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第六章 明かされた出自と失われた時間

21話 朝起きて眼に入るの光景

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 朝起きたらまた関節を決められていたり、腕の感覚が無かったりするんじゃないかと思っていたけどそんな事は無かった。
むしろ眼を覚まして身体を起こした時に見えた光景は……

「何で、お姉様とミュラッカ様がレースさんと同じベッドの上で寝ているんですか?」
「えっとそれは……ね?、気付いたら一緒に寝ちゃってたっていうか朝になってたというか……」
「カエデ様これは必要な事で……、家族の中を深めようという深い理由が……」

 何故か二人が床に正座させられていてカエデにお説教されていた。

「えっとこれは?」
「あ、レースさん起きたんですね、これはですね、朝になって二人を起こしに行ったら部屋にいなかったのでもしやと思いレースさん部屋に行ったら、奥さんでもない女性が一緒の布団で寝ていますし、ダートお姉様もそれを許しているみたいに三人で一つのベッドで朝を迎えてる事についてお説教中何です、特に昨日の件で眼を覚ましたらレースさんにこの世界について説明する事になっていたんですが、それがいったい何をしているのかと」
「別にいいんじゃない?、だってダートとは将来結婚する予定だしミュラッカはぼくの妹だから一緒に寝たくなる時位あると思うよ?」
「お姉様の方はそれでいいと思いますけど、ミュラッカ様は王族ですよ?しかも必要とあれば血を残す為に近親であれど子を残す義務があります……、つまり間違いがあってもおかしくないんですよ?」

 この子はいったい何を言っているんだろうか、ぼくとミュラッカがそうなる事なんてないしそもそも彼女の好みは【自分よりも強い男】という恐ろしい程に高い理想の持ち主だ。
特に昨日の戦いを思い出すと、ぼく達三人で掛かってもダートの不意打ち以外効果が無かった時点で絶望的なのはお察しだろう。

「カエデ様、私はお兄様とそのような関係になる予定は無いので妄想を言葉にするのは止めて貰えませんか?」
「妄想って……、でもですねっ!」
「私はですね、私よりも強い男としか子供を作る気はないですし、婚姻する気もないんです」
「……あのミュラッカ様、それはいささか理想が高すぎはしませんか?」
「それ位分かっています、だから待たずに自分から強そうな人がいたら自分から行って戦いを挑もうと思っています」

 何ていうか時間をおいて聞くと、あんなにしっかりとした妹であるミュラッカが残念な人に思えてしまう。

「……いつか現れたらいいですね」
「いるわよ?強そうな人が……」
「ミュラッカそうなの?」
「あの栄花騎士団最高幹部のシンという方が……、最高幹部というからには強い筈ですし、それに馬車であの、言ったじゃないですか」
「言ったって……、ミュラッカまさかあなた」

 ミュラッカは立ち上がると両手で顔を隠して耳まで真っ赤にしてしまう。
その姿を見てぼく達は何て言えばいいのか分からなくなってしまって開いた口が塞がらなくなる。

「あの方は私を見て、お前の方が好きって言ってくれました……、だからそういう事ですよね?シン、いえシン様は私に気があるのです、きっとそうっ!だからルミィとダリアを助けたら戦いを挑んで、負けたらこういうの『くっ!全力を出して負けた以上、その剣で私を好きにしなさいっ!強いあなたに負けたならあなたに殺されても文句は無いわっ!』って、すると彼は剣を下げて『分かった……、それなら俺の好きにさせてもらうぞミュラッカ、お前は今日から俺の嫁になれ、そして共にこの国を良くしよう!』って!」
「……うわぁ」
「あのミュラッカ様?」
「ミュラッカ……、夢物語の見過ぎだよ?」
「例え夢や妄想だったとしても必ずそうなるようにするんです!」

 とてもほんの少し前に『妄想を言葉にするのは止めて貰えませんか』と言った人物と同じ人物だとは思えない。

「それなら今から私が副団長として許可するので、今からシンさんと戦って来ていいですよ?……、何だかこのままだと『私……、この戦いが終わったらシンさんと決闘するんだ』とか言い出して死にそうなんで」
「ほんとですか!?カエデ様ありがとうございますっ!では行ってまいります!」

 ミュラッカが部屋を走って出て行くけど本当に二人を合わせて大丈夫なんだろうか……。
シンが勝ってもめんどくさい事になるし、負けても『あなたが私に勝てるようになるまで鍛えます!』とか言って付き纏いそうな気がしてめんどくさくなる未来しか想像が出来ない。

「……ミュラッカ様ってあんなに面白い人だったんですね、初対面ではまじめそうな人だったのにびっくりしてしまいました」
「まぁ、うんそうなるよね」
「レース、私ミュラッカの事好きになっちゃったかも、凄い可愛いんだもの」
「かわいい……?」
「うん、恋する少女みたいでかわいいよね」

 その可愛いの意味が分からなくて困惑してしまう。
ぼくからしたら勝手に妄想して暴走してる痛い妹に見えるんだけど、もしかしてそれが可愛いって事なのだろうか。

「お姉様、今はその話を止めてこちらの話をしたいです、その為にお姉様達を起こしに来たんですから」
「あぁうん……」
「ではまずですが、早朝に目が覚めたので村に出て周辺を散策していたのですが……、Sランク冒険者【死絶】カーティス・ハルサーと【死絶傭兵団】の団員さん達が何故かこの村にいる事を確認しました」
「しましたって、カエデちゃん大丈夫なの?」
「はい……、遠目に見ただけなので問題無かったのですが、周りにヴィーニ王子達がいないみたいなんですよね」

 本当に協力関係にあるならヴィーニが近くにいると思っていたけど、いないという事はもしかして無関係なのかもしれない?

「これはもしかして私の建てた作戦が外れて、無関係かもしれないので朝食を取り次第皆で死絶傭兵団に接触しようと思います、それでもし本当にヴィーニ王子と関係が無かった場合こちら側で雇い戦力に出来ればなと」
「もし関係があった場合どうするの?」
「その時は当初の予定とは変わりますが、死絶傭兵団の方々を私達で何とか無力化してしまおうかと……、特に昨日のミュラッカ様の強さを見てこちらの最高戦力であるトキさんとシンさんの二人と組ませれば【死絶】カーティスにも通じると判断出来ましたので、覇王ヴォルフガンとの合流前にヴィーニ王子側の戦力を削ります」
「なるほど……」
「なので今から皆で屋敷内に用意されている食材を使って朝食を取ったら向かいましょう……って、えぇ!?」

……カエデが驚いた顔をして窓の方を指差すとそこには、雪の積もった大地の上で心器の大剣を構えたミュラッカがシンを追いかけている姿があり、彼は必死に攻撃を避けては逃げ続けているけど『いい加減真面目に戦いなさいっ!あなたなら私を倒せると分かってるのですよ?さぁっ!さぁさぁっ!』とミュラッカがどんどん距離を詰めて行く。
いったいこんな時に何をしているんだと思いながら眺めていたけど、そのまま窓から見える範囲の外に消えてしまい姿を見失ってしまった。
そんな光景を見せられたぼく達は『取り合えず朝食を取ったらこの村にいる死絶傭兵団の所に行く書き置きを残して後で合流をして貰う事にして、こっちは先にトキさんを入れた四人で向かおう』という気持ちになるのだった。
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