箱庭幻想譚―異世界に転生した私の幸せになりたいと願った物語―

物部妖狐

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第二章 修行、そして旅に出る

戦い前の静けさ

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 能力を使って敵を無双系のゲームみたいにバッタバッタと倒して行くのは楽しかったけど、ちょっとだけ疲れたかも。
ゼンさんとカー君が攻撃出来ない分、全ての分身を倒す事になったし。
最後らへんなんて、楽しそうな顔をして羽交い絞めにした分身を私へ向かって投げて来たし、絶対もう遊んでたよね。
二人して試験って事忘れてるんじゃないかな。

「……いやぁ、あれには焦ったね」
「焦ったってカーティス……、プリムラスグロリアの分身を倒したのはシャルネだぞ?」
「そうだよ?私頑張ったんだから」
「あぁ、これは俺の言い方が悪かったかな、ごめんねシャルネ」

 別に言い方が悪かったとは思わないけど、カー君が謝り出したからここでこの話を止めといた方がいいかも。
だってここで話を続けても、お互いに意味も無く謝り続けるだけだろうし、それなら私の方から話題を変えた方がいいよね。

「大丈夫だよカー君、それよりも試験ってこれで終わりじゃないよね?」
「終わりなわけないだろ……まだ、プリムラスグロリアやマチザワ、セイラが出て来ていないんだし」
「じゃあ何で、こんなところで襲い掛かって来たのかな、ほら……神社付近は民家があまり無いけど、この近辺はまだ沢山あるでしょ?……こんなに壊しちゃって良かったのかなって」
「ん?あぁ……、それなら問題無いだろ、後でプリムラスグロリアの権能で元に戻せるだろうからな、あいつの能力はシャルネと似てるからこれくらいなら、簡単に直せるぞ」
「何て言うか便利な能力だよねぇ、だって私の能力だと自分の事は治せないもの」

 税として徴収した国民達の生命力を分け与える事で、例えそれが命を持ってない無機物等でも簡単に直してしまう。
正直似てるんじゃなくて、私の上位互換だと思うのは気のせいだろうか。
いや、気のせいじゃないと思う、だって……私みたいに触れた相手の生命力と魔力を吸収するって言う事をしなくても、この国にいる限り尽きる事のない無限の力があるって強すぎるし、私よりもチートだと思う。
こういうのって普通、転生される側の方が強力な能力を持ってたりするもんじゃないの?、そう考えるとちょっと卑怯じゃないかな、プリムラスグロリアさんにあったら直接抗議しないと。

「なんか言いたげにしてるけどやめとけ、お前がこういう時衝動的に動いたら碌な事にならない気がするからな」
「え、……あぁ、うん」
「とりあえず神社へと向かおうか、三人が待ってるだろうからね」
「まぁ、そうだな……いつまでも待たせるわけにはいかないだろ」
「じゃあ早く行かないとだよね」

 そんなやり取りをしながら、神社への道を進む。
その間、先程のように分身が出て来るんじゃないかと、出来る限り警戒をしようとしてみたけど、私じゃ何も分からないから、全部二人に任せる事にした。
けど、誰にもすれ違う事が無くて、無人のように感じる程に静かな環境からくる不気味さのせいで、風の音ですら恐怖心を煽って来る。

「……そういえば、この近辺に住んでた人達ってどうなったのかな」
「あぁ、マチザワが避難させたんだと思うぞ?あいつは俺やセイラと違って、首都の住人達から好かれてるからな、あいつに頭を下げられて断るような奴はいねぇよ」
「マチザワさんって……凄い信頼されてるんだね」
「まぁな……、俺がまた首都にいた時に、周りの事を考えずに好き勝手暴れる事が出来たのは、あいつの存在が大きいんだよ、おかげで当時の事を思い出すだけでも、色々と学ぶことが多いくらいだ」

 ゼンさんがそこまで人を褒めるのは珍しい気がする。
何だかちょっとうらやましい、私はそこまで褒められたことってまだ無いから、ちょっとだけ妬いてしまいそう。

「……ん?」
「ゼン、どうしたんだい?」
「いや、まじかよ!」

 先頭を歩いていたゼンさんが手を伸ばして私達の動きを止める。
そして武器を構えて、今にも飛び掛かろうとするかのように姿勢を低くして全身に力を込めると、何もない空間を睨みつけた。

