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三章
演目25 百合園
しおりを挟む朝、スマホのアラームが鳴って目が覚め、スマホを覗くとトコトークにメッセージが入っていた。
マコトからだ。
『朝八時に近くのダブルドナルドに集合。学校は暫く休校だが私服はめんどいから制服で来い』
『そこで飯食って百合園行くぞ』
とのことだった。
「マイカ、起きろ」
まだ胸の中で寝ているマイカを揺すり起こす。
「ん……もう朝?」
「ああ、おはよう」
「おはよー」
「早速だがこれを見てくれ」
「んー? あー……じゃあ準備して行きましょうか」
マイカは目をこすりながらベッドから出て支度を始めたので、俺も同じく支度した。
自分の理想の姿とはいえ、超絶癖毛の長髪を整えるのに時間が掛かり、余裕がある筈の時間があったのに出発する頃には集合時間の十分前になっていた。
それでも間に合うので気持ち速めに歩き、昨日行ったばかりのダブルドナルドに入った。
「おう、来たか」
マコトの声が聞こえて振り向くと、注文カウンターのあるフロアから見えるテーブル席に二人が座っていた。マコトは普通の量のセットメニューを食べており、向かい側に座るブロンドさんはお盆にどっさりとバーガーが積まれている。
「先輩、おはようございます」
「おはようございます」
「おう、おはよう。飯食ったら行くから、まずは注文して来い」
「はい」
二人で注文カウンターに戻り、各々好きな物を注文する。とは言っても、俺は昨日食べた物と同じセットメニューだ。
二人で「いただきます」をしてから食べ始める。
……うむ。やはりダブルドナルドはジャンクフードらしさがあってそこそこ美味い。それに街がかなりの被害に遭ったのに、問題無く店を開けられている。流石はアメリカが誇るバーガーショップだ。
それにしても……。
斜め向かいで黙々とバーガーを食べているブロンドさんを見る。
相変わらず凄い量だ。
そういえば……。
「ブロンドさん、昨日のあの時、吹っ飛ばされてましたけど、その後はどこで何をしてました?」
「あっ、それ私も気になります」
俺とマイカの興味に、当のブロンドさんは食べているバーガーを飲み込んでから口を開いた。
「……私はあの後、マホロの結界に侵入出来ないから街中のナイトメアを倒していた。マコトから話を聞いた時は流石に驚いたよ。二人とも、よく戦って生き残った」
「ええ、私たちは強いですから!」
マイカが胸を張ったので、俺も頷いておく。
「フフ、そうか。なら今後はもっと訓練を厳しくしていいな」
「えっ」
藪蛇だったらしい。
さっきまでの機嫌はどこへやら、マイカはちびちびと食べ始めた。
全員が食事を終えたところで、マコトは言った。
「じゃあ行くか」
移動したのはダブルドナルドの店内にあるお手洗い――の、反対側の壁。どのダブルドナルドにもあると言われる、謎のゲートっぽい落書きの前で止まった。
「ここ?」
思わず聞いてしまう。
「ああここだ。一般人には公表していないが隠しもしていない、魔法少女だけが通れるゲートだ。ここから日本の百合園へ入れる」
ダブルドナルドでトイレなんてまず行かないし、田舎で魔法少女と偶然店内で出会うなんてことが無かったから知らなかった。
「でもなんで、ダブルドナルドの店内に?」
「あー……ブロンド、頼む」
「ダブルドナルドが24時間営業で世界中の街に店を出しているのは、流石に知っているだろう。忙しい魔法少女が休憩と食事を兼ねて利用し、百合園を経由して移動するのに都合がいいからゲートを設置させてもらっている。代わりに店は結界で守られていて、一時避難所として指定されている」
「なるほど。でもそれだと、夢境の中で結界が機能していなかったのは?」
機能していたら、あの二人はサキュバスになんてならなかった。
「夢境が発生して範囲内に取り込まれると、その空間は夢境として完全に独立してしまう。結界が機能しないのは、同じ場所でも違う空間になっていて存在しないからだ。ゲートも同じ理由で利用不能になる」
「つまり、同一座標別軸の並行世界的な空間ってこと?」
「そんな感じだ」
「ふむ。多分理解出来た」
「私としても説明が難しい部分だから、伝わったようで何よりだよ」
