301 / 600
第七章 変わりすぎた日常
48話 禁忌の治癒術の危険性
しおりを挟む
あの後二階の居住スペースに行ったらリビングのソファーでサリッサが眠っていた。
そしてぼく達が戻って来たのに気付くと、キッチンに歩いて行って温めた料理を出してくれると……
『本日お帰りになられるのか分かりませんでしたが、お二人のお食事を用意してお待ちしておりましたので……、冷めないうちにお食べ下さいね?』
と言うと頭を深く下げて――
『では、私はもう日が暮れたので先に休ませて頂きます……、あ、後お二人のお部屋の方ですが外に音が漏れないように防音対策しておきましたのでご安心して、夜をおやすみくださいね』
……その後、何とも言えない気まずい雰囲気になったけど、特にあったとしても今日の反省会以外にはする事が無く気が付いたら朝になっていた。
「……で?私の手が治るって言ってたけどどうやって治すの?」
今日は診療日の休診日だから、集中してスイの治療を行う事が出来る。
だから起きて直ぐ朝食を食べる前に彼女の元に行ったけど、既に起きてぼくの事を待っていたようで――
「スイ、起きてたの?」
「起きてるわよ、禁忌指定された治癒術をこの目で見る事なんて滅多にないし」
「見るって言っても……、使う時に麻酔を体内に入れて眠らせて体から寝てるうちに終わると思うよ?」
「……それだと見れないじゃない、嫌よそんなの、痛みの方は薬で何とかするから麻酔無しでやって欲しいんだけど?」
「ぼくが言うのもどうかと思うけど……、正気?」
人の失われた部分を再生する治癒術を作ったぼくが言うのもどうかと思うけど、正直それを見たいというのはどうかと思う。
スイがそういうのなら見せてあげたいけど……、以前自分に使った時の気が狂いそうな程のあの痛みは正直耐えるだけでも精一杯だったから、彼女がそれに耐えられるのか心配でしかない。
だって肉体強化の適正が斥候型だから、使うと五感が敏感になりやすい部分がある以上、薬で幾ら痛みを和らげたり感覚を麻痺させたとしても、抑えるのに限界がある筈だ。
そう思っている間にスイが自身の腰に下げている道具袋から、薬の入った注射器を取り出すと自分で刺して体内へと入れる。
「治癒術で薬の効果が出るを早くしたから、これで行けるわ?」
「……本当にいいの?」
「えぇ、思い切ってやってちょうだい」
「分かったけど、後悔しても知らないからね」
心器の長杖を手元に顕現させると、それをスイの失った手に当てて魔力を集中して行く。
彼女の脳内にある身体本来の形を引っ張り出すイメージをしながら、魔力を同調させて行き……、手の周囲を魔力で覆うようにすると……
「あ、これ、あなた何考えてるの!?」
「何って……、失くした部分を作り直すんだけど?」
「作り直すって、これはそんなんじゃ――」
その瞬間スイの眼を大きく見開かれる。
まるで痛みとは違う何かを耐えるように、歯を食いしばるその顔はとても苦しそうだけど本当に大丈夫なのだろうか。
とは言えそうしている間にも骨が形成されて行き、その上に血管と神経が細い糸のように伸びて行く。
そして周囲を覆うように筋肉が切断面から伸びて、指を動かすのに必要な筋が指先へとゆっくりと繋がると
「んんっ!?」
……スイの口の中で歯が折れる音がした。
このままだと口内を必要以上に傷つけてしまい、出血により喉が詰まった結果上手く呼吸が出来なくなってしまう。
そうなってしまった場合、切断面の再生以前の問題だから一度手の方に回している魔力を止めて開いてる方の手で彼女の顔に触れて口を開けると、もしもの為に予め用意しておいた清潔な布を口に入れてこれ以上かみ砕かないように噛ませながら、治癒術で出血を止める。
「……だから止めた方がいいって言ったのに」
「んあんっ!んんっん!んんにぁんんいん!?」
「喋ると傷が開くかもしれないから黙ってて」
「……」
「大丈夫、もう終わるから」
そして再び長杖に魔力を通すと手の再生を再開する。
筋肉と筋が剥き出しの状態から脂肪、真皮、表皮と形成されて行き……、指先には傷一つない綺麗な爪が生えて行く。
