治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第七章 変わりすぎた日常

43話 探索と言語

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 気を失ったスイをフィリアに任せ、膝を痛めたらしいミオラームをぼくが背中に背負って帰ろうと思ったけど……

「帰る前に吹き飛んだ頭を探しに行く、もしかしたらマスカレイドが作った生物兵器について私だったら調べる事が出来るかもしれないから」
「なら一度三手に分かれて探してみない?」

 確かに三手に分かれて探した方が見つかる可能性が高いと思うけど、ここは未開拓地域だからもし今、他のモンスターに遭遇して戦闘になったりしたらぼく一人では生き残れるのか分からない。
心器を再び顕現させるってなっても魔力が足りないせいで不可能だし、そうなったら肉体強化で戦うしかないけど、こういう時武器を空間収納の中にしまっていると不便だと思う。
そういう意味では次からは戦闘前に予め出しておいた方が良さそうだ。

「ならそうするけど、暫くしたら何も見つからなくてもここに全員集合で、後ミオは――」
「私はレース様と一緒に行きますわっ!だって足が痛くて動けませんものっ!」
「背負って歩くとなると何かあった時危ないんだけど……」
「それなら私が何とかするので大丈夫ですわ?と言う事なので、ダート様……レース様を暫くお借り致しますわね?」
「……レースの事だから大丈夫だと思うけど、ミオラーム様、宜しくお願い致します」

 そうしてぼくはミオラームを背負って飛んで行ったであろう場所を探しているけど……、奥に進めば進む程異様な光景が目に映る。
あの生物兵器が食い荒らしたと思われる、原形を留めておらずどのような種族か分からないモンスターや、主に緑の肌を持つゴブリンに犬のような顔を持つコボルトの魔族の死体がそこかしろに投げ捨てられていて、彼等の表情は皆恐怖を張り付けた状態で死んでいた。

「これは……」
「酷いですわね……」

 魔族達の死体を見ると狩りをしていたのだろうか、弓や槍等の武器を持っていたりするけど……、遭遇して襲われた時に生き残ろうと必死に戦ったのかもしれない。
でもあの硬い鱗に弾かれて槍で傷をつける事は出来なかったろうし、弓から放たれる矢だって刺さっても直ぐに傷が塞がってしまう。
それでも彼等が頑張ってくれたから、ぼく達が生き残る事が出来たのかもしれないと思うと出来れば丁寧に弔ってあげたい気持ちになるけど、今はそんな事をしている暇はないから諦めるしかない……

「ぼく達が今こうして生きてられたのは彼等の犠牲があったからかもしれないね」
「そうなんですの?」
「装備を見ると分かると思うんだけど、人の身体の背中に刺さっていた矢は彼等がやったんだと思う……」
「でも槍は鉄製じゃなくて石器だから傷をつけられなかったのではなくて?」
「そうだけど、必死に戦ってくれたのは確かだよ」

 人の腕に刺さって折れていた武器はやはり、護衛に着いていた冒険者達の武器なのだろう。
それならこの近くに開拓に参加している人達の死体があのかもしれないけど……、出来れば人の食い荒らされた姿をミオラームには見せたくない。

「……あら?何か声が聞こえませんこと?」
「声?ぼくには聞こえないけどどこらへんか分かる?」
「えっと、多分なのですけれどあちらの方から聞こえますわ」

 ミオラームが指差した方向に向かって進みながら耳を澄ますと、確かに声のような物が聞こえて来る。
もしかして生存者がいるのかもしれない、早足で向かうとそこには……

「11100110 10010000 10001101 11100101 10000010 10110111 11100100 10111111 10101110 11100101 10111110 10101001」

 生物兵器の頭がそこに落ちていて、何やら呪文のような物を一定のリズムで唱えている。
意味が分かれば何を発動させようとしているのか分かるとは思うんだけど……

「……損傷修復って言ってますわね」
「ミオラーム、何を言っているのか分かるの?」
「えぇ……、レース様に分かりやすく説明致しますと、私達の言語を数字に変換して機械に命令を送り動いていると思って頂ければわかりやすいとは思うのですが……、遥か昔、まだマーシェンスが蒸気と機械の国だった頃に使われておりまして、今はもう王族以外では意味を理解出来る者はいなかった筈ですが、これはどうやら先王がマスカレイドに漏らしたとみて間違いないですわね」
「それをぼくに言って大丈夫?」
「別に構いませんわ?この言語が漏れた所で理解出来るのは現状、私とマスカレイドしか居ないですもの……、それに兄や姉達は自分で物を考える事を止めてマスカレイドに心酔してしまった人達でしたから、何も分からないと思いますわ」

 話を聞いていて思ったけど、そんな状態になっていたからこそ彼からしたらあの国は居心地が良かったのかもしれない。
王族の面倒を見る事で後は何をしても許されると言うのは凄い環境だと思うけど……、ミオラームがそうならないで良かった。

「ならいいけど、どうして今は使われてないのかな……」
「それは簡単な事ですわよ?、この世界には魔力がありますし、科学と魔術を組み合わせて生まれた魔科学が発展したせいですわね……、魔力に方向性を与える事で言語を通さずに機械を動かす事が出来るようになったのが大きいですけれど、詳しくお話しすると専門的な事になるので止めておきますわ、聞いても分からないと思いますし」
「何となくそういう流れがあったんだなって事だけ分かったから大丈夫だよ、ありがとう」
「ふふ、どういたしましてですわぁっ!レース様にお礼を言われるのは嬉しいですのよっ!」
「なら良かったよ……、取り合えず見つけたから合流場所に戻ろうか」

……ぼく達が戻ると、大分前に二人も戻って来ていたようで出迎えてくれる。
こっちに頭部があった事を伝えた後にフィリアとダートが向かった先には何があったのか聞いて見ると……、フィリアの方は護衛の冒険者と開拓に参加している領民だと思われる人達の無惨な死体以外には特に何も無かったらしい。
ダートの方も同じような感じだったらしいけど、その中に一人折れた槍を二本持った男性の亡骸があったらしく……、人型部分の腕に刺さっていた物は彼の物だろうという話になった。
一応身元が分かるものとして冒険者ギルドのカードが破損せずに残っていたらしく後で戻った際に職員に渡すそうだ。
そんなやり取りをした後、皆で頭部がある場所に行くとそこにあった筈の頭部が無くなっていたのだった。
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