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第五章 囚われの姫と紅の槍
39章 新たな非日常へ
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眼を覚ましたら見た事の無い部屋の中にいた。
たまに地面が揺れるように動いたりするけどここはいったい何処なのだろうか、それにしても身体がだるい、口の中は独特な気持ち悪さがあるしこれはいったい……
「レース、やっと起きたのかよ……」
声がした方を見ると、手足を縛られたダリアの姿が見える。
驚いて咄嗟に立ち上がろうとするけれど、同じように拘束されているようで動くことが出来ない。
「……ここは?ぼく達は船の上にいた筈なんだけど」
記憶が混乱しているせいか前後の事を良く思い出せない。
それに着ている服も治癒術師の白いローブを着ていた筈が、脱がされたのか上は肌着だけになっている。
本当にいったい何が……、それに同じ船に乗っていたダートは何処にいるんだろうか。
「ダート……ねぇダリア、ダートは何処にいるか分かる!?」
「今は大声を出すんじゃねぇ、俺達の状況を考えてみろよ、こうやって拘束されて床に座らされてるんだぜ?警戒しないとやべぇだろ」
「でもダートが……」
「いいから一旦落ち着けって、俺の分かる範囲で説明するけどよ、観光中にいきなりゴスペルに襲われて気を失ってそのまま誘拐されたみたいだぜ?……、母さんがどうなったのかは分からないけどさ」
ゴスペルに襲われた……、思い出して来た。
あの時いきなり襲い掛かって来た彼に鳩尾を凄い力で殴られて意識を失ったんだ……。
それにしても先程から下から突き上げられるように揺れたりするけどもしかして、何処かに移動しているのかもしれない?
「様子を見に来たのですが、声が聞こえるという事は眼が覚めたんですね」
揺れる部屋の扉が開くと外からヴィーニ王子が入って来る。
扉が閉じるまでの僅かな時間で見えたものは、凄い速さで遠ざかって行く景色だった。
「おいてめぇ、俺達を誘拐するとはどういう考えだ?」
「言葉遣いがなってないですね、王族の前でそのような発言をするなんて……、あなたが第一王子の娘でなければ今頃目の前で首を落とされていましたよ?」
「第一王子だぁ!?父さんの雰囲気が似ているって話で本当かどうか分からないのに、良くもまぁ適当な事言えるなっ!」
「それが適当じゃないんですよ……、あなた達が寝ている間にレースさんから血と魔力を採取させて頂いて国民登録時に使う魔導具を使わせて貰ったのですが」
ヴィーニ王子が一枚の紙を取り出すとそこにはこのように書かれている。
【父ヴォルフガング・ストラフィリア】、【母スノーホワイト・ヴォルフガング】、メセリーの時はそういう情報は出なかった筈だけど……
「これが証拠です、本来ならここまでの詳しい情報は開示されないのですが、私達王族のみ見る事が出来るんですよ……、まぁ本来は個人情報ですので他人に見せては行けないのですが、あなた達なら血縁ですし良いでしょう?って事でこれからは兄上と呼んでもいいですか?」
「……好きに呼べばいいよ、そんなどうでもいい事よりもダートはどうなったの?それにぼくのローブは?」
「そんなどうでもいい事ですか……、まぁいいでしょう兄上のローブですが吐瀉物まみれだったので捨てさせて頂きました、ダートさんの方はゴスペルがそのまま船に残して来たそうなので無事なはずですよ?」
もし彼女に何かあったとしたら例え相手が王子だったとしても手を出していたと思う、本当にダートが無事で良かった。
「捨てたって……、あれはぼくの大事な物なんだけど?」
「これから兄上はストラフィリアに私と一緒に戻るんですよ?、そのような物いらないでしょう」
「おめぇまじでふざけんなよ?俺達は行く気はねぇぞ!」
「無くてもあなた達の存在が必要なんですよ、あの国は男しか王位を継ぐ事が出来ないし、私は覇王に何てなりたくはないんですよ、だから……兄上達には身代わりになって貰いたいんですよ」
身代わりって……、ぼくはこの自分勝手な王子の犠牲にさせられるというのか。
そんな事の為に掴まって強制的に連れて行かれる、何なんだこの人は……
「身代わりって……ぼくはその国では死んだ事になっているんでしょ?」