後は繋がった血管を機能させる為に、魔力を血液へと変換し、神経に脳から発せられる電気信号が通る様にと、彼女の脳に指令を送って作り直された親指の指先から小指までゆっくりと関節を順番に動かして、機能に問題が無いかを調べて無事に人体の一部として接続されている事を確認した。
そして魔力の同調を切って治療を終えると……
「……終わったから、もう口の布を取っていいよ」
「あなた、カルディア様以上の異常者よ」
いきなり母さんよりも異常だと言われてしまい困惑する。
あの人なら正直、今のぼくよりもレベルが高い治癒術が使える筈だし、この禁忌指定された術ももっと効率的に、更にはより危険性を排除した安全な方法で使う事が出来る筈だ。
正直その方が異常だと思うんだけどな……
「……ふぅ、でもありがとう、おかげでどうして禁忌指定されたか正しく理解出来たわ」
「正しくってどういう事?」
「この術は人の寿命を確実に削るって事……、失われた部分を治すのではなく強引に体全体を細胞レベルで作り変える事で文字通り作り直す、それにより本来の細胞の寿命を無視した異常な分裂が行われるという事は……、損傷部分の範囲が大きければ多い程寿命が大きく削られるって事よ」
「……、作ったぼくが言うのもどうかと思うけどそんなリスクがあるだなんて思っていなかった」
「でしょうね……、正直人の手で生み出してはいけないレベルの術だもの、今回は私がお願いして使って貰ったけど、次からは何があっても使っちゃダメよ、やり過ぎたらあなた……禁忌を犯した存在として指名手配されて、過去の私みたいに討伐対象になるわよ」
……そう言って難しい顔をするスイは『……でもこの術なら応用出来れば父を戻す事が出来そう』と言いつつ、口の中に手を突っ込むと治癒術を発動させて何かをしている。
いったい……、どうしたのだろうかと思っていると『折れて砕けた歯を治癒術で固めて元に戻したのよ、さっきの禁忌の術でもこうやって使えばデメリットは減らせるでしょ?』と笑顔で言うのだった。
そしてぼく達が戻って来たのに気付くと、キッチンに歩いて行って温めた料理を出してくれると……
『本日お帰りになられるのか分かりませんでしたが、お二人のお食事を用意してお待ちしておりましたので……、冷めないうちにお食べ下さいね?』
と言うと頭を深く下げて――
『では、私はもう日が暮れたので先に休ませて頂きます……、あ、後お二人のお部屋の方ですが外に音が漏れないように防音対策しておきましたのでご安心して、夜をおやすみくださいね』
……その後、何とも言えない気まずい雰囲気になったけど、特にあったとしても今日の反省会以外にはする事が無く気が付いたら朝になっていた。
「……で?私の手が治るって言ってたけどどうやって治すの?」
今日は診療日の休診日だから、集中してスイの治療を行う事が出来る。
だから起きて直ぐ朝食を食べる前に彼女の元に行ったけど、既に起きてぼくの事を待っていたようで――
「スイ、起きてたの?」
「起きてるわよ、禁忌指定された治癒術をこの目で見る事なんて滅多にないし」
「見るって言っても……、使う時に麻酔を体内に入れて眠らせて体から寝てるうちに終わると思うよ?」
「……それだと見れないじゃない、嫌よそんなの、痛みの方は薬で何とかするから麻酔無しでやって欲しいんだけど?」
「ぼくが言うのもどうかと思うけど……、正気?」
人の失われた部分を再生する治癒術を作ったぼくが言うのもどうかと思うけど、正直それを見たいというのはどうかと思う。
スイがそういうのなら見せてあげたいけど……、以前自分に使った時の気が狂いそうな程のあの痛みは正直耐えるだけでも精一杯だったから、彼女がそれに耐えられるのか心配でしかない。
だって肉体強化の適正が斥候型だから、使うと五感が敏感になりやすい部分がある以上、薬で幾ら痛みを和らげたり感覚を麻痺させたとしても、抑えるのに限界がある筈だ。
そう思っている間にスイが自身の腰に下げている道具袋から、薬の入った注射器を取り出すと自分で刺して体内へと入れる。
