治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第十一章 盗賊王と機械の国

32話 賢神の本体

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 マリーヴェイパーの本体といきなり言われても、正直どんな反応をすればいいのか分からない。
流れ的には驚くべきなのだろうけれど、以前の戦いでディザスティアやセラフナハシュの姿を見て、その恐ろしい力を目の当たりにしたせいだと思う。

「何だか思ったような反応を貰えなくてつまらないですねぇ」
「つまらないって言われても、ディザスティアやセラフナハシュを見たことあるから、今更感があるっていうか……」
「えぇっ!?」

 驚かせようとしたサリアの方が、逆に驚いているのはどういうことだろうか。
けど初めて彼女を出し抜けたような気がして、少しだけ嬉しくなる。

「それにメイディに居た時は、メランティーナと関わった事もあるし」
「な、なんて言うか、僕で言うのもどうかと思いますが、めちゃくちゃな人生送ってますね、早死にしますよ!?」
「サリアに言われても、何か説得力がないんじゃないかな」
「何か、馬鹿にされてるような、呆れられてるような気がして嫌ですねぇ」

 とはいうけれど、液体に沈んでいるマリーヴェイパーの本体は今にも動き出しそうな雰囲気がある。
ガラス越しでも分かるくらいに美しい陶器のような白い肌は、血が通っているように見えて死んでいるようには見えない。

「けどやっぱり気になるようですね?」
「んー……うん、これって本当に死んでるの?」
「団長やこの森を治めている屋敷の主の吸血鬼曰く、魂が無いから活動を停止してるだけで、肉体は滅んでいないそうですよ」
「……へぇ」

 その話を聞くと何て言うか、メイディの首都を思い出す。
あの国は封じられた神の身体である天に届く程の巨大な樹を利用して作られた天然の要塞ともいえる場所で、そこに神の意思が無くても天を目指して何百年も成長をし続けていた。
だからこのマリーヴェイパーの本体と呼ばれた彼女も、死して尚身体は生きているのかもしれない。

「もしかして、この本体って言うのも何かきっかけがあれば目を覚ましたりとかするの?」
「まぁ、その為に機械信号を阻害する溶液って言うのに浸けてるそうですよ?」
「……ん?それってどういうこと?」
「何でもバックアップシステム?とかっていう物があるとかで、こうしておかないと勝手にシステムとかっていうのか修復されて、力を取り戻そうと動き出すそうですよ?」

 ……サリアの言っている事が本当なら、このマリーヴェイパーの本体を今のミオラームに近づけるのは危険だ。
マスカレイドとの戦いの後、彼女の中に神の力の残滓が入り込んでしまい、封じられている方のマリーヴェイパーの魂と言える存在が力を取り戻してしまった。
そんな……ただでさえ危ない状況なのに、もし動き出して出会ってしまったら、どう考えても良い事は起きないと思う。

「これって、封じるよりも壊してしまった方が良いんじゃ……」
「ですよねぇ、僕もそうは思うんですけど、なんか理由があるんじゃないですか?」
「理由……?」

 理由があるのではないかと言われても、そんな危険な物を残しているのは何故なのだろうか。
メイディの首都のように使い道があるのなら分かるけど、どう見てもマリーヴェイパーの本体に使い道は無いだろうし、なら何故なのかと、考えられる範囲で色々と思考を巡らせては見るけど、特にこれと言って分かるような物が無い。

「……ん?神の間が騒がしいと思ったら、レース君とサリアか、こんなところで何をしているんだい?」

 二人してどうしてだろうと考えていると、音を立てて扉が開く。
そして聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、死絶傭兵団の団長【死絶】カーティス・ハルサーが、珍しく驚いたような表情を浮かべながら入って来て……

「あ……、団長!えっとこれはその」
「サリア、この屋敷は部外者の立ち入りを禁止している筈だけど、どうして人を入れているかな」
「その……、これには深い理由がありまして、あのですね」
「……理由?レース君、それはどういうことだい?」
「えっと……これには色々と事情があって──」

 鋭い眼つきを更に鋭く細めたカーティスに、冒険者ギルドで起きた事を説明する。
その途中で何かを考えるような仕草をすると何処か遠くを見るように視線をずらして……

「俺の娘やガルシアに手を出すなんてね、シュラも随分……恐いもの知らずになったものだ」
「……だ、団長?」
「サリア、傭兵って言うのは……昔の仲間であるシャルネやゼンが言っていたのだけれど、舐められたらそこで終わりで、負けたら評判が落ちるんだ、俺の言っている意味が分かるよね?」
「……【盗賊王】シュラを徹底的に潰せと言う事ですよね?」
「うん、ちゃんとわかっていて偉いね……、君の戦闘を許可したのは俺だけど、負けろとは命令をしていない、何があっても俺が許すから確実に仕留めておいで」

 優しそうな表情を浮かべたカーティスがサリアに近づくと彼女の頭を優しく撫でる。
そしてぼくの方を見て、眼を細めると……

「レース君、君には娘のサリアの命を救って貰った恩がある……だから今回はこの屋敷に足を踏み入れた事、そしてマリーヴェイパーの本体を見た事を不問にするよ」
「……ありがとうございます」
「お礼はいいさ……、それよりも王都にシュラが攻めてくるのだったね?それなら、屋敷の処置室で俺の娘から治療を受けている栄花騎士団の最高幹部を戦力として連れ帰ってくれないかな」
「団長、その人にはシンさんって名前があるんですから、名前で呼んであげないと失礼ですよ?」
「そうかもしれないけど、この拠点に部外者が長いする事を俺は出来れば許したくないんだ、だから悪いけどレース君、そのシンって言う吸血鬼君の事を早く連れ帰って貰えたら助かるから、お願いするよ」

……カーティスがマリーヴェイパーの本体に近づきながらそう言葉にするとぼく達の背を押しながら『サリア、君はレース君を処置室に連れて行くついでに、ゼルクラーレの元で治療を受けておいで』と言いながら部屋から追い出す。
ゼルクラーレというのがシンの治療を行っている人なのだろうか、そんな事を思いながらサリアに案内で処置室へと向かうのだった。
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