溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ

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極道とウサギの甘いその後+サイドストーリー

極道とウサギの甘いその後4-18

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 湊VS南野の対決のゴングが鳴った頃。
 竜次郎は事務所で、何故か大量に降って湧いたデスクワークに忙殺されていた。
 それも、賭場関連の売上報告書や神導の回してきたカジノのイベント企画などはまだいい。
 だが、町内の美化運動や映画鑑賞会のお知らせ、近所に開業した整骨院のチラシなどは、この『仕事』の枠で目を通すべき書類なのか。
 いや……町内行事やご近所づきあいは、世間の目が厳しい昨今とても大事なことなので、仕事の一環でいいかもしれない。
 それにしても葬式と法事の出欠確認は多すぎる。ヤクザの高齢化は深刻だ。
 義理事は大事かもしれないが、果たし状のような形式で書かれた博徒だらけのゴルフ大会への招待状などはもう、シュレッダーにかけてもいいだろうか。
 馬鹿馬鹿しくなって、これらを持ってきた日守に「本当に全部目え通す必要あるか?」と聞いてみるも、逆にいつもは自分がすべて片付けていますが何か?という冷えきった眼差しを向けられてしまった。
 湊と一緒にいたいがために、日守には負担をかけている自覚が大いにある。藪蛇だった。

 仕方がないので大人しく目を通し、電話をかけ、メールを打ち、サインをしてたりしていると、減ってきたと思ったところで日守が次を持ってくる。
 もさっと置かれた紙や封筒に、竜次郎は天を仰いだ。
 こんな地味な仕事は、湊がそばにいなくてはやっていられない。思わず聞いていた。
「湊はどうしてる」
「お変わりなくお過ごしです」
「お変わりないのになんでここに来ねえんだよ」
 いつもなら「一緒にいていい?」と遠慮がちに訊ねてくるはずなのに。

「湊さんがお疲れなのは、貴方が一番よくご存じなのでは?」

 何を言っているのかと冷たい視線を向けられ、うぐっと詰まる。
 早朝からサカッてしまった自覚がありすぎて何も言えない。
 しかしそんなに疲れさせてしまったのか。
 昼間別れたときには、元気そうに見えたのに……。


 それにしても昨晩はショックだった。
 ……本当にショックだったのは湊だろうが、竜次郎もまた己のやらかしたことに少なからぬ衝撃を受けた。
 ずっと、怖がらせないように気を使ってきたというのに。
 湊が過去に周囲の男達から性的な暴力を受けてきたことを考えれば、五年前、初めて抱いた時にそれを思い出して怖がってもおかしくなかったはずだ。
 そうならなかったのは、竜次郎の想像する以上に湊は自分を特別に想っていてくれていたということで。
 ……それを裏切ってしまった自分は本当にクズオブクズだ。

 しかも説得するはずの南野には、結局話など聞いてはもらえなかった。
 湊のことを話そうとしても、酒も飲まない奴とは話ができないと言われ、飲めば酔っ払った奴の話など真剣に聞かないと言われ、要するにまともに話をする気などないのである。
 パワハラなどという言葉は、親が黒と言えば白いものも黒くなる自分の世界では虚しいばかりだ。


 そういえば、今日は南野はどうしているのだろう。
 どうせどこにいても酒を飲んでいるだけなのだから、わざわざ松平組に来ることもねえだろうと、つい手元のチラシを握り締めた時、はっと閃くものがあった。
 湊に直接圧力をかけたりしている可能性はないだろうか。

「やっぱり、湊の様子を見に行って来る」

 懸念が頭に浮かぶと、いてもたってもいられずに立ちあがる。
 言い切った竜次郎が絶対に意見を翻さないことはわかったのだろう。
 日守はため息をついた。
「…………………仕方がありませんね」


 悪い予感は当たり、屋敷に湊の姿はなかった。

 もぬけの殻の寝室を見て吼える。
「いねえじゃねえか!」
「現在外出されておりますので」
「おい!?」
 聞いてない!
 いいかげんふざけるなと本気で睨めば、日守は「実はかくかくしかじか」と驚愕のいきさつを打ち明けた。

「酒で勝負なんて、何で止めねえんだよ!」
「湊さんには、以前金様の命を救っていただいた恩があります。困ったことがあれば必ず力になるとお約束しておりますので」
「いつのまにそんな約束を……おい、なんか他意とか好意とかあるんじゃねえだろうな……」
「……………………」
「……………………」
 何で黙る、と表情を読もうとしばし見あったが、それこそが罠かと気付いた。
 時間を稼がれているのだ。
「もういい」
 何とかして日守以外から情報を得ようと歩きだすと。

「渋々ご案内します。見失わないようについてきてください」

 言い終わらないうちに、日守は走り出した。
「ちょっ……待て、おい日守ッ!」
 屋敷を出て、ぐんぐん遠くなっていく背中を慌てて追いかける。

 町内を全力疾走するスーツ姿の男二人を、ご近所さんたちがざわつきながら見ていた。
 無論二人とも顔を知られているので、出入りかカチコミかと不穏な憶測が飛び交う。
 まさか、追いかけっこをしているとは夢にも思うまい。

「この時間稼ぎっ…、意味あるか!?」
「息が上がってますが、運動不足なのでは?」
「全力疾走して、澄ましたツラしてる、お前が異常なんだろ!忍者か!」
 これだから、この男は嫌いなのだ。
 昔から何をやっても勝てたためしがない。

 見慣れた商店街が見えてきて、竜次郎にもようやく日守がどこに向かっているのかがわかった。
「お前は、何で敵のホームグラウンドでの勝負をセッティングしてんだ…っ」
 南野は堅気に暴力を振るうような男ではないが、物言いが乱暴だ。
 覚悟を試すとかそういうつまらない目的で、殊更に相手を傷つけるようなことを言ったりする可能性がある。
 湊にいらない負荷をかけると、相応しくないからとか負担になっているからとか、また思い悩んで失踪するかもしれない。

「湊っ!」

 乱暴にスナックのドアを開いた竜次郎は、広がる光景に目を剥いた。
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