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第三章 戦う意志と覚悟

5話 心器 ダート視点

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 アキラは手元に顕現させた刀を構えると、俺達とは逆の方向に向かって獲物を横薙ぎにする。
それと同時に魔力の光が前方に向かって飛んで行き木々を切り倒して行き更に進行方向の地面が凍り付いて行く。

「……とまぁ、こんな感じだな」
「こんな感じって……、おめぇ武器を振ると同時に魔術も使ってるけどどうやったんだよ」
「それ位魔力を扱えるなら誰でも出来る」

 誰でも出来ると言われても出来ないから聞いてるのにそう言われたら何も言えなくなる。
肉体強化の循環に、魔術の放出、そして治癒術の同調し干渉する力を合わせる時点で理解が出来ない。
例えるなら、水に油を入れるような物で混ざりあう事は無い筈だ。

「あんな?アキラさん、うちらは今迄魔力の使い方は肉体強化の時は強化にしか魔力を使えなくて、魔術を使う時は魔術にしか魔力を使えないって教わって来たんよ……アキさんの時もやけど目の前で非常識な物を見せられても理解出来ないんよ」
「そもそもその常識を広めたのは栄花なのだから仕方が無い」
「……あ?それってどういう事だよ」

 栄花がそうなるように広めたとはどういうことなのか……、そもそも何故そうする必要があったのかが分からない。

「魔力とは元来、生物と空気に水と何処にでもある物だ。それらは使う者のイメージ次第でどのような形にも出来る……特にそれを分かりやすく区分し特化させたのが3つの使い方だ」
「つまりどういう事なん?」
「昔は魔術は魔法、治癒術は奇跡と呼ばれていたが、【叡智】カルディアと【黎明】マスカレイドが研究した結果元は同じ力だと発見した時点で分かるようなものだがな」
「……つまり肉体強化も魔術等と同じ力で理論上は、ばあさん……いやカルディアが魔術と治癒術を同時に使えるように肉体強化も?」

 試しにアキラが先程やった事をイメージしながらやってみる。
循環させる力を手元に集めて、放出する力で外に押し出して干渉する力でそれを固定しようとしたけど途中で俺の手を掴んで流れを乱されて止められてしまった。

「……貴様、最後まで聞かずに実践をする危険な真似をすると死ぬぞ?」
「あ?どういうことだよ」
「うちも意味がわからんのやけど、それなら誰でも出来るんやないの?」
「私の中で分かりやすい範囲で今から説明するから待っていろ……この技は術者の魔力を使う事で最も得意とする獲物を自身の心の内にある心象風景から取り出して具現化して現実に顕現させる技術で心器《しんき》と言われている」
「心器……、つまり召喚系の魔術って事でいいのか?」

 心象風景だか何だか分からないけど、つまり俺の中から何かを取り出すって事でいいのか?
コルクも難しそうな顔をして聞いているけど今一わかりづらい気がする。

「そういう類ではないな……続けるぞ?心器を顕現させる場合、肉体強化の循環させる流れで武器の強度を高め、魔術の放出する力を使い器の形を生成し、治癒術の魔力に同調し干渉する力で心の中にある形を現実世界に固定化する」

 つまり俺がやろうとしていた事は似てるようで全然違う物だったって言う事か?もしそうなら違うやり方をして失敗した場合何らかのリスクがあって、それが死ぬかもしれない程にやばい物なのかもしれない?

「そして、何故その技術を不用意に使うと死亡する事になるのかというとだ……使うだけなら訓練次第では誰でも出来るが、そこには重大な弱点がある……そうだな貴様らに分かりやすく言うなら……心器とは文字で表すと心の器と書くのだが、その武器の能力は心、即ち術者の精神状態によって性能が変わる。それだけなら何の問題も無いと思うだろう?」
「まぁ確かにそうやね?それならうちらみたいに戦う覚悟がある人間なら問題無く使えるんちゃう?なぁ、ダーもそう思うやろ?」
「おぅ……なのに何でダメなんだよ」

 そんな便利な能力なら秘匿にせずに使えばいいんじゃないかと思うけど何が駄目なんだろうなと疑問に思う。
戦場において使える物なら何でも使うべきだろ。

「……そこを今から説明する。精神が安定しているのなら折れる事の無い強力な武器ではあるのだが……何らかの要因で精神面に不調をきたしている時の性能は鈍ら刀にすら劣り、耐久性も非常に脆くなる。そこが大きな問題となるのだが、その状態で武器が折れる等修復不可能な程の損傷を受けた場合、本人の精神に直接ダメージがフィードバックする……そうなると良くて死亡、悪くて精神が焼き切れた廃人だ」
「……なら何であんたら栄花はそんな危険な技術をつこうてるん?」
「使う事が出来る者は我々栄花騎士団最高幹部以外には下にいる準幹部級の団員のみでそれ以外は仮に使えたとしても使う事を許可していない。例外としてSランク冒険者と呼ばれる規格外の戦闘能力を持つ化物達だけだ……あれらは誰に教わる訳でもなく生まれつき使えたり、魔力を扱い出したら感覚で出来たりと理解の範疇を越えている」
「なら何で、そんなもんをレースに?」

