555 / 600
第十一章 盗賊王と機械の国
32話 賢神の本体
しおりを挟む
マリーヴェイパーの本体といきなり言われても、正直どんな反応をすればいいのか分からない。
流れ的には驚くべきなのだろうけれど、以前の戦いでディザスティアやセラフナハシュの姿を見て、その恐ろしい力を目の当たりにしたせいだと思う。
「何だか思ったような反応を貰えなくてつまらないですねぇ」
「つまらないって言われても、ディザスティアやセラフナハシュを見たことあるから、今更感があるっていうか……」
「えぇっ!?」
驚かせようとしたサリアの方が、逆に驚いているのはどういうことだろうか。
けど初めて彼女を出し抜けたような気がして、少しだけ嬉しくなる。
「それにメイディに居た時は、メランティーナと関わった事もあるし」
「な、なんて言うか、僕で言うのもどうかと思いますが、めちゃくちゃな人生送ってますね、早死にしますよ!?」
「サリアに言われても、何か説得力がないんじゃないかな」
「何か、馬鹿にされてるような、呆れられてるような気がして嫌ですねぇ」
とはいうけれど、液体に沈んでいるマリーヴェイパーの本体は今にも動き出しそうな雰囲気がある。
ガラス越しでも分かるくらいに美しい陶器のような白い肌は、血が通っているように見えて死んでいるようには見えない。
「けどやっぱり気になるようですね?」
「んー……うん、これって本当に死んでるの?」
「団長やこの森を治めている屋敷の主の吸血鬼曰く、魂が無いから活動を停止してるだけで、肉体は滅んでいないそうですよ」
「……へぇ」
その話を聞くと何て言うか、メイディの首都を思い出す。
あの国は封じられた神の身体である天に届く程の巨大な樹を利用して作られた天然の要塞ともいえる場所で、そこに神の意思が無くても天を目指して何百年も成長をし続けていた。
だからこのマリーヴェイパーの本体と呼ばれた彼女も、死して尚身体は生きているのかもしれない。
「もしかして、この本体って言うのも何かきっかけがあれば目を覚ましたりとかするの?」
「まぁ、その為に機械信号を阻害する溶液って言うのに浸けてるそうですよ?」
「……ん?それってどういうこと?」
「何でもバックアップシステム?とかっていう物があるとかで、こうしておかないと勝手にシステムとかっていうのか修復されて、力を取り戻そうと動き出すそうですよ?」
……サリアの言っている事が本当なら、このマリーヴェイパーの本体を今のミオラームに近づけるのは危険だ。
マスカレイドとの戦いの後、彼女の中に神の力の残滓が入り込んでしまい、封じられている方のマリーヴェイパーの魂と言える存在が力を取り戻してしまった。
そんな……ただでさえ危ない状況なのに、もし動き出して出会ってしまったら、どう考えても良い事は起きないと思う。
「これって、封じるよりも壊してしまった方が良いんじゃ……」
「ですよねぇ、僕もそうは思うんですけど、なんか理由があるんじゃないですか?」
「理由……?」
理由があるのではないかと言われても、そんな危険な物を残しているのは何故なのだろうか。
メイディの首都のように使い道があるのなら分かるけど、どう見てもマリーヴェイパーの本体に使い道は無いだろうし、なら何故なのかと、考えられる範囲で色々と思考を巡らせては見るけど、特にこれと言って分かるような物が無い。
「……ん?神の間が騒がしいと思ったら、レース君とサリアか、こんなところで何をしているんだい?」
二人してどうしてだろうと考えていると、音を立てて扉が開く。
そして聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、死絶傭兵団の団長【死絶】カーティス・ハルサーが、珍しく驚いたような表情を浮かべながら入って来て……
「あ……、団長!えっとこれはその」
「サリア、この屋敷は部外者の立ち入りを禁止している筈だけど、どうして人を入れているかな」
「その……、これには深い理由がありまして、あのですね」
「……理由?レース君、それはどういうことだい?」