「そこは私が何とかしてみますよ、商王クラウズの前でも言いましたけど必要とあれば父上に隠れて頂いて強引にでもなって貰います」
「……隠れるって何処に隠すの?それに人を隠して王位を継ぐってどういう事か分からないんだけど」
「もしや意味が分かってないんですか?……えっとですね、兄上に分かりやすく言うと死んで頂くという事ですよ、
現在の王が王位を継承する前に亡くなった場合ですが、その時近くに居た者が強制的に覇王の座を継ぐ事になります」
「つまりその場にぼくを居合わせて……?」
覇王になりたくないからってここまでの事をするというのか……、何処までヴィーニ王子は自分の事しか考えてないんだ。
「どうしてそこまでして覇王になりたくないの?」
「言いたくはないのですが、仮にもこれから王位を継ぎ覇王になる人ですから説明しましょう、実はですね……、隣国の東の大国メイディの【薬王 ショウソク・メイディ】の第五王女【メイメイ・ショウソク】さんに一目惚れしてしまいまして……、覇王の座を継ぐとなると今回のように婚姻を結びたくない相手と強引に婚約をさせられるんです、そこに私の自由意思はないんですよ、だから他の人に継がせる事でやっと私は自由になれる、そうすれば彼女に近づけるかもしれないじゃないですか」
「君を見ていると独りよがりだと師匠とジラルドに怒られる前の自分を思い出して嫌な気持ちになるんだけど」
「……師匠?それが誰かは分かりませんが、ジラルドって方はあの赤い髪の人ですよね?、独りよがりで何が悪いんですか?ストラフィリアは力さえあればそれが正義ですし、欲しい物は力で手に入れる事が許される国ですよ?だから私はゴスペルと兄上を使って力を示して自由を手に入れるんですよ」
「それは君の力じゃないよ?」
そう言った時だった、ヴィーニ王子の顔に怒りの表情が浮かんだかと思うと足で顔を蹴る。
口内を切ったのか、口から血が垂れて来てさっきとは違う意味で嫌な気持ちになって行く……。
「てめぇ!黙って聞いてれば父さんに何やってんだっ!」
「商王クラウズと同じ事を私に言うのが悪いんです、人を利用する事も立派な力なんですよ?それが分からない愚王と同じ事を言う何てそこまで兄上が頭が悪い人だと思いませんでしたね……、そんなあなたを育てたSランク冒険者の叡智カルディアや奥さんであるダートさんも同じ位に頭の出来が悪いと見える、ストラフィリアに着いたら教育をしないといけませんね」
ぼくが馬鹿にされるのは別に良い幾らでも好きに言えばいいけど、師匠やダートを馬鹿にされる事は許さない。
「……取り消してよ」
「はい?何を取り消すんですか?」
「師匠やダートを馬鹿にした事をっ!」
怒りに身を任せて手元に心器を顕現させようとするが、魔力を集める事が出来ない……。
「何をしようとしてるか分かりませんけど無駄ですよ?兄上達を拘束している布は魔力を封じる魔導具ですからね……」
「てめぇ、動けるようになったら覚えてろよ」
「えぇ、兄上の娘のあなたが私に勝てるならいつでも挑んで構いませんよ?……さて後少ししたら国境なので私はそろそろ元の場所へ戻らせて頂きますね、馬車で後三、四日したらストラフィリアの王都【スノーフィリア】に着きますのでそれまで大人しくして置いてください」
「……大人しくも何も拘束されてたら何も出来ねぇよ」
「それはそうですね……、まぁ国境を越える際に国境勤めの騎士に御者ゴスペルから変わって貰って彼に兄上達の食事等の世話をさせるので短い旅ですが楽しんでくださいね」
……ヴィーニ王子は再び扉を開けて外へと出て行く。
そのままダリアと二人きりになるけどお互いに何も出来る事が無くて黙ってしまう。
やがて揺れが収まったかと思うと今度はゴスペルが入って来てぼく達の前に座ると、その場に座り人形のように動かなくなってしまった。
何かを話そうとしても彼に監視されている為会話をする事すら出来ない数日の間、時折馬車が止まった時にゴスペルの監視の元トイレに連れて行かれ、食事は柔らかいパンと体が温まるスープを彼に食べさせて貰いながらストラフィリアの首都へと着いたのだった。
これから非日常から日常へと戻っていける筈の日々が、更なる非日常へと塗り替えられていく、そんな不安を感じつつ隙を見て必ずこの国から逃げ出してダートの元へ帰ろうと、ダリアと二人で決意を固めながら新たな日々へと向かう、必ず彼女の元へ戻れる事を信じて……