 栄花騎士団の中でも限られた奴等しか使えないのなら、レースに教えても意味がない気がするが……違うのだろうか、仮にあいつがそれで戦えるようになったとしても使えないのでは宝の持ち腐れじゃないかと思うけど違うのか?。

「まぁ、そこは私が心器の説明をしだした時から狸寝入りを決め込んでる男が眼を開けたら話そう」
「は?……レースが起きてるって、こいつは重傷を負って魔力を治療の為に回す為に意識飛ばしてた筈だぜ?」
「……気付いてたんですね」

 レースが眼を開けると、その場で立ち上がりばつが悪そうな顔をすると俺の顔を見て悲しそうに眼を細める。
……暗示の魔術を使ったのは俺の意志なんだからそんな顔すんじゃねぇよ。

「レース……起きてたのなら最初から言えよ……」
「せやで?、あんたの愛しいダーを悲しませるのは良くないなぁ……って冗談言うてる場合やないね。……レースも起きたし話を聞かせてくれんかな」
「二人ともごめんね?途中である程度治癒が終わって意識が戻ってたんだけど起きるタイミングが無かったんだ……。アキラさん、ぼくにも分かるように何故その技術を覚える必要があるのか教えてくれませんか?」

 レースはそういうとアキラに理由を求める。
確かにあいつが戦闘技術の指南役でもある以上、許可されてない技術を教わる意味が分からないからな……聞くのは当然だ。

「それは……、貴様が対【死人使い】ルード・フェレスの切り札になる可能性がある為に我々の任務に将来的に同行して欲しいというのが理由だ。あちら側には【黎明】マスカレイドがいるという事が心器が使えるという事で……前回死人使いを逃がしてしまった事を考えると黎明から心器の技術を教わり会得していてもおかしくはない、その時に足手まといになられたら私達の邪魔になるだけだ。……その為の例外的処置として団長にも許可を得ている」
「理由は分かりました……けどもし仮に行くとしても、ダートが一緒に来ないなら行きませんよ?」
「そりゃそうだろ、俺はこいつの護衛なんだからよ。レースが行くなら何処までも付いて行くぜ?……だから俺にもその心器っていうの教えてくれ」
「……貴様には適正が無いから諦めろ」
「なっ!?」

 適正がない?そんな訳がねぇだろ……、Aランク冒険者にもなっていて様々な戦場を経験してきている俺が戦闘で精神面が揺さぶられる事はねぇ筈だ。

「……自らを暗示の魔術で作り変えて偽る者に持たせるのは切れないハサミを持たせるような物だ」

 それを言われたら何も言えなくなる。
確かに俺は暗示の魔術を使っているけど……それが原因だと言われたらどうしようもない。

「それならうちはー?二人が行くならうちも行くよ?」
「肉体強化と魔術による幻影を同時に使えるようになったら考えるが……、その前に貴様を探している元仲間の【紅の魔槍】と【拳狼】が近々町に来るそうだから自分の問題を先に片してその後に決意が揺らがないなら教えてもいい」
「ジラルドとクロウが……?ごめん用事を思い出したから帰るね」
「ちょっ!コー!?」

 顔色を変えたコーが、声を振るわて擦れた声を出すと逃げるようにその場から走り去ってしまった。
……過去の仲間との間に色々とあったのは知ってるけど名前を聞いただけであぁなるなんて大丈夫なのかよ。

「すいませんアキラさん、この話はまた後日でいいですか?ぼくの大切な友人の事が気になるので……」
「……どうやら訳有のようだな、それなら貴様の家の近くに滞在する予定だから気にせず行くと良い終わったら知らせてくれ」
「ありがとうございます!……ダートも付いて来て、コルクの所に行くよっ!」
「おっおぅっ!」

……そういうとレースは俺の手を取り町に向かって走り出す。
コーに何があったのか俺は深くは知らないし聞く気もないけど、普段明るい奴がここまで動揺してるのを見ると心配になる。
もしかしてこのまま、この町から居なくなってしまうんじゃないかという嫌な予感がして心の中で警報を鳴らし不安が心の中を支配して行き動揺から暗示の魔術が解けていく……私にはどうかそうなる前にコーちゃんの傍に行けるようにと願う事しか出来なかった。
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