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三章
演目30 二人の実力
しおりを挟むチャイムが鳴って授業が終わり、休憩時間。セシリアとミシロは早速三人に囲まれた。
「エメラルドさん、ヨーロッパから来たって言ってましたけど、具体的にはどこの国出身なんですの?」
「秘密デス」
「ミシロさん、この耳と尻尾って本物? 触ってもいい?」
「いいよ!」
「では……わぁ、モフモフ」
「楓、私にも触らせて」
「あはは、くすぐったい!」
「ミシロ、私も触っていいデスか?」
「うん!」
「わ、私も!」
愛嬌たっぷりなミシロを皆が触り始めた。扱いが完全に犬そのものだ。
暫くするとミシロが「おしっこ行きたい!」と声高に行ったので、皆で行った。
それから何事も無く午前の授業が終わって昼休み。
購買部への案内ついでに一緒にお弁当を買いに行こうとしたところで、スカートのポケットに入れていたスマホからナイトメア発生の警報が鳴った。
取り出して警報を切ると同時に場所を確認。探知魔法で正確な位置も特定。
「ネロ、行くわよ!」
「ああ」
「お待ちください。私も手伝います」
「私もやるぞ!」
変身して行こうとしたところで、セシリアとミシロが言ってくる。
「どうするマイカ?」
「……今ブロンド先輩からテレパシーが来たわ。『四人でやってみるといい、ただし無茶はするな』って。行きましょう」
「はい」
「やるぞー!」
二人が変身する。
ミシロはこの前見た獣らしい衣装になった。手足は鋭い爪が生えた獣グローブと獣ブーツを着けている。
セシリアは純白に金の装飾がされたレオタード衣装に、ロンググローブとロングブーツを装着している。頭上には十字架を象った天使の輪っかのような光の物体が浮いており、背中からは純白の大きな光の翼が生えている。
まるで天使……いや女神だな。
そんなことを思いつつ、出発前に聞く。
「二人とも、ナイトメアの場所は分かる?」
「分かるぞ! あっちだな!」
聞いただけなのにミシロは豪快に窓を割って行ってしまった。
「私も分かります」
セシリアがミシロの後に続き、窓から飛んで行った。
「ネロ、直しといて」
マイカも窓から出て、炎の翼を生やして飛んで行く。
「やれやれ。私は修理屋じゃないんだけどね」
ステッキを腕に引っ掛けてハットを手に取り、中から大きな黒い布を出して投げるように広げる。魔法で操作して布で割れた窓を覆い隠し、その間に魔法で修復。それから黒い布を掴んでハットの中に吸い込ませるようにガラス片と一緒に回収すれば、元通り。
観客の三人に忘れず一礼。
「では、行って来ます」
「ええ、行ってらっしゃい」
「気を付けて」
「昼休みの間に帰って来てね」
見送りの言葉を貰った俺は窓を開けて飛び降り、ナイトメアの気配がする場所まで瞬間移動した。
到着したのは学校からちょっと遠い場所にある大型スーパーマーケット。
「ふむ、『エアブタ』か」
伸びて来たピンク色の手の形をした触手の一本を、魔法で強化し魔力を纏わせたステッキで叩いて潰す。先端の手が潰れた触手は荒ぶりながら引っ込んでいった。
エアブタ――あれも食べたいこれも食べたい、という暴食の感情が溜まることで生まれるナイトメア。丸々太ったピンク色の巨大な醜い豚で、その大きさは巨大な飛行船。体表にはかなりの距離まで伸びる手の形をした触手が無数に生えており、またその触手が掴んだ物を効率的に食べる為に沢山の口が付いている。討伐ランクはD。
プカプカ浮いて移動するらしいが、今現在、そいつは建物の屋上に着陸して触手を中に突っ込み、逃げたり隠れたりしている人や、置いてある食材を掴んでは、体表にある沢山の口へと放り込んでいる。体内は無数の小さな胃があるそうだが、スライムと違って消化に時間を掛けるらしいので、食われた人を助けられる可能性は高い。
「さて、どう倒したものか……」
体内には生存者がいる為、下手に攻撃は出来ない。大技をぶっ放そうものなら中の人が漏れなく死んでしまう。かといってちまちまと攻撃していたら時間が掛かり、周りに被害が及ぶし自分も危険。生命力が無駄に高いので弱点らしい部位も存在せず、頭が無くなっても動くらしい。
時々伸びて来る触手をステッキで叩き潰しながら考えていると、俺の頭上をミシロが通り過ぎた。
「ナイトメアは――殺すッ!!」
叫んだ彼女は触手を手で払うように斬り落としながら飛びつき、魔力を纏った鉤爪を振るってズバッと自分の身長以上の大きな傷をつけた。
ちょっとミシロ!?
