溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ

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極道とウサギの甘いその後+サイドストーリー

極道とウサギの甘いその後5ー16

 道中、竜次郎に頼まれ、医師の北条に連絡を入れた。
 診療所に着くと、待機していてくれた北条は手際よく二人の診察及び処置をしてくれる。
 日守もヒロも命に別状はないとのことで、ひとまずほっとした。

 処置の終わった診察室に通されると、ヒロは安心したのか寝台で眠っている。
 破れたズボン(処置のために切ったのだろう)から包帯をのぞかせる日守は顔色は悪いものの、何事もなかったかのような表情でヒロの隣の寝台に座っていて、湊の姿を見ると立ち上がった。
「日守さん、こんなにすぐに動いて大丈夫なんですか?」
「問題ありません」
 思わず北条を振り返ると、言っても聞かないことがよくわかっているのだろう、軽く肩をすくめただけで、寝ているように注意したりはしなかった。

 急な連絡に快く応じてくれた北条に頭を下げる。
「北条先生、ありがとうございました」
「湊君も、今回のことは災難だったな」
「俺はくっついていっただけなので、全然。大変だったのは竜次郎や日守さんで……」
「謙遜です。あの武器は本当に助かりました。小型化できれば常時携行したいですね」
「う、うーん……。開発者?に打診してみますね……」
 とはいえ、八重崎が素直に改良(主に形状の)に応じるだろうか。
 それに、あの電撃の威力はいつでもどこでも発揮できていいものではないような気がする。
「お前さんたち、医者の前であまり物騒な話をするものじゃない」
「はっ……、すみません」

 そんな話をしていると、組への報告の電話を終えた竜次郎が戻ってきた。
 既に帰る気満々の日守を見て、眉を寄せる。
「親父から伝言だ。日守、お前は親父が迎えに来るまでここで待ってろってよ」
「………………」
「待っているなら横になっていた方がいいぞ。あまり足に体重をかけると折角縫合した傷が裂ける可能性があるからな」
 すぐにでも主人の元へ戻りたいというオーラが全身から迸っているが、金からの指示では逆らうこともできなかったのだろう。
 日守は「わかりました」と頷き、素直に寝台に戻った。
「湊、俺たちはひとまず屋敷に戻るぞ」
「うん」


 同時刻、白木組の事務所では、柳が白木に『QO』での経緯を報告していた。
 本革のオフィスチェアにふんぞり返ってそれを聞いていた白木は、聞き終えるとじろりと柳を睨む。
「柳ィ、お前、あんまりやりすぎんなよ。奴らが本気になったら面倒だぞ」
 咎める声音を、しかし柳は薄笑いで受け流す。
「こんなの戦なんてレベルじゃない、ただのレクリエーションですよ」
「おーおー、双方に怪我人量産しといて余裕だな」
「若い奴らは色々持て余してるから、発散場所があった方がいい。死人が出なければいい、そんなもんでしょう」
 二人の口から、低い笑いが漏れた。

 この男達にとっては、ちょっかいを出すことで松平組が右往左往するのが娯楽の一つなのだ。
 白木は、ちっぽけで古臭い任侠団体が、界隈で妙に一目置かれていることが気に喰わない。
 そのブランドを貶めたい。
 ヤクザにとって何かと面白くないことの多いこのご時世、こういった『レクリエーション』が自分達には必要なのだ。
 二人は、そう信じているのであった。

「まああれだ。奴らも無事脱出できたし、喧嘩両成敗ってやつで、」
 まとめる白木の声にかぶせるように、ドアが乱暴にノックされた。
「お、親父!」
「おいなんだうるせえな」
 近くにいた柳がドアを開けると、転げるようにして舎弟が入ってくる。
「す、すんません!あの、か、カチコミっす!」
「ああ?」

「邪魔するぜ」

 ぬっと顔を出した相手を見て、流石の柳も驚きに細い目を見開いた。

「てっ……、てめえは、松平金!」
 まさか、敵の総大将自ら乗り込んでくるとは。
 金はたったの一人しか部下を連れておらず、武装もしていない。
「うちの若いもんが世話になったみたいだから、礼に来た」
 その眼差しに怒りの色はない。だから、白木も柳も反応が遅れた。
 金は敵地にあっても一切の躊躇なく、真っ直ぐ白木のデスクへと歩いていく。
 その和装の懐からドスがでてきたことで、まず柳が我に返る。
 「止まれ」と銃を構えたが、金は柳を一瞥だにしなかった。
 デスクを挟んでドスを持った相手と相対することになった白木は、卑屈な笑みを浮かべる。
「た、ただのガキの喧嘩だ、そうだろ?」
「子供の喧嘩に親が出ていくのはルール違反だが、子を守るのも親の仕事だ」
「っ……!」

 金が振りかぶったドスは、重い音を立てて厚い天板に突き刺さった。

「……おいぼれだからこそ、この世に大した未練は残っちゃいねえ。いいか。うちの奴らに何かあったら、てめえら全員、地獄への道連れにしてやるからな」

 去っていく小柄な背中はひたすらに大きく。
 白木組の面々は、それをただ見送ることしかできなかった。
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