たまに地面が揺れるように動いたりするけどここはいったい何処なのだろうか、それにしても身体がだるい、口の中は独特な気持ち悪さがあるしこれはいったい……
「レース、やっと起きたのかよ……」
声がした方を見ると、手足を縛られたダリアの姿が見える。
驚いて咄嗟に立ち上がろうとするけれど、同じように拘束されているようで動くことが出来ない。
「……ここは?ぼく達は船の上にいた筈なんだけど」
記憶が混乱しているせいか前後の事を良く思い出せない。
それに着ている服も治癒術師の白いローブを着ていた筈が、脱がされたのか上は肌着だけになっている。
本当にいったい何が……、それに同じ船に乗っていたダートは何処にいるんだろうか。
「ダート……ねぇダリア、ダートは何処にいるか分かる!?」
「今は大声を出すんじゃねぇ、俺達の状況を考えてみろよ、こうやって拘束されて床に座らされてるんだぜ?警戒しないとやべぇだろ」
「でもダートが……」
「いいから一旦落ち着けって、俺の分かる範囲で説明するけどよ、観光中にいきなりゴスペルに襲われて気を失ってそのまま誘拐されたみたいだぜ?……、母さんがどうなったのかは分からないけどさ」
ゴスペルに襲われた……、思い出して来た。
あの時いきなり襲い掛かって来た彼に鳩尾を凄い力で殴られて意識を失ったんだ……。
それにしても先程から下から突き上げられるように揺れたりするけどもしかして、何処かに移動しているのかもしれない?
「様子を見に来たのですが、声が聞こえるという事は眼が覚めたんですね」
揺れる部屋の扉が開くと外からヴィーニ王子が入って来る。
扉が閉じるまでの僅かな時間で見えたものは、凄い速さで遠ざかって行く景色だった。
「おいてめぇ、俺達を誘拐するとはどういう考えだ?」
「言葉遣いがなってないですね、王族の前でそのような発言をするなんて……、あなたが第一王子の娘でなければ今頃目の前で首を落とされていましたよ?」
「第一王子だぁ!?父さんの雰囲気が似ているって話で本当かどうか分からないのに、良くもまぁ適当な事言えるなっ!」
「それが適当じゃないんですよ……、あなた達が寝ている間にレースさんから血と魔力を採取させて頂いて国民登録時に使う魔導具を使わせて貰ったのですが」
ヴィーニ王子が一枚の紙を取り出すとそこにはこのように書かれている。
【父ヴォルフガング・ストラフィリア】、【母スノーホワイト・ヴォルフガング】、メセリーの時はそういう情報は出なかった筈だけど……
「これが証拠です、本来ならここまでの詳しい情報は開示されないのですが、私達王族のみ見る事が出来るんですよ……、まぁ本来は個人情報ですので他人に見せては行けないのですが、あなた達なら血縁ですし良いでしょう?って事でこれからは兄上と呼んでもいいですか?」
「……好きに呼べばいいよ、そんなどうでもいい事よりもダートはどうなったの?それにぼくのローブは?」
「そんなどうでもいい事ですか……、まぁいいでしょう兄上のローブですが吐瀉物まみれだったので捨てさせて頂きました、ダートさんの方はゴスペルがそのまま船に残して来たそうなので無事なはずですよ?」
もし彼女に何かあったとしたら例え相手が王子だったとしても手を出していたと思う、本当にダートが無事で良かった。
「捨てたって……、あれはぼくの大事な物なんだけど?」
「これから兄上はストラフィリアに私と一緒に戻るんですよ?、そのような物いらないでしょう」
「おめぇまじでふざけんなよ?俺達は行く気はねぇぞ!」
「無くてもあなた達の存在が必要なんですよ、あの国は男しか王位を継ぐ事が出来ないし、私は覇王に何てなりたくはないんですよ、だから……兄上達には身代わりになって貰いたいんですよ」
身代わりって……、ぼくはこの自分勝手な王子の犠牲にさせられるというのか。
そんな事の為に掴まって強制的に連れて行かれる、何なんだこの人は……
「身代わりって……ぼくはその国では死んだ事になっているんでしょ?」
「そこは私が何とかしてみますよ、商王クラウズの前でも言いましたけど必要とあれば父上に隠れて頂いて強引にでもなって貰います」
「……隠れるって何処に隠すの?それに人を隠して王位を継ぐってどういう事か分からないんだけど」
「もしや意味が分かってないんですか?……えっとですね、兄上に分かりやすく言うと死んで頂くという事ですよ、
現在の王が王位を継承する前に亡くなった場合ですが、その時近くに居た者が強制的に覇王の座を継ぐ事になります」
「つまりその場にぼくを居合わせて……?」
覇王になりたくないからってここまでの事をするというのか……、何処までヴィーニ王子は自分の事しか考えてないんだ。
「どうしてそこまでして覇王になりたくないの?」
「言いたくはないのですが、仮にもこれから王位を継ぎ覇王になる人ですから説明しましょう、実はですね……、隣国の東の大国メイディの【薬王 ショウソク・メイディ】の第五王女【メイメイ・ショウソク】さんに一目惚れしてしまいまして……、覇王の座を継ぐとなると今回のように婚姻を結びたくない相手と強引に婚約をさせられるんです、そこに私の自由意思はないんですよ、だから他の人に継がせる事でやっと私は自由になれる、そうすれば彼女に近づけるかもしれないじゃないですか」
「君を見ていると独りよがりだと師匠とジラルドに怒られる前の自分を思い出して嫌な気持ちになるんだけど」
「……師匠?それが誰かは分かりませんが、ジラルドって方はあの赤い髪の人ですよね?、独りよがりで何が悪いんですか?ストラフィリアは力さえあればそれが正義ですし、欲しい物は力で手に入れる事が許される国ですよ?だから私はゴスペルと兄上を使って力を示して自由を手に入れるんですよ」
「それは君の力じゃないよ?」
そう言った時だった、ヴィーニ王子の顔に怒りの表情が浮かんだかと思うと足で顔を蹴る。
口内を切ったのか、口から血が垂れて来てさっきとは違う意味で嫌な気持ちになって行く……。
「てめぇ!黙って聞いてれば父さんに何やってんだっ!」
「商王クラウズと同じ事を私に言うのが悪いんです、人を利用する事も立派な力なんですよ?それが分からない愚王と同じ事を言う何てそこまで兄上が頭が悪い人だと思いませんでしたね……、そんなあなたを育てたSランク冒険者の叡智カルディアや奥さんであるダートさんも同じ位に頭の出来が悪いと見える、ストラフィリアに着いたら教育をしないといけませんね」
ぼくが馬鹿にされるのは別に良い幾らでも好きに言えばいいけど、師匠やダートを馬鹿にされる事は許さない。
「……取り消してよ」
「はい?何を取り消すんですか?」
「師匠やダートを馬鹿にした事をっ!」
怒りに身を任せて手元に心器を顕現させようとするが、魔力を集める事が出来ない……。
「何をしようとしてるか分かりませんけど無駄ですよ?兄上達を拘束している布は魔力を封じる魔導具ですからね……」
「てめぇ、動けるようになったら覚えてろよ」
「えぇ、兄上の娘のあなたが私に勝てるならいつでも挑んで構いませんよ?……さて後少ししたら国境なので私はそろそろ元の場所へ戻らせて頂きますね、馬車で後三、四日したらストラフィリアの王都【スノーフィリア】に着きますのでそれまで大人しくして置いてください」
「……大人しくも何も拘束されてたら何も出来ねぇよ」
「それはそうですね……、まぁ国境を越える際に国境勤めの騎士に御者ゴスペルから変わって貰って彼に兄上達の食事等の世話をさせるので短い旅ですが楽しんでくださいね」
……ヴィーニ王子は再び扉を開けて外へと出て行く。
そのままダリアと二人きりになるけどお互いに何も出来る事が無くて黙ってしまう。
やがて揺れが収まったかと思うと今度はゴスペルが入って来てぼく達の前に座ると、その場に座り人形のように動かなくなってしまった。
何かを話そうとしても彼に監視されている為会話をする事すら出来ない数日の間、時折馬車が止まった時にゴスペルの監視の元トイレに連れて行かれ、食事は柔らかいパンと体が温まるスープを彼に食べさせて貰いながらストラフィリアの首都へと着いたのだった。
これから非日常から日常へと戻っていける筈の日々が、更なる非日常へと塗り替えられていく、そんな不安を感じつつ隙を見て必ずこの国から逃げ出してダートの元へ帰ろうと、ダリアと二人で決意を固めながら新たな日々へと向かう、必ず彼女の元へ戻れる事を信じて……
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