「説明終わったな? 行くぞ」
マコトが壁に触れるとゲートが青く光って内側が消え、通れるようになった。そのまま中に入ると、俺たちは数十のゲートが並ぶ石畳の大広間に来ていた。
それぞれのゲートの上には都道府県の名前が入った看板が掛かっており、傍には地図が設置され、街中にあるダブルドナルドがピンで表示されている。
幾つかのゲートが青く光って内側が消え、少女たちが入って来る。
学校の制服を着ていたり、私服や魔法少女衣装だったりと様々だ。
彼女たちは少し離れた位置にある街っぽい場所を目指して、一本道を歩いて行った。
「ようこそネロ、ここが魔法少女しか入ることの出来ない楽園、日本の百合園だ。感想は?」
「んー、綺麗だけど静か」
「まぁここだとそんなもんか。ブロンド、協会本部に行くまでに街について解説してやってくれ」
「ああ」
ブロンドさんが俺の隣に立ち、街に向かって歩き始める。
「今私たちがいる場所はゲート広場と言って、百合園の玄関口のような場所だ。ここから少し一本道が続くが、景色が綺麗だからよくお茶会が開かれている」
言われて見てみる。
道の外側は芝生と彩り豊かな花が咲き乱れる平原が続いており、手前にはお金持ちとか貴族がお茶会の席で使いそうな白い洋風の東屋や、木のベンチが幾つか設置されていた。
東屋の一つで今まさにお茶会が開かれているようで、制服姿の少女たちが綺麗なティーカップと美味しそうな洋菓子をテーブルに広げて談笑していた。
視線を遠くに向ければ、進んでいる方向を北として、西には雪を被った大きな山々が見えた。東は湖か海のようで地平線が見えた。あと、温かい太陽のある空には、鳥かと思ったら翼を生やした魔法少女が飛んでいた。
自然の景色を楽しんだ後は、半円形のゲートを通って街中に入る。
おぉ……まさに百合園。
白を基調とした洋風の建物が並び、様々な店が開いている。道行く人も店にいる人も全員が可愛らしかったり見目麗しい魔法少女だ。
「ここはリリータウン。後方支援系の魔法少女や引退した魔法少女が主に店を開いている。魔法で加工した雑貨やポーション、便利な魔道具などが揃っている。他にも願いで得た力を使った飲食店があったり、サービスを提供している店もある。ただ、どれも値段が高いから気を付けた方がいい」
なるほど。
確かに値段が高いな。
店の前に出ているメニュー表やショーウィンドウに貼り付けられたメニュー表の値段が、日本の物価の十倍程度になっていた。
偶々目に留まったクレープ屋さんなんか、オススメの生クリームバナナチョコクレープが五千円もしていた。
街の中を歩き続けると、百合の花で彩られた大きな噴水が中央にある、円形の大広場に着いた。
「ここは見ての通りの噴水広場だ。街の中心で、左側に進むと山間部に、右側に進むと海岸に着く。真っ直ぐ進むと、温泉宿と魔法少女協会日本支部がある」
「温泉あるんだ」
「体力回復、魔力回復、その他諸々の効能がある万能温泉だ。バリエーションが幾つもあって楽しめるぞ。マコト、今日は全員で泊まる予定だったな?」
「ああ、そのつもりだ」
全員で泊まるのか。でもそうなると街は誰が守る?
一応、復旧作業で魔法少女が複数滞在してそうだけど……。
「あの、街はどうするんです?」
「安心しろ。こういう時の為に引退した魔法少女を臨時で雇えるようになってる」
なら安心か。
街を通り過ぎ、真っ白で大きな建物に到着。手前には大きな鉄柵の門があり、柱には『魔法少女協会日本支部』と書かれた看板が掲げられている。
門をくぐってよく手入れされた花壇のある庭を通り、両開きのドアを開けて中に入ると、受付カウンターのあるロビーがあった。
そこそこの広さがあり、天井には魔法の光を灯すガラスのシャンデリアが吊るされ、休憩スペースもあってホテルのようだ。
俺たちが総合案内のカウンターの前に立つと、何故かシンプルなメイド服を着ている、銀髪をアップスタイルにし、青い瞳に色白の肌の清楚な雰囲気漂う美少女が一礼した。
「お待ちしておりました。霧崎マコト様、守本ブロンド様、火宮マイカ様、皇ネロ様。ほぼ時間通りですので、このまま支部長のところへご案内します」
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