「治癒術で薬の効果が出るを早くしたから、これで行けるわ?」
「……本当にいいの?」
「えぇ、思い切ってやってちょうだい」
「分かったけど、後悔しても知らないからね」
心器の長杖を手元に顕現させると、それをスイの失った手に当てて魔力を集中して行く。
彼女の脳内にある身体本来の形を引っ張り出すイメージをしながら、魔力を同調させて行き……、手の周囲を魔力で覆うようにすると……
「あ、これ、あなた何考えてるの!?」
「何って……、失くした部分を作り直すんだけど?」
「作り直すって、これはそんなんじゃ――」
その瞬間スイの眼を大きく見開かれる。
まるで痛みとは違う何かを耐えるように、歯を食いしばるその顔はとても苦しそうだけど本当に大丈夫なのだろうか。
とは言えそうしている間にも骨が形成されて行き、その上に血管と神経が細い糸のように伸びて行く。
そして周囲を覆うように筋肉が切断面から伸びて、指を動かすのに必要な筋が指先へとゆっくりと繋がると
「んんっ!?」
……スイの口の中で歯が折れる音がした。
このままだと口内を必要以上に傷つけてしまい、出血により喉が詰まった結果上手く呼吸が出来なくなってしまう。
そうなってしまった場合、切断面の再生以前の問題だから一度手の方に回している魔力を止めて開いてる方の手で彼女の顔に触れて口を開けると、もしもの為に予め用意しておいた清潔な布を口に入れてこれ以上かみ砕かないように噛ませながら、治癒術で出血を止める。
「……だから止めた方がいいって言ったのに」
「んあんっ!んんっん!んんにぁんんいん!?」
「喋ると傷が開くかもしれないから黙ってて」
「……」
「大丈夫、もう終わるから」
そして再び長杖に魔力を通すと手の再生を再開する。
筋肉と筋が剥き出しの状態から脂肪、真皮、表皮と形成されて行き……、指先には傷一つない綺麗な爪が生えて行く。
後は繋がった血管を機能させる為に、魔力を血液へと変換し、神経に脳から発せられる電気信号が通る様にと、彼女の脳に指令を送って作り直された親指の指先から小指までゆっくりと関節を順番に動かして、機能に問題が無いかを調べて無事に人体の一部として接続されている事を確認した。
そして魔力の同調を切って治療を終えると……
「……終わったから、もう口の布を取っていいよ」
「あなた、カルディア様以上の異常者よ」
いきなり母さんよりも異常だと言われてしまい困惑する。
あの人なら正直、今のぼくよりもレベルが高い治癒術が使える筈だし、この禁忌指定された術ももっと効率的に、更にはより危険性を排除した安全な方法で使う事が出来る筈だ。
正直その方が異常だと思うんだけどな……
「……ふぅ、でもありがとう、おかげでどうして禁忌指定されたか正しく理解出来たわ」
「正しくってどういう事?」
「この術は人の寿命を確実に削るって事……、失われた部分を治すのではなく強引に体全体を細胞レベルで作り変える事で文字通り作り直す、それにより本来の細胞の寿命を無視した異常な分裂が行われるという事は……、損傷部分の範囲が大きければ多い程寿命が大きく削られるって事よ」
「……、作ったぼくが言うのもどうかと思うけどそんなリスクがあるだなんて思っていなかった」
「でしょうね……、正直人の手で生み出してはいけないレベルの術だもの、今回は私がお願いして使って貰ったけど、次からは何があっても使っちゃダメよ、やり過ぎたらあなた……禁忌を犯した存在として指名手配されて、過去の私みたいに討伐対象になるわよ」
……そう言って難しい顔をするスイは『……でもこの術なら応用出来れば父を戻す事が出来そう』と言いつつ、口の中に手を突っ込むと治癒術を発動させて何かをしている。
いったい……、どうしたのだろうかと思っていると『折れて砕けた歯を治癒術で固めて元に戻したのよ、さっきの禁忌の術でもこうやって使えばデメリットは減らせるでしょ?』と笑顔で言うのだった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる