奇術師魔法少女ネロ

覇気草

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一章

演目3 手続き

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 二人と一匹でリビングのテーブルの席に着く。ココンはテーブルに上に載っていて、対面にはアドさんだ。

「まずは魔法少女について諸々の説明からしましょうか。あなたは魔法少女そのものや魔法少女協会、ナイトメアのことについて、どれほど知っていますか?」
「学校の義務教育で習った程度には」

 中学生の頃の知識だから、正直かなり怪しいが。

「そうですか……なら、確認も兼ねて基本的なことから説明しましょう」

 アドさんが懇切丁寧に説明をしてくれた。

 魔法少女とは、ナイトメアという人類共通の敵が出現するようになったと同時に誕生した、神々の最後の慈悲である。成熟した魂を持ち、魂が活性化した人間ならば老若男女問わずなることが可能な存在だ。
 その際、ココンと契約することで本人が心から望む願いを能力として授かることが出来る。
 例えば、人を治したいと願えば強力な回復魔法が。
 街を元通りにしたいと願えば復元能力が。
 最強の力を願えば、本人の思う最強の力が。
 ただし、一度魔法少女になってしまうと二度と元の姿に戻ることは叶わず、永遠に魔法少女としてナイトメアと戦う使命を負うことになる。
 では何故、魔法少女は少女の姿で固定なのか?
 それは単純に、魔法少女は神様から力を魔法として与えられた依代のようなものだからだ。依代という物は少女の肉体が最も適したものであり、大人にもならず老いもしない。

 次に魔法少女協会とは、魔法少女の出現から数年後に設立された世界規模の組織だ。
 何故そんな組織が出来たのか?
 それは人間が愚かだったからだ。
 魔法少女が誕生した直後、一部の馬鹿な国は魔法少女を政治利用したり軍事利用しようと画策した。
 だが、魔法少女を一元管理しているココンがそれを察知して魔法少女たちに伝達。当時の魔法少女たちが醜い争いに利用されることに怒って袋叩きにし、幾つかの国の政府と軍が解体されることとなった。
 また、一部の馬鹿な企業が魔法少女の能力に目を付けて雇用し、その魔法少女しか作れない物で商売を始め、業界で独り勝ちすることがあった。
 だが、その魔法少女が突如死んだことによりビジネスモデルがあっさり崩壊、倒産した。勿論、経済の影響は大きかった。
 そういうわけで、魔法少女の影響力を重く見た国連が『魔法少女に関する国際条約』を制定。魔法少女の政治利用、軍事利用、独占的商業利用が禁止となった。
 同時に魔法少女を各国で管理しつつ戦いの支援をする組織として、魔法少女協会が設立された。

 ナイトメアとは、神々が人類の愚かさに失望して生み出した敵だ。人間や動物の負の感情や、その場の穢れから生まれる存在であり、一定以上の力を持つと実体化して人を襲い街を破壊する為に行動を始める。
 物理的攻撃は一切効かず、唯一対抗出来るのは魔力で攻撃する魔法少女のみ。
 倒しても負の感情や穢れから無限に生まれる存在なので、今や地球は人類が滅亡するまでナイトメアとの戦いが続く闘争の星となってしまっている。


「――以上が、魔法少女関連の基本的なことですね。質問はありますか?」
「いや、無い」

 学校で習った内容と殆ど変わらなかった。

「では、諸々の手続きに入りましょうか。まずは魔法少女としての戸籍登録書を書いてもらいます」

 アドさんは隣の椅子に置いてあるビジネスバッグを漁り、一枚の書類とペンを取り出して俺の前に置いた。

「魔法少女として活動する名前、魔法少女になった年月日、魔法少女としての能力、この三つだけで結構です。他の身体情報や生理周期については、後日に分かってから追記してもらいます」

 早速ペンを持って記入しようとするが、魔法少女としての名前が思いつかず、手が動かない。

「名前……思いつきませんか?」
「あー、はい」

 頷くと、アドさんはくすっ笑った。

「大丈夫ですよ。私もそうでしたが、多くの魔法少女は自分の名前で悩みましたから。待ちますし、なんなら提案ぐらいはしますよ。センスは保障しませんが」
「じゃあお願いします」

 俺はネーミングセンスが無いので、提案してくれるのなら有り難い。
 アドさんはビジネスバッグからメモ帳を取り出し、ペンでサラサラと幾つかの名前を書いた。

「どうぞ」

 書き終えたメモ帳の一枚を破いて切り離し、渡してくれる。

 どれどれ……。


 マジカ
 ノワール
 ネロ
 シュバル
 ビオラ
 ファウスト


「ネロ……いいな。ローマ皇帝の名前であり、イタリア語で“黒”か」
「よく分かりましたね」
「まぁ、ゲームでキャラに名前決める時に、色々と調べたことがあるから」

 名前欄にはネロと書いた。
 次に名字だ。

「……名字は、元々の名字の方がいいのか?」
「いえ別に。魔法少女の名字は名前被りの際の識別で付けているだけですし。好きにして大丈夫ですよ」
「……お願いします」
「分かりました」

 名字もアドさんに頼むことにした。
 サラサラと書かれ、返される。

「どうぞ」

 どれどれ……。


 ジーニアス
 グロリアス
 ベネディクト
 天野
 元宮
 笹渡
 葉薬
 飯空
 皇

「……なぁアドさん」
「どうしました?」
「これ……駄洒落と皮肉入ってない?」
「気付きましたか」

 いや気付くよ!
 特に、さっさと寝ろ、早く寝ろ、いいから寝ろって……ちょっと酷い。

「……じゃあ皇《すめらぎ》で」
「いいですね。皇帝ネロって分かりやすくて」
「芸術はからっきしなんだけどな」

 とりあえず記入。
 あとの年月日と魔法少女の能力はスラスラ書けた。
 因みに俺の魔法少女として能力は『イメージした物や事象を現実にする』というもの。実に奇術師らしい。

「それでは次に編入する学校を決めましょうか。魔法少女が学校にいる理由は知っていますか?」
「ああ、知ってる」

 魔法少女が学校にいる理由……それは、学生という身分にすることで政治利用も軍事利用も独占的商業利用もしないという、国家としての対外的な意思表示だ。
 ついでに、好き勝手動かれると魔法少女が居ない地域とかが出てしまうので、戦力の分配と担当領域の設定も兼ねている。

「では、こちらのパンフレットの中から好きな物をお選びください」

 そう言ってアドさんはビジネスバッグからファイルを取り出し、中学校と高校のパンフレットを並べた。
 その表紙には『魔法少女用』と太い黒字で書かれていた。

「ちょっといいかな?」

 俺がパンフレットを取ろうとした時、今まで静観していたココンが口を開いた。視線はアドさんに向いている。

「ココンさん、なんですか?」
「学校選びの件なんだけど、僕が推薦していいかい?」
「えっ、ええ、構いませんが」
「ネロもいいかな?」
「まぁ、選ぶの面倒だし」
「それじゃあ、僕からはネロをこの学校に入れたい」

 動いたココンは、一枚のパンフレットを前足でトントンと示した。

「っ! そこは……いえ、分かりました。ココンさんの鑑識眼は確かですからね。きっと問題無いのでしょう」

 なんか知らんが、勝手に学校選びが決まってしまった。
 その後は編入手続きやら引っ越し手続きやら、色々と書類を書かされた。
 スライム討伐報酬も現金一括で五十万円をポンと貰い、当面の生活費の心配は無くなった。
 まぁ魔法少女の姿になっていきなり出歩くのはハードルが高いので、アドさんに頼んで服と食料は調達して貰った。
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