「えっと……これには色々と事情があって──」
鋭い眼つきを更に鋭く細めたカーティスに、冒険者ギルドで起きた事を説明する。
その途中で何かを考えるような仕草をすると何処か遠くを見るように視線をずらして……
「俺の娘やガルシアに手を出すなんてね、シュラも随分……恐いもの知らずになったものだ」
「……だ、団長?」
「サリア、傭兵って言うのは……昔の仲間であるシャルネやゼンが言っていたのだけれど、舐められたらそこで終わりで、負けたら評判が落ちるんだ、俺の言っている意味が分かるよね?」
「……【盗賊王】シュラを徹底的に潰せと言う事ですよね?」
「うん、ちゃんとわかっていて偉いね……、君の戦闘を許可したのは俺だけど、負けろとは命令をしていない、何があっても俺が許すから確実に仕留めておいで」
優しそうな表情を浮かべたカーティスがサリアに近づくと彼女の頭を優しく撫でる。
そしてぼくの方を見て、眼を細めると……
「レース君、君には娘のサリアの命を救って貰った恩がある……だから今回はこの屋敷に足を踏み入れた事、そしてマリーヴェイパーの本体を見た事を不問にするよ」
「……ありがとうございます」
「お礼はいいさ……、それよりも王都にシュラが攻めてくるのだったね?それなら、屋敷の処置室で俺の娘から治療を受けている栄花騎士団の最高幹部を戦力として連れ帰ってくれないかな」
「団長、その人にはシンさんって名前があるんですから、名前で呼んであげないと失礼ですよ?」
「そうかもしれないけど、この拠点に部外者が長いする事を俺は出来れば許したくないんだ、だから悪いけどレース君、そのシンって言う吸血鬼君の事を早く連れ帰って貰えたら助かるから、お願いするよ」
……カーティスがマリーヴェイパーの本体に近づきながらそう言葉にするとぼく達の背を押しながら『サリア、君はレース君を処置室に連れて行くついでに、ゼルクラーレの元で治療を受けておいで』と言いながら部屋から追い出す。
ゼルクラーレというのがシンの治療を行っている人なのだろうか、そんな事を思いながらサリアに案内で処置室へと向かうのだった。
流れ的には驚くべきなのだろうけれど、以前の戦いでディザスティアやセラフナハシュの姿を見て、その恐ろしい力を目の当たりにしたせいだと思う。
「何だか思ったような反応を貰えなくてつまらないですねぇ」
「つまらないって言われても、ディザスティアやセラフナハシュを見たことあるから、今更感があるっていうか……」
「えぇっ!?」
驚かせようとしたサリアの方が、逆に驚いているのはどういうことだろうか。
けど初めて彼女を出し抜けたような気がして、少しだけ嬉しくなる。
「それにメイディに居た時は、メランティーナと関わった事もあるし」
「な、なんて言うか、僕で言うのもどうかと思いますが、めちゃくちゃな人生送ってますね、早死にしますよ!?」
「サリアに言われても、何か説得力がないんじゃないかな」
「何か、馬鹿にされてるような、呆れられてるような気がして嫌ですねぇ」
とはいうけれど、液体に沈んでいるマリーヴェイパーの本体は今にも動き出しそうな雰囲気がある。
ガラス越しでも分かるくらいに美しい陶器のような白い肌は、血が通っているように見えて死んでいるようには見えない。
「けどやっぱり気になるようですね?」
「んー……うん、これって本当に死んでるの?」
「団長やこの森を治めている屋敷の主の吸血鬼曰く、魂が無いから活動を停止してるだけで、肉体は滅んでいないそうですよ」
「……へぇ」
その話を聞くと何て言うか、メイディの首都を思い出す。
あの国は封じられた神の身体である天に届く程の巨大な樹を利用して作られた天然の要塞ともいえる場所で、そこに神の意思が無くても天を目指して何百年も成長をし続けていた。
だからこのマリーヴェイパーの本体と呼ばれた彼女も、死して尚身体は生きているのかもしれない。
「もしかして、この本体って言うのも何かきっかけがあれば目を覚ましたりとかするの?」
「まぁ、その為に機械信号を阻害する溶液って言うのに浸けてるそうですよ?」
「……ん?それってどういうこと?」
