治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

文字の大きさ
240 / 600
第六章 明かされた出自と失われた時間

44話 即席の新術

しおりを挟む
 術式を作っている最中もガイストの翼から放たれる、無数の炎の羽を空間魔術を使い何処かへと飛ばして防ぎながらダートが相手へと迫って行く。
ぼくにも出来る筈だと思ったけど、肝心の戦いながら魔力の糸を味方に繋げる方法が浮かばない、こういう時は師匠に教わった事を思い出せ、あの人は何といっていただろうか。

「確か魔術と治癒術は元は同じ技術……、という事は魔術に治癒術を乗せる事が出来れば?いやそれだとスイみたいに魔力の糸を繋げる方法とは違う、ならどうすれば?」

 ならマスカレイドはぼくが子供の頃に何て言っていただろうか、確か魔力を細い線に変えて物質に刻み付ける事で回路を精製し、設定した動作を魔力を通す事で稼働させる……

『覚えて置け小僧、お前には魔術を扱う適正があり、ルディと俺の教えを受ける以上は戦いに向いて無かったとしても技術だけは覚えて貰う、単体の場合は音を鳴らす等の簡単な動作しか出来ないが、複数の回路とそれらを制御する為の動作と制御回路を作成する事でより複雑な魔導具を作る事が出来る、まだ未開発の魔導具になるのだが例えるなら遠くの誰かが見ている風景を映し出す事が出来るようになるだろうし、声を魔力に変換する事で遠方へと送り対話が出来るようにもなる筈だ、つまり魔導具とはそこに無限の可能性がある、魔力に触れ使い方を学ぶという事は発想を思考へと変換し、原理を持って事を成すという事だ、つまり思い付いた事を何でもやってみろ、決して失敗を恐れるな、様々な事を試し出た結果から新しい物を作り出せ』

 当時言われた事を一言一句紙に纏めて何度も読み上げたから、思い出そうとすればいつでも二人の言っていた事は思い出せる。
当時は何を言いたいのか分からなかったけど、今になって思うと『取り合えず思いついたらやれ』と言いたかったのだろう。
なら失敗しても良い、魔力を直接皆に線のように飛ばして身体の一部に接続した後に線から糸へと魔力の質を変えれば治癒術をスイが使っていた時のように使える筈だ。

「皆っ!少しだけで良いからその場で止まって欲しいやりたい事があるんだっ!」
「止まってってレースいきなり何を……」
「レース兄様?」
「信じて止まれ、あれはお前たちの兄で旦那だろ」
「勿論私はレースを信じてる、いつだっていつまでも」

 接近してガイストの攻撃を受け流していたダートと、ぼくの後ろに付いて来ていたミュラッカ達が走るのを止めた瞬間に自身の魔力を線のように伸ばす想像をして、更に魔術を相手に飛ばすのと同じ要領で皆に撃ち出す。

「兄様これは?」
「そのまま動かないで、上手く行けば皆の傷を癒せる筈だから」
「……筈って、でもこの傷が癒せるならお願いするわ」

 思ったように出来たから後は線を糸に変えるだけだ、出来るだろうかという不安はあるけどここでやらなければやられるのはぼく達だ。
少しずつ細く線を弾力のある糸へ、相手が激しく動いても切れないような魔力へと……

「多分これでうまく行ったはず、皆もう動いて大丈夫っ!」

 意識を集中させて治癒術を発動させると、ミュラッカ達の負った傷が癒えて行くけど思ったより効果が薄い。
何というか治癒術を使った後に少しだけ間を置いてから傷が塞がっているような気がするし、それに何よりも普段使うよりも魔力の消費が激しい。

「これなら確かに戦えるっ!ダート義姉様、私達が前線へ行くので下がって下さいっ!」
「分かったっ!私じゃ攻撃を防ぐ事しか出来なかったから、ミュラッカちゃんお願いっ!」
「……いやこれは、ミュラッカお前は俺の後ろにいて二人を守れ」
「そんな、父様何故っ!」
「この治癒術の効果に気付けて無いからだ、いいから俺の言うとおりにしろ」

 そう言ってガイストへと向かって行く、ヴォルフガングは気付いたんだと思う傷の治りが緩やかだという事に、心器の能力である【高速詠唱】を使ってるのにこれだ。
多分だけど距離が離れた相手に対して治癒術のを使う経験が足りないから、効果があっても時間差が生じてしまっているんだと思う。
予想が間違いでなければぼくが治癒術を切っても暫くは効果がある筈だけど、この場でそれを試す事は出来ないし、この糸を切る訳には行かない以上どうする事も出来ない。

「いくら傷が癒えようと、体力は戻らんからのぅっ!徐々に我の炎で焼き尽くしてくれるわっ!」
「……そうだな、何れ力尽きるとは思うがそれまでの間にガイスト、おまえを倒せばいいだけの事だ」

 ヴォルフガングの大剣が周囲の雪を巻き上げていくと数えられない程の狼へと姿を変えていく。
その狼達はガイストの心器からヴォルフガングを隠すように体を溶かしながら動くと、自身の身体を蒸気へと変えて鏡を曇らせて姿を移せなくしてしまう。

「……考えおったなヴォルフガングっ!じゃがのぅっ!幾ら能力の一部が封じられようと出来る事はまだあるのだっ!、我が奥の手で始末してくれるっ!」
「当然だろう、それにこれは俺とお前の戦いだ……、ミュラッカよ、俺の背中を見て学べ、これが覇王を継ぎ人柱になるという真の意味をな」
「……父様?」
「そしてガイストいやフランメよ、奥の手という物を使うのが遅かったな……、近づけさえすれば後は俺の間合いだ」

……ヴォルフガングが踏み込み大剣を横薙ぎにしてガイストを斬り付けるが、まるで金属同士を打ち付けたような音がして弾かれてしまう。
彼の顔が驚愕に眼が見開かれると同時に武器が当たった個所の周囲の炎が消え、彼女の姿が一部露わになる。
爬虫類特有の眼を紅く輝かせ、白く輝く鱗が顔の半分を覆い……、それが大剣が当たり破けた衣服の下にも生えていて人族ではない異形な姿なのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...