155 / 188
極道とウサギの甘いその後+サイドストーリー
極道とウサギの甘いその後4-18
しおりを挟む湊VS南野の対決のゴングが鳴った頃。
竜次郎は事務所で、何故か大量に降って湧いたデスクワークに忙殺されていた。
それも、賭場関連の売上報告書や神導の回してきたカジノのイベント企画などはまだいい。
だが、町内の美化運動や映画鑑賞会のお知らせ、近所に開業した整骨院のチラシなどは、この『仕事』の枠で目を通すべき書類なのか。
いや……町内行事やご近所づきあいは、世間の目が厳しい昨今とても大事なことなので、仕事の一環でいいかもしれない。
それにしても葬式と法事の出欠確認は多すぎる。ヤクザの高齢化は深刻だ。
義理事は大事かもしれないが、果たし状のような形式で書かれた博徒だらけのゴルフ大会への招待状などはもう、シュレッダーにかけてもいいだろうか。
馬鹿馬鹿しくなって、これらを持ってきた日守に「本当に全部目え通す必要あるか?」と聞いてみるも、逆にいつもは自分がすべて片付けていますが何か?という冷えきった眼差しを向けられてしまった。
湊と一緒にいたいがために、日守には負担をかけている自覚が大いにある。藪蛇だった。
仕方がないので大人しく目を通し、電話をかけ、メールを打ち、サインをしてたりしていると、減ってきたと思ったところで日守が次を持ってくる。
もさっと置かれた紙や封筒に、竜次郎は天を仰いだ。
こんな地味な仕事は、湊がそばにいなくてはやっていられない。思わず聞いていた。
「湊はどうしてる」
「お変わりなくお過ごしです」
「お変わりないのになんでここに来ねえんだよ」
いつもなら「一緒にいていい?」と遠慮がちに訊ねてくるはずなのに。
「湊さんがお疲れなのは、貴方が一番よくご存じなのでは?」
何を言っているのかと冷たい視線を向けられ、うぐっと詰まる。
早朝からサカッてしまった自覚がありすぎて何も言えない。
しかしそんなに疲れさせてしまったのか。
昼間別れたときには、元気そうに見えたのに……。
それにしても昨晩はショックだった。
……本当にショックだったのは湊だろうが、竜次郎もまた己のやらかしたことに少なからぬ衝撃を受けた。
ずっと、怖がらせないように気を使ってきたというのに。
湊が過去に周囲の男達から性的な暴力を受けてきたことを考えれば、五年前、初めて抱いた時にそれを思い出して怖がってもおかしくなかったはずだ。
そうならなかったのは、竜次郎の想像する以上に湊は自分を特別に想っていてくれていたということで。
……それを裏切ってしまった自分は本当にクズオブクズだ。
しかも説得するはずの南野には、結局話など聞いてはもらえなかった。
湊のことを話そうとしても、酒も飲まない奴とは話ができないと言われ、飲めば酔っ払った奴の話など真剣に聞かないと言われ、要するにまともに話をする気などないのである。
パワハラなどという言葉は、親が黒と言えば白いものも黒くなる自分の世界では虚しいばかりだ。
そういえば、今日は南野はどうしているのだろう。
どうせどこにいても酒を飲んでいるだけなのだから、わざわざ松平組に来ることもねえだろうと、つい手元のチラシを握り締めた時、はっと閃くものがあった。
湊に直接圧力をかけたりしている可能性はないだろうか。
「やっぱり、湊の様子を見に行って来る」
懸念が頭に浮かぶと、いてもたってもいられずに立ちあがる。
言い切った竜次郎が絶対に意見を翻さないことはわかったのだろう。
日守はため息をついた。
「…………………仕方がありませんね」
悪い予感は当たり、屋敷に湊の姿はなかった。
もぬけの殻の寝室を見て吼える。
「いねえじゃねえか!」
「現在外出されておりますので」
「おい!?」
聞いてない!
いいかげんふざけるなと本気で睨めば、日守は「実はかくかくしかじか」と驚愕のいきさつを打ち明けた。
「酒で勝負なんて、何で止めねえんだよ!」
「湊さんには、以前金様の命を救っていただいた恩があります。困ったことがあれば必ず力になるとお約束しておりますので」
「いつのまにそんな約束を……おい、なんか他意とか好意とかあるんじゃねえだろうな……」
「……………………」
「……………………」
何で黙る、と表情を読もうとしばし見あったが、それこそが罠かと気付いた。
時間を稼がれているのだ。
「もういい」
何とかして日守以外から情報を得ようと歩きだすと。
「渋々ご案内します。見失わないようについてきてください」
言い終わらないうちに、日守は走り出した。
「ちょっ……待て、おい日守ッ!」
屋敷を出て、ぐんぐん遠くなっていく背中を慌てて追いかける。
町内を全力疾走するスーツ姿の男二人を、ご近所さんたちがざわつきながら見ていた。
無論二人とも顔を知られているので、出入りかカチコミかと不穏な憶測が飛び交う。
まさか、追いかけっこをしているとは夢にも思うまい。
「この時間稼ぎっ…、意味あるか!?」
「息が上がってますが、運動不足なのでは?」
「全力疾走して、澄ましたツラしてる、お前が異常なんだろ!忍者か!」
これだから、この男は嫌いなのだ。
昔から何をやっても勝てたためしがない。
見慣れた商店街が見えてきて、竜次郎にもようやく日守がどこに向かっているのかがわかった。
「お前は、何で敵のホームグラウンドでの勝負をセッティングしてんだ…っ」
南野は堅気に暴力を振るうような男ではないが、物言いが乱暴だ。
覚悟を試すとかそういうつまらない目的で、殊更に相手を傷つけるようなことを言ったりする可能性がある。
湊にいらない負荷をかけると、相応しくないからとか負担になっているからとか、また思い悩んで失踪するかもしれない。
「湊っ!」
乱暴にスナックのドアを開いた竜次郎は、広がる光景に目を剥いた。
9
あなたにおすすめの小説
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
発情期のタイムリミット
なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。
抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック!
「絶対に赤点は取れない!」
「発情期なんて気合で乗り越える!」
そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。
だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。
「俺に頼れって言ってんのに」
「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」
試験か、発情期か。
ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――!
ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。
*一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる