治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第十一章 盗賊王と機械の国

49話 圧倒的な力

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 何故ここにサリアがいるのか気になるけれど、今はそんな事よりもマリーヴェイパーをどうするかだ。

「団長に言われた通りに、ミオラーム殿下をお連れしま……えぇ?なにこれ」
「なにこれって、どうかしたんですの?」

 どうしてこの場にミオラームを連れて来てしまったのか。
困惑した表情で廊下から顔だけ覗かせる少女を見て思考が停止しそうになる。

「……くふ、くふふ?君、私の義体を破壊した色男に匂いが似てる、子孫か何か?いや、ちょっと待って」
「え?あ、この人ってまさかっ!くそっ!あのクソ団長に嵌められた!っていたっ!痛い痛い!」

 凄い速さでサリアの元に飛び掛かると、彼女の髪を掴んで強引に数本引きちぎる。
そして表情を変えずに口に含むとゆっくりと咀嚼を繰り返し……。

「遺伝子の一致を考えると君、遠い子孫じゃなくて実の娘ね?へぇ、やっぱり魔族って変態ね、遠い子孫との間に娘を作っちゃうなんて、倫理観欠落してるんじゃないの?」
「……え?あ、なにを?だって私にはメイディに両親がいましたし」
「くふふ、そうなの?でも、数字と結果は嘘をつかないわ、嘘をつくのは生きている存在だけ、あ、マリーは例外よ?マリーは嘘が嫌いだから、相手が例え下等な生物だとしても素直に答えますわよ?それがマリーの欲を満たしてくれますもの」

 そう言葉にしながら与えられた情報が理解出来ずにその場で固まってしまったサリアから離れると、器用に膝で立ち上がり扉から顔だけ出しているミオラームを見る。
そして三日月の形を口元を歪ませると、ゆっくりと近付いて行く。

「あ……あなたはいったい、何者なんですの?」
「何者だなんてひどい言い草ね、マリーはそう、あなたの中に封じられているマリーヴェイパーの本体よ?」
「……え?あ、え?レース様、これってどういう事なんですの?」

 困惑した表情を浮かべたミオラームがぼくの方を見る。
ダメだ、この状況でマリーヴェイパーとミオラームを接触させたら何が起きるのか分からない。
彼女の中に封じられている神としての力と本来の魂、そして戦闘用義体と呼んでいた物が解放されたら、それこそ本当の意味で神が蘇ってしまう。
メイディの場合は、メランティーナが自らの意思で転生しメイメイという名のエルフの少女になり、人として生きる事を望んだ。
けれど、マリーヴェイパーはそうではない、ただ自分が自由になりたいがために、ぼくとミオラームが初めて会い、決闘をする事になった際に彼女を操り殺そうとした。

「フィリアっ!」
「……言われなくても分かってるわよ」

 ミオラームの護衛として常に近くにいるフィリアの事だ、気配や姿を消して着いて来ている筈、そう思い彼女の名前を呼ぶ。
すると何処からか返事が聞こえ、マリーヴェイパーの前に短剣を構えた姿で現れる。

「……特性【宵闇】、戦闘能力は隠密特化、くふ?ダメじゃないそんな子が表に出たらし──」

 フィリアを見ながら楽しそうに笑うマリーヴェイパーの前から避けるように、隣に流れるように動く。
それと同時に耳を劈くような轟音と閃光が室内に響き渡る。
余りの事に、反応が出来なかったせいで、激しい頭の痛みと周囲の音が聞こえなくなる程の耳鳴りが襲う。

「……っ、いま、のは?」

 ミオラームの手には様々な機械が取り付けられ、先端には短剣が取り付けられた異様な形をした銃が握られている。
そして彼女の周囲には雷の魔術によって弾が赤熱しながら浮いていた。

「──が、私の新しい心器、儀仗銃【ジャガーノート】ですわ!レース様にはまだ言ってなかったと思いますけれど、初代賢王からマリーヴェイパーの力を取り込むと同時に継承された、マーシェンス王族の象徴ですの!」

 暫くして耳鳴りが収まって来ると同時にミオラームの声が聞こえてくる。
継承した心器という事は、ぼくがヴォルフガングが受け継いだ大剣【スノーフレーク】と同じ物だろう。
それは分かったけれど、いきなり周りの事を考えずに撃つのはどういう事だろうか。

「現に見てくださいまし!自称マリーヴェイパーを真っ二つにして差し上げましたわ!」
「真っ二つって、相手は封じられていた神なの……に?」

 ミオラームが指差した場所を見ると、そこには頭部に短剣を突き刺しているフィリアと上半身と下半身が陶器のように砕けて二つに分かれたマリーヴェイパーの姿があり、血液とは違う粘性を持ったオイルが床に広がって行く。
その状態でも無理に動こうとしているのか、片腕で器用に身体を起こすと空いた方の腕でフィリアを掴み持ち上げると、勢いよく地面に何度も叩きつける。

「……フィ、フィー!」
「マリーを殺そうとするなら、君も同じ痛みを味わわないとダメ、でも死ななかったらぎりぎり治せる程度にはしてあげる、後ミオラームちゃん、私は自称ではなく本物のマリーヴェイパーだよ?何もする気無かったのに身体を壊す何て酷い、悲しいわ」

……そう言葉にしながらフィリアを一方的に痛めつけると、砕けた部分から赤いオイルに濡れたゴム状の管が周囲や下半身へと伸びて行き、周囲の水槽だった瓦礫や砕けた床の一部を取り込み身体を瞬時に作り直す。
そしてミオラームのへと一本の管が伸び『けど、マリーの本来の魂は返してもらいますわよ?』と言葉にすると、先端が大きく広がり彼女を頭から飲み込んでしまうのだった。
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