「何でもバックアップシステム?とかっていう物があるとかで、こうしておかないと勝手にシステムとかっていうのか修復されて、力を取り戻そうと動き出すそうですよ?」
……サリアの言っている事が本当なら、このマリーヴェイパーの本体を今のミオラームに近づけるのは危険だ。
マスカレイドとの戦いの後、彼女の中に神の力の残滓が入り込んでしまい、封じられている方のマリーヴェイパーの魂と言える存在が力を取り戻してしまった。
そんな……ただでさえ危ない状況なのに、もし動き出して出会ってしまったら、どう考えても良い事は起きないと思う。
「これって、封じるよりも壊してしまった方が良いんじゃ……」
「ですよねぇ、僕もそうは思うんですけど、なんか理由があるんじゃないですか?」
「理由……?」
理由があるのではないかと言われても、そんな危険な物を残しているのは何故なのだろうか。
メイディの首都のように使い道があるのなら分かるけど、どう見てもマリーヴェイパーの本体に使い道は無いだろうし、なら何故なのかと、考えられる範囲で色々と思考を巡らせては見るけど、特にこれと言って分かるような物が無い。
「……ん?神の間が騒がしいと思ったら、レース君とサリアか、こんなところで何をしているんだい?」
二人してどうしてだろうと考えていると、音を立てて扉が開く。
そして聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、死絶傭兵団の団長【死絶】カーティス・ハルサーが、珍しく驚いたような表情を浮かべながら入って来て……
「あ……、団長!えっとこれはその」
「サリア、この屋敷は部外者の立ち入りを禁止している筈だけど、どうして人を入れているかな」
「その……、これには深い理由がありまして、あのですね」
「……理由?レース君、それはどういうことだい?」
「えっと……これには色々と事情があって──」
鋭い眼つきを更に鋭く細めたカーティスに、冒険者ギルドで起きた事を説明する。
その途中で何かを考えるような仕草をすると何処か遠くを見るように視線をずらして……
「俺の娘やガルシアに手を出すなんてね、シュラも随分……恐いもの知らずになったものだ」
「……だ、団長?」
「サリア、傭兵って言うのは……昔の仲間であるシャルネやゼンが言っていたのだけれど、舐められたらそこで終わりで、負けたら評判が落ちるんだ、俺の言っている意味が分かるよね?」
「……【盗賊王】シュラを徹底的に潰せと言う事ですよね?」
「うん、ちゃんとわかっていて偉いね……、君の戦闘を許可したのは俺だけど、負けろとは命令をしていない、何があっても俺が許すから確実に仕留めておいで」
優しそうな表情を浮かべたカーティスがサリアに近づくと彼女の頭を優しく撫でる。
そしてぼくの方を見て、眼を細めると……
「レース君、君には娘のサリアの命を救って貰った恩がある……だから今回はこの屋敷に足を踏み入れた事、そしてマリーヴェイパーの本体を見た事を不問にするよ」
「……ありがとうございます」
「お礼はいいさ……、それよりも王都にシュラが攻めてくるのだったね?それなら、屋敷の処置室で俺の娘から治療を受けている栄花騎士団の最高幹部を戦力として連れ帰ってくれないかな」
「団長、その人にはシンさんって名前があるんですから、名前で呼んであげないと失礼ですよ?」
「そうかもしれないけど、この拠点に部外者が長いする事を俺は出来れば許したくないんだ、だから悪いけどレース君、そのシンって言う吸血鬼君の事を早く連れ帰って貰えたら助かるから、お願いするよ」
……カーティスがマリーヴェイパーの本体に近づきながらそう言葉にするとぼく達の背を押しながら『サリア、君はレース君を処置室に連れて行くついでに、ゼルクラーレの元で治療を受けておいで』と言いながら部屋から追い出す。
ゼルクラーレというのがシンの治療を行っている人なのだろうか、そんな事を思いながらサリアに案内で処置室へと向かうのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる