治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

文字の大きさ
502 / 600
第十章 魔導国学園騒動

45話 セラフナハシュ

しおりを挟む
 ディザスティアの拳がぼく達に向かって振るわれる。
朱色の光が禍々しく一本の線を描き、反応する事すら出来ずにその身に受けそうになった時だった。
長杖の能力である【自動迎撃】が発動し雪の壁が幾重にも重なると、その後ろに長杖と大剣を咥えた狼が姿勢を低くして構える。
同時に背中から無数に生える人の腕がそれぞれに手に持った武器が、歪な笑みを浮かべるセラフナハシュへと向けて振るわれるが。

『力の残滓如きが、妾に人の子の武器を振るうなぞ無礼にもほどがあるであろう!そう思わぬか?魔王ソフィア・メセリー』
「ですが、人の子である私には脅威なる相手です……、どうかお助けください」
『分かっている、だから妾を呼んだのであろう?』

 ソフィアがその場に両膝をついて跪く。
そして彼女が自身の指につけている指輪を差し出すと、宙に浮き鏡の中にディザスティアの無数の腕と共に飲み込まれ鏡が黒く染まる。
同時に、複数の雪の壁を破壊しながら進んで行く拳を二匹の狼が咥えている武器で受け止めようとするが、心器を核にしている筈なのに身体がはじけ飛び、心器だけが残され床に落ちてしまった。

『……必要な時があったら、今まで妾を満足させてくれた礼に三度まで力を貸してあげると約束したけれど、こんな小物相手で良いの?あの大戦で唯一勝ち残ったいけ好かない勝ち組、栄花の【豊穣神】プリムラスグロリアや、私達が封じられた後に新たな世界の管理者となった【天魔】シャルネ・ヘイルーンが、乱心してこの世界を滅ぼそうとしだしたら呼ばれると思ってたんだけど?』

 黒い鏡の中から、セラフナハシュの身体がゆっくりと出て来る。
そして蛇の輪の上に腰かけると、無数に連なる腕の上に立ち上がり踊るような仕草で歩き出す。
ディザスティアが振り落とそうとするが、突如として鏡から飛び出して来た翼を持つ巨大な蛇が、全身を締め付けるように絡みつき動きを封じてしまう。

「栄花のプリムラスグロリア様は、今は俗世に紛れ人の生を楽しんでおります、天魔シャルネは……」
『まぁ、あの女の事だ、どうせ乱心したのだろう?外界から呼び出された転生者や転移者などそんなものだ、我々神が可能性と希望を持たせ、こちらの言う事を聞けば褒美に元の世界に戻し、迷惑を掛けた詫びとして願いを叶えてやると口約束さえすれば、本当にその通りに動く愚か者、あれもそれと同類だったという事であったのだろう』
「……真意は私には分かりませんが、もし再び力を借りる時がありましたらよろしくお願い申し上げます」
『ふん、つまらぬ奴め……、我が魂がおぬしの中に封じられてさえいなければ、このような世界今すぐにでも滅ぼしてやるというのに、感謝するのだな妾を満足させ続けた歴代の魔王達と【叡智】を持つ女にな』

 セラフナハシュの存在感に思わず呼吸さえ忘れて動けなくなってしまう。
それはダリアも同じようで、身体からたまのような汗を出しながら震えている。
ミオラームは無事だろうか、母さんのいる方を見て状況を確認したいけど……ドサッという音が聞こえた辺り、意識を失い倒れてしまったのかもしれない。

『後そこのディザスティアの器の資格を持つ者とその娘よ、呼吸をし妾と会話する事を許す、名はなんという?』

 腕の上を歩いているセラフナハシュの歩みが止まり、ぼくの方を見ると言葉が頭の中に響く。
すると今まで強張っていた体から力が抜けて楽になり、呼吸が出来るようになった。
ダリアも同じようで荒い呼吸を繰り返しながら両手を床について全身で呼吸を繰り返す。

「……え?」
『早く答えよ、妾は残り数分しかこの場におる事は出来ぬ故』
「ぼくはレースで、この子はダリアだけどそれがどうしたの?」
『覚えておこうディザスティアの器よ、悪いがこの残りカスを今から滅ぼす、悪いがおぬしには犠牲になって貰うぞ?暫く身体能力が飛躍的に向上するが故に、上手く身体を動かせなくなると思うが、上手く使いこなすがいい……幸いな事におぬしは器としては最高水準のようだからな、もし今の状態で伸び悩んでいるのなら更に強くはなれるであろう』

 セラフナハシュが無数の腕から飛び上がり、ディザスティアの肩の上に着地するとそっと首を撫でたかと思うと口を開けて噛みついた。
すると……黒い身体が跳ね上がり、身体を徐々に縮ませながら彼女の中に取り込まれて行く。

『……残りカスだから不味いのぅ、なまじ力の残滓を増幅させたせいで味が薄い、だかまぁディザスティアを喰らい滅ぼす事が出来るのは現状妾くらいだから、最後まで喰らってやろう』
「セラフナハシュ様、感謝致します」
『よいよい、久方ぶりに外に出れて良い暇つぶしになったわ……、ふむ、そろそろ時間じゃな、レースよ!おまけをしてやるから感謝して受け取るが良い』

……ディザスティアの身体が全て体内に取り込まれると、セラフナハシュの身体が薄くなり徐々に消えていく。
そしてぼくを指差すと、黒い魔力の光が身体を貫くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...