「ゼンさんどうしたの?」
「気付いてんのは俺だけかよ!、カーティス!おまえは本当に気づいてねぇのか!?」
「気付い……て?、これはまずいね」
「やっと気づいたのかよ、おせぇよ!」
「だからどうしたの!?」

 神社の方から花弁が大量に飛んでくると、目の前の道が一瞬で花畑に変わる。
そして中央に一本の樹が生えて桜の花が咲く乱れ、周囲に桜吹雪が舞い始めたか思うと、樹の一部が盛り上がり人の形を作っていく。
地面に届く程に長い桜色の髪、まるで狐を思わせるような特徴的な獣の耳、そして地面の花が一か所に集まったかと思うと、西洋風のドレスへと姿を変えて……

「……あぁ、シャルネとカーティスは見た事ねぇから分からねぇか、あれはプリムラスグロリアの本体だ」
「本体って……え?」

 あれがプリムラスグロリアさん?、確かに良く見ると切れ長の目から見える瞳の色は見覚えがある気がするけど、桜の樹の枝を槍のように鋭く尖らせて、先端を私達に向けて来てるせいで、身体が強張ってしまう。

「よう来たね、まさかわっちの分身をあんな簡単に倒す何て思わのうござりんしたよ」
「……え?」
「普通に倒すだけでありんしたら、わっちにはあんまり被害は無うござりんしたのに、生命力を直接奪ったりするおかげで、手加減してあげる余裕がのうなっよ」

 ダメだ、何を行ってるのか分からない。
多分、方言とかそういうのなんだろうけど……流暢に喋られると何を言ってるのか全然理解が出来なくて反応に困ってしまう。
だってこういう時ってさ、普通相手にも分かるように喋ったりするものじゃないの?、なのにこんな難しい喋り方されたらどうすればいいのって感じ。
もうちょっとさ、私達の事を考えて気遣いをしてくれてもいいんじゃないかな。

「プリムラスグロリア!、何言ってんのか分からねぇから普通に喋れって!」
「……うるさいのぅおぬしは、わっちが折角雰囲気を出しておるのに台無しにするでないわ」
「ゼン、プリムラスグロリア様なりに敬意を表した話方なんだから邪魔しないであげて?」
「そうですぞ、そういう所がおぬしの悪い所ですな」

 桜の樹の上からマチザワさんとセイラさんが飛び降りて来る。
体が隠れるほどに大きな盾を持っていて、全身が黒く染まっている剣を持った彼と、短い槍を両方の手に持って構えている彼女。
ゲームで例えるなら、タンクとアタッカーに見える布陣はどう見ても隙が無くて……

「うるせぇ、おめぇ等よぉ神社でやり合うんじゃなかったのか?」
「最初はそう考えておったのですがな……、周辺の民家に避難を促した所神社に行った方が安全だと言われてしまったから、変更したのですぞ」
「最初は反対したのよ?でも、やるなら大規模でやりたいって言い出してね?困っちゃうわよ本当に……、これで国のお偉いさん方に睨まれたらどうするつもりなのかしらね」
「何を言うか、わっちはこの国を神じゃぞ?文句を言いに来るというのなら喜んで生命力を吸い尽くして滅ぼしてくれるわ……現に今も、遊郭でわっちの分身を相手に愚かなにも事を励んでおるではないか」
「あぁ……プリムラス、いやクソババア、こっちにはそういう知識が全然ねぇ魔族と天族の神の間に産まれたお姫様がいるんだぜ?その下品な口を閉じろ!」

……ゼンさんが大きな声を出すと続いて『やり合うならさっさとやるぞ!カーティス!こんな気色悪い樹を掘り起こして倒しちまえ!』と、カー君へと指示を出す。
そして……『この近辺に誰もいないなら、本来の姿に戻っても問題無いよね』と不吉な言葉が聞こえたかと思うと、巨大な大蛇へと姿を変え桜の樹に巻き付くのだった。
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