?」
オーナーから話を聞いて心配して来てくれたのだろうか。暴力など何でもないように言っていたので、少し意外な思いがして目を見開く。
「それほど深くはなくて、重いものを持ったりとかしなければ全然平気です。八重崎さんは……お変わりないですか?」
「……月華と基武にすごく怒られた……」
「えっ、この間の、…ええと、口実作りって言ってたあれの件ですか?」
「違う……、松平組に関する情報を横流ししたから…」
「でもそれは、俺が聞きたがったからで」
「だけどそのせいで怪我した…」
「それは……」
自分の衝動的かつ無謀な行動のせいで色々な人に心配をかけてしまったのだと思うと申し訳ない。だが、得るものはあった。
「それでも俺は、行ってよかったって思ってます。八重崎さんが背中を押してくれたから、竜次郎と…また一緒にいたいって…言えたんだと思います。今日来ていただけてよかった。ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げてからもう一度感謝を込めて目を見ると、八重崎の表情は変わらなかったが瞳は優しい色をしていた。
とりあえず飲み物を、とメニューを渡すと「お酒はいい。お茶的な何かで」というのでそのままオーダーを通した。このファジィさでも鹿島はいい仕事をするだろう。
VIPルームには客が望まない限りボーイも入れないので、注文を伝えて戻ってくると、座るなり八重崎が大きな瞳でじっと見つめてきた。
「ガチ五郎…まだ息、してる?」
「ガチ……。い、息はしてると思いますけど、」
ますます酷い名前になってしまったと脱力してから、はっとした。
「もしかして……状況が悪くなってるとかですか?」
松平組にもっと具体的な危機が迫っているとか、そういう情報を伝えるために来たのだろうかと不安になると。
「望月が……うちのかわいい湊をたぶらかしやがってあのヤクザ次顔見たらパイルドライバーで仕留める………って……言ってたから……」
竜次郎逃げて……!
想像とは違うが確かに竜次郎には危機が迫っているようだ。
望月と竜次郎は意外と話が合いそうだと思うのだが、二人が殴り合って友情が芽生えたら自分が忘れられそうな気がする。
なるべく会わせないようにすることが世界平和のためなのではないかと結論付けた。
湊がそんなことを考えている間、隣でもまた思案顔をしていた八重崎がぼそぼそと口を開いた。
「情報、いる?対価は、二人の愛の軌跡でいい…」
「それは…ありがたい、ですけど…また怒られちゃったら…」
不安そうな顔をしていたからだろうか。気持ちは有難いが、迷惑をかけたくはない。
遠慮に、しかし八重崎は首を横に振った。
「……ともだち」
「え?」
「死線を越えた…マブダチ…だから、助け合う。情報を流すだけ流してなにもしなかったことは怒られて当然…。今度は、ちゃんと協力する」
「八重崎さん……」
感動してぐっと唇を噛んだ。
行動をして得たものは竜次郎とのことだけではない、日守や八重崎という協力者を申し出てくれるコネクションもまたそうだ。
「ありがとうございます。そんな風に言っていただけて、嬉しいです」
「河原で夕日をバックに殴り合う……?」
「い、いえ、そういうのは……」
相変わらず少しずれているが、頼もしい見方であることは間違いない。
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