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一章
演目11 堕ちた友達
しおりを挟むくそっ、間に合わなかった?!
急いでダブルドナルドの店まで来れば、結界が破られていた。店の回りには大勢の人の死体が転がっている。恐らく、避難しに来て店内に収まりきらなかった人たちだろう。もっと避難場所を作るべきだったのかもしれないが、過ぎたことだ。
「サチ、ハルカ、無事か!」
んんっ!?
店内を覗くと、外と同じように死体と血肉で赤く染まった凄惨な部屋になっていた。それはまぁいい。予想していたことだ。
だが、そんな中で二人の生存者がいた。
一人はサチだ。
もう一人は多分……ハルカ、だと思う。ちょっと自信が無い。何せさっきの男子学生みたいに悪魔になっているっぽいからだ。
頭には曲線を描いた二本角を生やし、腰の後ろから大きな蝙蝠のような翼、尾てい骨付近からは先端がハート型になっている細長く黒い尻尾が生えている。耳は尖り、白目が黒目になって金色の縦長の瞳に変わっている。
おまけに着ている服が劣情を誘う蠱惑的な、サキュバスと言って差し支えない黒いビキニにロングブーツとロンググローブという衣装だった。
それで二人は唇を重ねて熱烈なキスを行いながら抱擁している最中であり、あまりにも場違いな行為に俺の思考は停止してしまった。
「――――はっ! ちょっと二人とも、何やってる!?」
高校一年生でそういうのはちょっと早い。
それに胸騒ぎが収まらない。むしろ嫌な予感が確信に変わっている。
俺の強い呼び掛けに、恐らくハルカだろう悪魔はキスを止めた。
「あぁ、ネロっち遅かったね。何もかも」
「もう……駄目……ああっ!」
手遅れだと言われ、サチが涙目ながら声を漏らした直後のこと。サチからナイトメアの気配がし始めると体が変化し、ハルカと同じような悪魔の見た目となった。
その姿は僅かに違い、二本の角は羊のように捻じ巻き状になっており、腰から生えた翼は羽毛付きで堕天使のように黒く、黒く細長い尻尾の先端は逆ハート型だ。
服は大事な部分以外がスケスケの扇情的な黒いベビードール風の衣装で、足にはヒールサンダルを履いている。
「……ハルカだよな? サチに何をした?」
「何って……一緒に堕ちて、この世界を滅茶苦茶にしようって誘っただけだよ。そうだネロっち! 一緒に堕ちない? ネロっちならもっと強く、もっと淫らになれるよ!」
「遠慮する」
この世界と人類に絶望こそしているけれど、それで人類抹殺や世界滅亡を自らの手で行う気はない。堕落するつもりも。最早この世界は、緩やかな滅びへと向かっているのだから。
「そっか残念。あーしらと一緒に気持ちいいこと楽しいこと、やってくれると思ったのにな。友達として」
「それなら、無理矢理にでも私とハルカで生まれ変わらせてあげる」
「……こっちこそ、残念だ」
魔法少女になって、初めての友達になれたのに……。
覚悟を決めた俺はハットを手に取って内側を二人に向けた。
「ハット砲」
ハットの内側から、魔力をふんだんに混ぜ込んだ大きな榴弾を射出。不意を突いた形で二人に直撃するのが見えた。魔法の障壁で爆炎と煙を防ぎつつ二人の出方を窺っているが、攻めて来ない。
やがて煙が晴れると、二人は衣装に埃一つ付けずに平然と立っていた。
「わーびっくりした♪ それも手品かな? ネロっち」
「これくらいなら、もっと派手なことしていいよ」
「……ならこれは? 十倍ナイフショー」
ナイフを俺の周辺の宙に無数に生成し、魔力を纏わせて一斉に飛ばす。
彼女たちが悪魔としてどれほどの強さか見極めるべく集中していると、なんと二人はさっき戦った悪魔以上の高速で動き、ナイフを素手で掴み取りながら他は全て躱してしまった。
なん……だと……!
「あはは面白い!」
「これ、返すね」
「っ!」
指パッチン。
二人同時に投げ返されたナイフは非常に高速であったが、咄嗟の判断により、俺に刺さる前に元の魔力に分解されて消えた。
「今度はこっちから行くよー!」
「堕としてあげる」
――くっ、やはり速い!
踏み込んで一瞬で距離を詰めて来た二人の初撃は魔法障壁が防いでくれた。だが一撃で砕け、驚く暇も無く下がりながら魔力を纏ったステッキで繰り出される攻撃を防ぐ。こちらも数回でバキッと折れた。
仕方なく全身に魔力を纏わせて拳や蹴りを受け流し、無理なものは防ぐが、思った以上に一撃が重い。
骨は軋み、痛みで動きが鈍ってしまう。
でも、まだ対処出来る。
二人が悪魔に生まれ変わったばかりの戦闘の素人だから。けれど、奇術師としてイメージしている余裕が無い。
「やるねネロっち♪ こんなのどう?」
うわあぶなっ!
ハルカが投げキッスをすると実体化したハートが飛んで来た。当たったらヤバそうな気がして全力で体を逸らしてギリギリで躱すと、側面に回り込んだサチが視界の端に映り、俺は横腹を思いっきり蹴られて吹っ飛んだ。
世界が高速で回転し、地面を転がってやがて止まる。
「ぐっ、くうぅ……」
肋骨の何本かが折れたせいで、痛みで動けない。呼吸が上手く出来ない。汗が噴き出す。戦おうにも痛みのせいでイメージが崩れて上手く魔法を発現出来ない。
それでも目を閉じることはせずにいると、真上に飛んで来たサチが踵落としの姿勢で落ちて来るのが見えた。
「ぬぅっ!」
歯を食いしばって痛みを堪えながらゴロンと転がって躱すと、地面に踵が落ちた衝撃波でさらに吹き飛ばされて地面を転がった。
痛い……マジ痛い。無理だこれ。
というか、明らかに新人魔法少女がしていい相手じゃないだろこいつら!
万事休すな状況に内心愚痴を零す。何か起死回生の一手があればいいけれど、残念ながら魔力を全消費した自爆攻撃以外に思いつかない。
二人みたいにエロいサキュバスになるくらいならと、なんとか手元に自爆スイッチを生成出来た。自爆がバレないよう、蹴られた横腹を押さえるように隠し持つ。
勝負あったと見たか、二人がゆっくりとした足取りで俺の傍に来て見下してくる。
「だいじょーぶ? 怪我治してあげよっか?」
「私たちと同じになってくれるなら、だけど」
「……悪いがその必要はない」
「その通りだ」
この場にいない第三者の声。聞き覚えのある声。
それを認識した瞬間、ハルカとサチの首に背後から大きなハサミが当てられ、シャキンッ! という音を立てて綺麗に切断され、勢いよく宙を舞った。
直後、頭も体も幻のように消えた。あの時見たフードを目深く被った女性のように。
「むっ、幻……やっぱりあいつが関わっているか」
あいつ?
それよりこの声って……。
「霧崎マコト、さん?」
「マコトでいい」
そう言って視界に入って来たのは、学校で出会った魔法少女の霧崎マコトだった。身の丈以上もある巨大な断ち切りバサミを担いでいるが、それよりも魔法少女衣装だろう姿が目を引いた。
全てが黒い軍服風ゴスロリワンピースだ。フリルやレースは控えめでシンプル且つクールなデザインをしている。
頭には軍帽を被り、デニール数の高い黒タイツを履き、靴は編み上げのブーツだ。
「確か皇ネロだったか? 無事だな?」
「まぁ、なんとか」
「ならいい。新人一人で夢境の中よく生き残った。後は私に任せろ」
「その前に一ついいです?」
「ん? 手短にな」
「友達が悪魔みたいになってたんですけど……アレ、なんなんです?」
「アレはサキュバスだ。あいつらは並の魔法少女じゃ太刀打ち出来ないくらいに強力で、人間だろうが魔法少女だろうが気に入った奴を同種に変えようとしてくる。詳しくは後日自分で調べてくれ」
「あっはい」
「じゃあ、片付けて来る」
シャキンッ!
という音がしたと思ったら、マコトの姿は消えていた。
彼女に後を任せられると思った俺は、安堵して気が抜けるとそのまま意識を手放した。
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