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第八章 戦いの先にある未来

61話 喧嘩の勝敗

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 ライさんが言っていたぼくと相性が悪いという意味が分かったけど……、雪の魔術が通用しない相手とどう戦えばいいのか分からない。
でも大剣を核にした狼のおかげで二対一になったし、数が有利な筈だ。

「幾ら壁を出そうと壊れるなら怖くねぇんだよっ!」
「……っ!」
「このまま魔力が切れるまで淡々と続けてもいいんだ……おわっと!」

 攻撃を続けているハスに、雪で出来た大剣を咥えた狼が飛び掛かるけど下から蹴り上げられてしまう。
そのまま怯んだのを確認すると、またぼくに向かって両手の銃を向けて来るけど咄嗟に長杖を横に薙ぎ払って弾き飛ばす。

「へぇっ……結構やるじゃんか、調子に乗るだけはあるな」
「今のは殆んど咄嗟に動いただけで……」
「その判断が一瞬で出来るならあんたはまだ強くなるぜ……、よぉしここからは本気で行くぞ?」

 ハスが真剣な顔をしたかと思うと銃が両手に現れる。
そして再び構えて狼に向けて引き金を引いたかと思うと……、先程とは比べ物にならない程の熱量を持った炎の塊が撃ち出されて身体を燃やすと苦し気に床の上を転げまわり周囲に火が燃え移って行く。

「……心器って普通は一つだけじゃないの?」
「あんたがそれを言うのかよ、って言っても俺はこの二丁の拳銃が一つの心器だからな」
「どう見ても二つなのに……」
「あぁ、仲間にも同じように言われるけど俺にはこれが普通だから分かんねぇや……、それよりもあの狼すげぇな燃えてんのに溶けねぇ、心器を核にするとこんな事になる何てすげぇわ」

 凄いと言われてもそんな事を気にせずに今もぼくに向かって炎の塊を撃ち続けるのは正直魔力の消費が激しいからしんどいものがある。
少しでも会話をして相手の集中力を削ごうとはしてるけど、全然効果が無いみたいでむしろ楽しそうに話しながら攻撃してくるのは今迄の相手とは違ってやり辛い。

「おいハスっ!何で俺が火を消さなきゃいけぇねぇんだよ!」
「わりぃダリアっ!燃え広がって火事になる前に全部頼むわっ!」
「頼むわじゃねぇよ馬鹿っ!だぁもぅ、俺の周りだけ時間を加速させて水を持ってきて消すって大変なんだぞ!?」
「でも出来んだろ?だったら頼むよ、後で美味しい物沢山食わしてやるからっ!」
「美味い物だぁ……?ならしょうがねぇな、後で肉沢山食うから覚悟しとけよっ!」

 しまいにはこの余裕っぷりだ。
話してる間にも火が消えた狼がハスに飛び掛かるけど、器用にその場で回転したハスの勢いをつけた回し蹴りを受けた後にそのまま上から殴りつけられて床に叩きつけられる。
……正直こんな相手にどうやって勝てばいいのか明確な形が見えなくてどうしようもない。

「あんた、もしかして勝負あきらめて来てねぇか?」
「そんな事は……」
「俺が勝ったらダリアを貰うって言ったよな、大事な娘が賭けられてんのに随分と余裕があんじゃねぇか、昨日あった初対面の良く知らねぇ奴に負けて悔しくねぇの?」
「悔しいけど、この状態じゃ切り札も使えないし……」
「あ?切り札が使えないってそりゃ……実戦で相手が使われたらやべぇもんを態々使うまで待ってくれると思ってんの?、どんだけぬるい環境に居たんだよあんた……今迄姫ちゃんやあんたの嫁さんが守ってくれましたってか?そんな甘ちゃんが俺を倒すって吼える何て笑えねぇなぁっ!」

 そう言うと心器を魔力に戻して構えを解いたハスは、ダリアが持って来た水の入った桶を受け取ると消火作業を始める。

「……言いたい事言って思ったんだけどよ、あんたって戦士じゃなくて治癒術師だもんな、幾ら戦闘能力が高い集団とは言え戦士じゃねぇから守って貰うのは当然だったわ、変な事言ってわりぃな」
「え?……戦いの続きは?」
「続きってどう見てももう勝負はついてんだろ?このままやり合ってもあんたの負けだぜ?」
「かもしれないけど……、出来る事はあると思うし」
「あると思うと出来るは違うんだよ、まぁケイスニル達が来たら上手く俺やライがサポートすっから安心しろ」

 狼も既に戦いが終わったのを理解しているのか、その場で雪になり大剣を残して消えてしまう。
……安心しろって言われても、折角ついた自信を砕かれてしまって不安しかない。
アキラさんに認めて貰ったのに相性が悪い、それだけの理由でここまで一方的に倒されてしまうのだから……、もしルードやケイスニルと戦う時に同じように相性の問題で何も出来ずに倒されてしまう可能性があるのは嫌だ。
取り合えず心器を消して考えてはみるけど……どうすれば上手く出来るだろうか、どうやればもっと強くなれるのか、どうなれば理想的に動けるのか……、思考の沼にはまりそうで嫌になる。

「そんな難しい顔すんなって喧嘩が終わったんだからよ、後は分かるよな?」
「……ダリアを嫁にでしょ?分かってるよ」
「まぁ、嫁に貰う前に一年位交際させて貰うとして――」
「交際って……、あれは父さんを焚きつける為の冗談って言ったじゃねぇか!」
「最初はそうだったけどよぉ、咄嗟の消火活動とか色んな所に目が行って気が利く所が気に行っちまったから、まずは互いを知る所から始めて問題無さそうなら嫁に貰うわ」

……ハスは真剣な顔で言うと『そういう事だからダリアの事は任せてくれよなレース』と爽やかな顔をして笑うと、隣で文句を言うダリアの頭を撫でて笑う。
そして真剣な顔になったかと思うと『話が逸れちまったな……、んじゃやるか喧嘩の後の反省会っ!』と訓練所に備え付けられている椅子に座るのだった。
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