治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第一章 非日常へ

1話 日常から非日常へ

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 いつもの毎日が続く中ふとした時に日常が崩れ去り非日常に巻き込まれる日が来るなどその時はまだ思う事もなく
いつものように窓から朝日が差し込む中、ベッドの上で眠る彼が眩しさに目を覚ます。

「ん……んん~っ」

 擦れるシーツの音を残して半身を起こしながら、未だ眠気が残る目をこすりながらあくびをする
そして軽く伸びをした後にサイドテーブルに置いてあるメガネを手に取り顔にかけっ……

「っつ!……」

 メガネをかけようとして耳掛けの先端部分を眼に充ててしまい思わず目を抑えてうずくまる
勿論、確認せずにそのままつけようとした僕が悪いとは思うのだけれど
それでもこの目に当たった時の感覚は言葉には出来ないものがあるとは思う……
そう思いつつ暫く目に残る違和感に悶えた後、やっとのこと起き上がり寝室を出てキッチンへと向かう。

「今日の朝ご飯はそうだ、目玉焼きを作って後はそうだなぁ、ハムを焼いてパンの上に置いて食べようかなぁ」

 そう呟きながら寝間着のままでキッチンに立ち、食材を確認しお目当ての物がある事を確認してかまどに火をくべ朝食を作って行く
フライパンでハムを焼きつつ、隣のかまどにもフライパンを置き、油を軽く敷いた後に卵を割2つ落とし周りの白身が白くなりだしてから水をいれて蓋をした。
その間に色が付き始めたハムをフライパンからハムを取り出し予め用意しておいたパンの上に置き、黄身が半熟になりだした所で目玉焼きをパンの上において塩コショウを軽くつけて軽めの朝食を作り食べながら今日の予定を考える。

「今日の予定は特に、患者さんが来る予定もないし裏山に行って薬草の採取に行こうかなぁ……」

 そう呟きつつ食べ終えたので食器をかたしながら、今不足気味になっている薬草類を思い出す。
足りなかったのは確か傷と、解毒作用がある薬草類が足りなくなってきているのでそれらを補充しに行かなければ行けないかなぁっと思考にふけり、薬品棚へと足を進め記憶とあってるのか確認し間違いがない事に安心つつ隣に部屋にかけてある白いローブを羽織り外に出る準備をし進めて行く。

「さて、準備も出来た事だし今日は採集にまずは言ってと……うん、いってきます」

 そう誰かに話しかけるわけでもなく一人呟き、玄関を開け家を出る事にする。
家を出て空を見ると小高い丘から見える景色、周りに障害物がないおかげで雲一つない綺麗な青空が広がっていて今日もいつも通りの日常が始まったという感覚を教えてくれる。
ぼくは朝の陽ざしを浴び、草木の匂いを胸いっぱいに吸い深呼吸して、いつものように軽く準備体操をすませた後に採集へと向かう事にした。

「今日は良い天気だし、このまま行けば昼頃には帰れるといいなぁ」

 採集と言っても家から出て裏手にある森に、薬の材料になる植物を採集するだけでこれと言って面白みがあるのかと言われたら無いとは思うのだけれど、これも僕の生活には必要なものだと思えば苦ではない。
何しろ大事な時に薬があるという事はそれだけで誰かの命が救われるかもしれない、そう思うだけでもこう何ていうのだろう、自分の中で頑張ろうっていう気持ちになってくる。

「これは…止血に使われたり便利でっとこれは……」

 不足している薬草類とは違うが、目に入る薬草を本を見比べつつ採集を進めていく、知らない人からしたら何故そんな手間な事をしているのかと言われそうだけどこういう本は1年毎に情報が更新される為、高価な品ではある為値が張るがしっかりと買い換えておかないとこの薬草達もいつ毒として分類されてしまうのか分からない。
突然何らかの環境的変化によって人体に毒になる成分が生成されるようになったりするのだ。
そう薬草となる植物、キノコ類が自身の進化の過程で今迄問題無かった物でさえ唐突に僕たちに牙を向いて命を奪う事すらある…そう彼等も必死に生きている野生を生きる為には必要な変化なのだろう。
だから僕たちはその変化とうまく付き合っていかなければならないんだと思う。

「これは根を乾燥させて煎じて…こっちの花と合わせれば解毒薬になる……」

 勿論そんな高価な物を買ってまでヒーラーなのに何で薬師のような事をしているのかと言われる事もあるが……
実際の所治癒術士で薬師のような事をしているものは多い、それは当然の事で軽い怪我や毒類なら治癒術で治しても良いのだけれど例えるなら大きい怪我、時に骨折や手足の切断等が起きた場合に必要になり特に骨折の場合はそのまま治癒術で骨をつなげてしまうと、骨が歪に再生し関節が曲がった状態になっててしまったり体内の骨の欠片が残ってしまう可能性がある為、まずは患部を確認し必要とあれば砕けた骨の取り除いたり、固定しある程度の回復が進んだ状況でこそ治療術が活かされる。
切断の場合もそうだ、汚れをしっかりと取り除き冷凍保存された状態で細胞の損傷を防ぎ縫い合わせた後傷が繋がったのを確認した後に、治療術で神経をつなぎ元に戻すという工程が必要で人によっては治癒術はそれだけで無くなった手足が再生する。
瀕死の状態でもたちまち回復する万能な術だと思っている人もいるけれど神様はこの術をそんな何でも治るような万能な術にはしてくれていない、あくまで回復の手助けを行うための治癒なのだ。
勿論例外として、毒等の外部から入ってくる肉体的な状態異常に対しては例外であるけれどこの近辺で毒や石化等を行うモンスターが出たとは聞いた事は無い、仮にいたとしても「異常種」と呼ばれる、何らかの環境下で突然変異したまたま過酷な野生を生き延びる事が出来た。一定のモンスター位だろうけれど僕がここに住み着いてからはそのような話も聞いたことはないし大丈夫だとは思いたい…
そうやはり一人の採集だと暇なのだろう…心の中でおしゃべりをしながら続けていたのだけれどその時だった。

「えっと……この薬草は確か…ん?」

 唐突に目の前の草木からざわざわと、何かが近づいて来る音がする。
ぼくは採集の手を止めモンスターが出た時の為にローブの袖に隠している短剣を取り出そうとした時だった。

「助け…て……」

 殆んどぼくしか立ち入ることが無い山なのに目の前には助けを求めて倒れる唇を薄紫色に染め…青褪めた顔をした少女を見ていつもの日常が崩れる音がした気がした。
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