食われた人がいるんだけど!!?
驚いている間にも獣の如く粗っぽさでズバズバと斬って裂いてエアブタを削っていく。
ちょいちょいちょいちょいちょいっ!
人! 一般人! 巻き込む巻き込む!!
「――ん? いや、助けてる!?!」
よく見たら、彼女は器用に人がいる場所を避けて攻撃し、食われた人たちが破けた胃からヌルリと出て来ていた。
これが動物の直感という奴か?
……あぁ、そうか!
探知魔法で人の居る場所とかを避ければいいのか!
倒し方が分かれば簡単だ。俺も早速攻撃に加わろうとしたところで、エアブタの動きが変わった。流石に体を凄い勢いで削られると食べることに夢中になれないようで、全ての触手がミシロに向いて動き出した。
俺は瞬間移動でミシロの後ろに立ち、ステッキから魔力収束剣――略して魔剣に持ち替えて起動。身体強化したうえで、紫の光の刃でスタイリッシュに大量の触手を切断していく。
「あっ、ご主人! ありがとう!」
「私はお前の主人じゃないんだが?」
「骨くれた! だからご主人!」
「……」
くそっ。
数日前の俺に、犬に餌付けするなって言いに行きたい。
目の前の対処に集中していると、離れた上空から魔力を感じ取った。そしてすぐに大量のビームのようなものが何発も撃ち込まれて触手と一緒にエアブタを貫通した。
この攻撃は――何やってんのセシリア!?
強化された視力だからよく見える。彼女は上空から芸術的な彫刻がされた白いライフルを持ってこちらに狙いを付け、魔法陣を複数展開していた。
もう一射、ライフルと魔法陣からビームが撃ち込まれる。
……マジか。人に当たらないように撃ってるっぽい。
ミシロが削り、セシリアが穴だらけにしたことで、エアブタは力尽きたのか動きを止めると霧散して消えた。食べられた人たちが食材に混じって胃液でヌルヌルの状態で転がっており、俺はとりあえず魔剣を防止の中に片付け、スマホを出して大人数用の救援要請だけ出しておいた。
「ねぇねぇご主人! ミシロ凄かったでしょ! 褒めて撫でて!」
「……ああ。よしよし」
尻尾ブンブンで興奮状態の彼女を落ち着かせる意味も含めて、頭を優しく撫でてやる。
「むふー」
嬉しそうなのはいいけど……どうしよう。
俺、人を犬扱いするのは抵抗あるんだけどなぁ。
撫で続けているとミシロが落ち着き始めた。そこにセシリアが上空から舞い降りて来た。
「ネロさん、一般の方に怪我人はおられませんか?」
「さぁ? まだ見てない」
「そうですか。ちょっと確認して来ます」
すっかり日本語が上手くなっているセシリアは、人がヌルヌルなのを意に介さず、一人一人しっかりと怪我人がいないか診始めた。
遅れて、マイカが降りて来る。
「私の出番は無かったみたいね」
「ああ。まぁマイカだとやり辛い相手だから良かったじゃないか」
「そうね。分別付けて燃やすのにまだ慣れてないから、正直助かったわ」
その言い方だと、やろうと思えば人を燃やさずに丸焼きに出来るってことだよな?
「……ところで、私もミシロを撫でていい?」
「いいよ!」
俺に聞いたのだろうが、答えるより早くミシロが頭を差し出し、撫でられた。
「むふー」
……本人が楽しそうだし、もういいや。
その後、セシリアが数人いた軽傷の人を回復魔法で治療し、後のことは事後処理してくれる魔法少女に任せて学校に戻った。
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