治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

文字の大きさ
398 / 600
第九章 戦いの中で……

18話 支え合う事の大事さ

しおりを挟む
 誰かが扉をノックする音がして、起きてはいたが沈んでいた意識が戻って来る。
どれくらい椅子の上で脱力していただろうか、いや……そんな事よりもマリステラが再び戻って来たのかもしれないと思い、警戒しながら扉へと意識を向けると……

「レースさん、ダートお姉様?ご夕飯の用意が出来まし……、レースさん!?」

 扉がゆっくりと開かれカエデが部屋の中に入って来ると、ぼくの姿を見て焦ったような顔をして駆け寄って来る。

「ど、どうしたんですか!?凄い汗を搔いてますよ?」
「ちょっとね……、疲れが溜まってたみたいで体調が悪くてさ」
「ちょっとって、普通は少し体調が悪い位じゃこんな状態になりませんよ?」
「ほらここ最近色々とやってたし、そのせいじゃないかな」
「……どうしても言いたくないみたいですね、顔に出てますよ?まぁそう言う事なら詳しくは聞きませんけど、言いたくなったら言ってくださいね?待ってますから」

 そう言いながら取り出したハンカチで顔を拭いてくれるカエデを見ると申し訳ない気持ちになる。
とはいえマリステラとの間にあったことを話すと何があるのか分からないから警戒した方がいい筈だ。
あの化け物の事だから、姿を消して近くにいてもおかしくない以上軽はずみに口に出してダートやカエデに被害が出るのは良くない。
特にダートの場合はお腹の中に子供がいるから、必要以上にストレスを与えるような環境には置きたくないっていうのもある。
でも今はそれよりも……

「カエデ、いつもありがとう」
「きゅ、急に何ですか?」
「ダートにもいつも支えて貰ってるけど、カエデにもこうやって側で支えて貰ってるからさ、ちゃんとお礼を言った方がいいかなって」
「何を言ってるんですか、夫婦というのはお互いに支え合うものですよ?これくらいは当然です、それよりもその汗で濡れた服を着替えるか治癒術を使って清潔な状態にしちゃってください、ダートお姉様が起きた時にその姿を見られたら驚かれますよ?」

 確かにカエデの言う通りだ。
椅子から立ち上がると治癒術を発動して服に染み込んだ汗や服の汚れを取り除く。
本来は患者を治療する際に清潔な状態にして、細菌感染等を起こさない為の術だけど少ない魔力で簡単に汚れが落とせるのは便利だと思う。

「うん、綺麗になったみたいですね……、レースさんは見た目は本当に整ってるんですからいつもちゃんとした方がいいですよ?お姉様が居ないと髭だけ処理して後は放置なんですから……」
「……そういうのはめんどくさいからさ、自分の髪は前が見えづらくなったら切れば良いし」
「もう、そういう所本当に良くないと思います、お姉様と暮らすようになってから何時も切って貰ってるらしいじゃないですか、お腹が大きくなったらそういうのも暫く出来なくなるんですよ?そうなったらどうするんですか?」
「あぁ、まぁ……うん、その時はカエデに切ってもらうよ」
「え?わ、私ですか?もう……仕方のない人ですね、その時はちゃんと面倒を見てあげます……って、ついつい話し込んでしまって忘れてましたがお姉様を起こしてお夕飯食べに行きますよ?」

 そう言ってカエデが起こしに行こうとすると、ゆっくりとダートが体を起こして……

「カエデちゃん、起きてるから大丈夫だよ?」
「……ダート、いつから起きてたの?」
「レースが誰かと話してた時からかな……、動いたら危ない気がして寝たふりしてたけど、そうしたらメイメイちゃんから貰った薬を飲み忘れちゃって……」
「……薬って確か妊娠時に起きる体の影響を抑えるのだよね、大丈夫?」
「うん、ちょっと吐き気がして動きたくないだけで、それ以外は全然大丈夫だよ?夕飯時になったらちゃんと飲むから安心して?」

 メイメイがダートに渡した薬は即効性がある代わりに、しっかりと服用しないと直ぐに薬の効果が切れてしまう。
現に今のダートは大丈夫だとは言ってはいるけど、顔色が悪いから大分無理をしているのが分かる。

「ダート、無理をさせてごめん」
「何を言ってるの?本来なら安定するまでこういう事が続くんだよ?」
「……もう、そういうのは分かりましたから早く行きますよ?せっかく用意して貰ったのに冷めてしまったら、作ってくれた人に失礼ですからね」
「うん……、カエデちゃん体を支えてくれる?」
「もちろんです!、行きますよ?お姉様」

 ベッドから立ち上がったダートをカエデが支えるとゆっくりと歩き出す。
こういう時、ぼくが支えて上げられたらいいのだけれど女性にしか分からない変化や悩みがあると思うから、彼女に任せた方がいいだろう。
治癒術師として、妊娠している女性に対する接し方とかは知識としては知っているけど、専門として学んだ訳では無いのがこういう時もどかしい。
メセリーに戻ったら母さんに色々と教わってみよう……、そうすれば将来的に家族が更に増えたら今よりも出来る事が増える筈だ。

「レース?そんな難しい顔して立ってないでご飯食べに行こう?」
「ん?あぁ、ごめん行こうか」

……ダートが通りやすいように急いで扉を開けると、ゆっくりとした足取りで部屋を出る。
そしてすれ違う時に『……あの人の事、色々と落ち着いたら話を聞かせてね?絶対だよ?』とダートが心配げにぼくの方を見て言葉にするのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...