治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第十二章 魔導国物語

7話 魔導車椅子

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 戻って来たスイにマーシェンス製の車椅子に乗せられると、心配そうにこちらを見るサリッサに出かける事を告げて家を出て階段の前に出る。

「……車椅子に座った状態で階段って危なくない?」
「この魔導具は階段にも対応してるから大丈夫よ」
「対応してるって、車輪じゃない……本当に大丈夫なの?」
「心配なのは分かるけど見てなさいって」

 彼女はそう言うと、座った私ごと軽々と持ち上げて階段を下りて行くと、そのままスムーズに通路に出る。
……肉体強化で持ち上げるにしては軽そうに持つのを見て、不思議な感じがするけど、落ちないように体を魔力で編まれたベルトのような物で固定している辺り、これが車椅子の形をした魔導具に付与された魔術なのかも。

「……凄いね」
「でしょ?何でも、座椅子部分に軽量化が、アームレ……いや、肘掛けって言った方が分かるか、そこには拘束の魔術が込められていて、段差や荒れ地を通る際に落ちないように工夫がこなされているの」
「……へぇ?」
「良く分かってないみたいね、ほら……人は歳をとり老いを重ねると誰もが介護を受けるようになるわ、マーシェンスではその負担を少しでも抑える為に、マスカレイドが興味本位で作りだした介護式魔導具が沢山あるのだけれど、これはそれを改良して発展させたものよ」

 マスカレイドが作った魔導具の改良、その言葉の意味を考えてみるけど……魔導具を作った事が無いから良く分からない。
んー、お義母様から受け継いだ魔力特性だと魔術と治癒術に関しての知識しか無いから、この子が産まれて落ち着いたら一度マーシェンスに行ってみようかな。
そこで勉強して色々と作れるようになってみたいかも、ほら……そうすればこの診療所でも使える物とか出来そうだし、サリッサさんを説得してこの車椅子を導入する事が出来るかも。

「……それにしてもいい日ねぇ、雲一つない快晴に活気に満ちた都市、それにここ数か月の目まぐるしい発展、ここが少し前まで田舎だったとは到底思えないわ」
「うん、けど……過ごしやすくなった分、変な人が増えたから気を付けないと……」
「……そうね」

 道行く人達が興味有り気に私が座っている車椅子を見て、すれ違ってい行くけど、本当に色んな人が増えたと思う。
フェ―レン領の辺境開拓村クイストだった時は……、今ほどの活気は無かったけど暖かい人ばかりで、住みやすいところだった。
とはいえ当時は、開拓をする人達を護衛する人達の責任者で、護衛隊隊長のグランツさんがいるおかげで、色々とあったけど今になってはあの人も支配欲に狩られてしまっただけで、当時……隊に所属していた人達からしたら面倒見の良い上司だったらしい。
そういう意味では、結果的に彼を殺す事になってしまったレースが、たまに思い出しては何処か辛そうに遠くを見ているのを見ると、良くも悪くも私の夫に影響を与えた相手なんだと思う。

「ただ、色々と整備されて商業地区とかって感じで区域を分けたのは、便利な反面、一々行くのがめんどくさいわね」
「んー、大きくなった分、ちょっとだけ遠くなったもんね……、あぁ……でも私の空間魔術を使えば距離とか関係なく移動できるでしょ?」
「……そうね、無事に生まれたらそうさせて貰うわ、けど……子育てというのは私達が思う以上に大変だと思うから、無理はしないでちょうだいね」
「うん、ありがとうスイ……、けど大丈夫だよ?サリッサさんも使用人として手伝ってくれるらしいから」
「そう言えばそうだったわね、けどサリッサの事だから真面目過ぎるところがあるから、ちゃんと息抜き出来るか心配よ……、現にレースの妹でストラフィリアの元第二王女ルミィ様何て言う我が儘なクソガキの面倒見てるじゃない」

 ……我が儘なクソガキ、言いたい事は分かるけどちょっと言いすぎな気がする。
確かに甘やかされて育ってきたせいで、世間知らずな所があるというか……自分の我が儘は聞いて貰えて当然という価値観の子だけど、最近は少しだけましになった……と思う。
特に私のお腹が大きくなってくると共に、サリッサに何か言われたのか……お姉ちゃんとしてしっかりしなきゃとなったみたいで、ちょっとだけ大人びた雰囲気が出て来た。
でも……家から出ると、相変わらず自分の外見に惹かれて集まって来た子達を使って、自分のやりたいように好き勝手している辺り、幼い頃から染み付いたストラフィリアの価値観は、これからも直らないんだろうなぁ。
本当はサリッサと一緒にそういうところは良くないと教えてあげるべきなんだろうけど、個人的には家ではしっかりしてくれて……大人しい子になってくれるなら私は別にいい……、それに子供の頃にやんちゃしてた子の方が大人になると、色んな失敗をしてきた分、性根が腐ってなければそこから学んで立派な大人になる筈だから。

「……ルミィちゃんは今はあれでもそのうち落ち着くと思うよ?」
「そうならいいわね……」
「ふふ、もしかしてサリッサの事心配してる?、スイは友達を大事にするタイプだもんね」
「う、うるさいわね!ただあの子がほっとけないだけよ!」
「もう……素直じゃないんだから」

……顔を赤らめてそう言葉にするスイを見て思わず笑ってしまうけど、そう言う素直じゃないところが可愛らしい。
そう思いながら彼女の方を見ると『ほらっ!もうすぐ領主の館に着くわよ!』とごまかす様に、大きな声をあげて足早に目的地へと向かうのだった。
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