治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第五章 囚われの姫と紅の槍

2話 二人を助けに

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 その手紙を見てどうしようかと悩んでいると、ぼく達の間で一緒に見ていたカエデが不思議そうに尋ねて来る。

「あの、ジラルドさんはアキラさんから以前、レースさんと同じ栄花騎士団の任務に同行してくれる協力者でAランク冒険者の【紅の魔槍】としてお名前を伺ってはいるのですけど、ミントさんって誰ですか?」
「ミント……、あぁそっか、カエデは知らないよね、ミントっていうのは、ぼく達は普段コルクって呼んでるけど、本名はミント・コルト・クラウズっていう、ぼくとダートの友人だよ」
「コルク、それなら記憶にあります協力者の一人ですよね……、ただクラウズと言うと私の聞き覚えでなければ【トレーディアス】の君主、【商王クラウズ】の血縁だと思うのですが…あの……」
「うん、カエデちゃんそれで合ってるよ?」

 ぼく達がカエデの質問に答えると、驚いた顔をして手元に持っていたペンを落としてしまう。
それを慌てて拾った彼女は理解が追い付かない顔をしてこっちを見るけど、確かに初めて聞くと困惑するかもしれない、ぼくだって他国の王様の王女様だって聞いたら同じ反応をするだろう。

「ど、どうしてそのようなお方が、レースさんやダートお姉様に助けを求めてくるんですか!?」
「あぁ、それは話が長くなるんだけどさ……」

 カエデに、コルクの事を説明する。
冒険者であるジラルドと親密な関係になった結果、王様に受け入れて貰えずに駆け落ちした事、その後この国に流れて来た事、仲間を傷付けてしまった負い目からジラルド達から逃げてしまって暫く師匠の元で一緒に暮らしていた事や、この辺境の町に一緒に移住して来た事、そして彼女を追って来たジラルド達とこの町で再開し二人が婚約した時の事と、三ヵ月前に【トレーディアス】へ行きコルクの両親にしっかりと挨拶をして認めて貰う為に二人で彼女の古郷へ帰った経緯を伝えると、まるで物語を読んだ夢見る少女のような顔をして瞳を輝かせていた。

「そんなのまるでっ!お話しに出てくる身分違いの恋をして結ばれるお姫様と平民の物語みたいじゃないですかっ!素敵ですっ!」
「カエデちゃんもそう思う?ほんと素敵だよねぇ、……でもこの手紙を見るとそうは言えないかな」
「ですよね……、ただそれを聞いてこの前、この前父上がお話ししていた事の意味が分かった気がします」
「分かったって、カエデ何か知ってるの?」
「えぇ、これはまだ公にはされていない話なので他言無用でお願いしたいのですが、先月位に北の大国【ストラフィリア】と西の大国【トレーディアス】にて、商品のやり取りの不備があったとかで、トレーディアスの方で相応の謝罪をしたのですが、ストラフィリア側にて『謝罪等不要、こちらは面目を潰された以上戦をする覚悟がある、国を滅ぼされたくなければ、我が覇王ヴォルフガング・ストラフィリアの息子ヴィーニ・トゥイスク・ヴォルフガングが近々成人する為、覇王を継ぐ者に相応しい妃が必要となった、その為に、商王クラウズ・トレーディアスの未婚の娘である第三王女ミント・コルト・クラウズを寄越せ、それで今回の事は許してやる』というやりとりがあったみたいで……」

 カエデの言葉を聞いて言葉を失ってしまう。
ダートも同じようで、真剣な顔をして黙ってしまった。
けど気になる事がある……

「でもそれっておかしくないかな、コルクが国を出て駆け落ちした事って結構な問題になったって本人から聞いた事があるんだけど、そのやり取りを聞くと彼女が国に戻ったのをまるで知っていたかのように感じる」
「そ、そうだよっ!カエデちゃん、何かおかしくない?」
「……これは私の想像何ですけど、ジラルドさんとコルクさんがトレーディアスの首都へ行き、商王クラウズへ婚約の挨拶をしに行き彼の怒りを買って二人が引き離されたのかもしれません、何故そのような想像が出来るのかと言いますと、二ヵ月前に城に侵入した賊を一名捕えて処刑し、賊に捕らわれていたミント王女を救い出す事が出来たという話が、国王達が月に一度栄花に集まって行う五大国月次総会と言う物がありまして、そこに護衛として同行していた父上が副団長の私にも、将来団長の座に就く以上はこういう情報も頭に入れて置くようにって事で共有してくれたんです。」
「処刑って……、もしかしてジラルドさん、死んじゃったの?」
「私が知ってる範囲ではそうなってますが……」

 カエデはそういうと心器のガラスペンを取り出し、手紙に向かって文字を書いていく。
『術式指定、鑑定魔術、対象筆跡』とジラルドの手紙の上に書かれた文字が空中に浮かびあがると先月の今頃に書かれたという鑑定結果が出て来た。

「カエデちゃんこれって……」
「えぇ、この世界でも使える人が少ない鑑定魔術です、ただ私の場合は書いた人の筆跡から誰が書いたか、そして目視や機械を使っては不可能と言われている、その文字が書かれた日時が鑑定出来たり、人の能力を数値化する位しか出来ませんが……」
「それだけ出来れば凄いと思うけど……」
「栄花騎士団団長の父上は、様々な物が鑑定出来るので凄いですよ……って今は鑑定結果ですね、これを見る限りジラルドさんは生きてると思います」
「ジラルドが生きているみたいで良かった……、ならやる事は一つだけだね」

 ぼくがそういうと二人は不思議そうな顔をする。
やる事は決まっている、ジラルドとコルクを助けにこの町を出てトレーディアスに行く。
そして二人をこの町に連れ帰ってくればいい。
幸い診療所の経営は安定しているし、今ならぼくやダートが不在でも問題ないだろう。

「ぼくは今から寮に行って、アキラさんにこの事を話して明日からトレーディアスに行く事を話してくる、ダートはアンさんやヒジリさんにこの事を伝えて欲しい、カエデは……どうする?」
「どうする?って……、どういうことですか?」
「ちょっとレース!?明日からトレーディアスに行くって急すぎるよっ!患者さんとかどうするの!?」
「患者の方は、最近開拓が落ち着いて来て怪我人が減った分急患が少ないから大丈夫だし、カエデの方は、出来れば一緒に来て冒険者ギルドを経由した転移の魔導具を使わせて欲しいんだ、以前アキさんが言ってたのを覚えてるんだけど栄花の人しか使えないって事なら君が一緒なら使えるよね?」

……ぼくが自分の考えを伝えると、ダートは納得してくれたようで空間収納から通信端末を取り出して二人に連絡を入れてくれる。
そしてカエデも、端末を取り出すと「……ちょっと父上に相談してみます」と言って団長に通じる番号を押すと『父上、お願いしたい事があるのですが……、えっ!?お前が決め事なら俺が全部責任取るから好きにしろって、まだ内容も言ってないよ!?、ちょっとパパ!?聞いてる!?』と大声で叫んでいるから邪魔するのは悪い気がして、そのまま診療所の物置部屋の扉を開くと寮へと向かうのだった。
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