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環流 虹向

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おれたちともだち

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「後ろはこのくらいですかね。」

と、美容師さんは私が脱毛で整えたうなじがしっかり見えるショートボブにしたことを鏡合わせをして見せてくる。

幸来未「…はい。ありがとうございます。」

「前髪はどうします?」

と、美容師さんは少し目にかかる私の前髪を見て聞いてきた。

幸来未「少し…」

あもん「伸ばすから切らないで。かき分けボブでお願い。」

「あ、はーい。」

美容師さんは私の意見は聞かず、隣の席で仕事中のあもんさんの意見を通し、カット、パーマ、トリートメント、ヘアセットをしっかりやってくれた。

「ちゃらーんっ。幸来未さん、すごいショートボブ似合ってる!」

と、美容師さんはとぅるとぅるな私の毛先をヘアオイルで束を作りながら褒めてくれた。

その明るい声に隣で仕事をしていたあもんさんが私を見て目を輝かせる。

あもん「いいね!やっぱり幸来未は顔を出す髪型が似合うよ。」

幸来未「ありがとうございます…。」

私は自分の濃い眉が出るのが嫌で眉間にしわを寄せてしまうと、美容師さんが心配そうな顔をする。

あもん「昼時だから腹減ってるんだ。」

と、あもんさんは私のおでこに軽くデコピンすると美容師さんの心のケアをしながらレジに向かった。

私はアシスタントさんに促されるまま、ロッカーに置いていた荷物を取り精算をしているあもんさんの隣に座る。

幸来未「お金は悠雪からもらったので渡しますね。」

あもん「その悠雪の事だけど、幸来未はどうしたい?」

幸来未「どう…?」

私は財布を取り出す手を止めてその意味を考える。

幸来未「別れたいとは思ってますけど。」

あもん「ただ別れるのって幸来未が泣き寝入りするみたいで俺は腹立つけど幸来未はどう?」

幸来未「…でも、さっさと別れたいです。」

あもん「さっさと別れられる可能性は十分あるけど、聞く?」

あもんさんはゲームを始める時みたいな笑顔で私に気分が踊ってる事を目で伝えてくるけど、私はそんな気分になれず2万円をあもんさんに渡す。

幸来未「1つの案としては聞きたいかもです。」

私がそう言うとあもんさんは上機嫌に頷き、美容師さんが持ってきたマネートレーにあったお釣りと今受け取った2万円、そしてレシートを私に手渡した。

あもん「これはアリバイ用に必要だからしっかり財布にいれといて。」

幸来未「…分かりました。」

私は財布の中にアリバイ作りを仕込み、あもんさんと一緒にカフェに入って久しぶりにあのチキンソテーを食べる。

あもん「んー!美味しっ!幸来未のオススメランチは最高だね。」

そう言ってあもんさんはチキンをどんどん口の中に飛び込ませていく。

幸来未「あもんさんはどんな案を考えてるんですか?」

私はこの後、悠雪さんの家に行く前に早めに作戦を立てたくて答えを焦らすあもんさんに食い気味で質問した。

あもん「男が嫌いな女の特徴、代表的な3つ知ってる?」

幸来未「んー…。ブス、デブ、貧乏?」

あもん「それもあるかもね。けど、ブスは整形、デブは食事管理、貧乏は仕事で改善できるよ。」

幸来未「じゃあ何ですか?」

あもん「愛想がない、魅力がない、つまらない。この3つかな。」

と、あもんさんは三本指を立てて私に見せてきた。

あもん「幸来未は愛想少なめだけど礼儀は持ち合わせてるし、顔立ちはその辺の女よりいいからそれだけでも魅力はある。しかも行動が逐一面白いときたもんだから男が寄り付くんだと思うよ。」

…褒めてるの?

それとも、けなしてるの?

どっち?

私はどっちつかずなあもんさんに思わず眉で反応すると、あもんさんはその三本指で私の眉間のシワを伸ばした。

あもん「そんな幸来未を自分の懐に入れて好き勝手してる悠雪の堕ちたとこ見たいよね?」

幸来未「…私は別れたいです。」

あもん「けど、悠雪は別れたいと思ってない。だから今もしっかり別れられてないんでしょ?」

幸来未「はい…。」

あもん「だからこそ、悠雪をもっと幸来未を好きにさせて幸来未しかいないと思わせる。」

幸来未「え…?それじゃあ別れられない…」

あもん「けど、大親友の紀莉哉が『別れろ』って助言したら渋々でも頷くんじゃないかな。」

私はあもんさんの作戦のプランが見えず、首を傾げるとあもんさんは自分の顔前で三本指を1つ折りたたんだ。

あもん「まずは幸来未が悠雪と仲直りする。悠雪がどんなに怖くても悠雪の気持ちに寄り添って自分に依存させて。」

そう言ってあもんさんはもう1つの指を折る。

あもん「それから悠雪とたくさん一緒にいるせいで貧乏になったフリをする。付き合って大体1ヶ月以上はたったよね?収入は前の月と変わってる?」

幸来未「先月は遊びと閑散期で普段よりは少なかったです。」

あもん「遊びは悠雪とのデート?」

幸来未「それもあるし、友達とのもあります。」

あもん「大丈夫。付き合う前は監視されてないから。」

そう言うとあもんさんは最後に残っていた人差し指を自分の唇の下に置いた。

あもん「悠雪のせいでお金がない。けど、大好きな悠雪のためにオシャレはしたいし綺麗でいたい。だからお金ちょうだいって言うの。」

幸来未「え…っ、それなんか…怖いです…。」

あもん「悠雪に買わせるんじゃなくて“現金”ね。そうじゃないとこの作戦はうまく機能しないよ。」

幸来未「なんでですか…?」

あもん「プレゼントで現金ってあんまりにも生々しくて普通の人は躊躇する。けど、大好きな幸来未なら悠雪は躊躇せずに出す。それを見た第三者の紀莉哉はどう思う?」

幸来未「…私を怪しむ?」

あもん「そう!数日2人だけでやり取りして紀莉哉が遊びにきたときにでも当たり前のようにお金ちょうだいって言えば大親友の紀莉哉は動くよ。」

…なるほど。

それは思いつかなかった。

しかも、物じゃなくて現金だったら別れた後まとめて返す事が出来るしいいかもしれない。

あもん「紀莉哉は悠雪のボロボロになった彼女を寝取るのが好きなちょっと変わった性癖持ってるから、やるなら早めにだね。」

幸来未「…親友なのにそんなことするんですか?」

あもん「心がボロボロになった悠雪と体がボロボロになった彼女が紀莉哉のモノを勃たせる。だから今まで幸来未に手出さなかったんじゃない?」

私はこの間川の字で寝た朝を思い出し、寒気がする。

あもん「悠雪がごねた時、紀莉哉が優しくならなかった?」

幸来未「別れる方法あるって…。」

あもん「寝取りスイッチオンって感じだね。今の作戦だったら紀莉哉には嫌われるし、悠雪は説得されて頷くしかないけどどうかな?」

幸来未「今日…、一度試してみます。」

あもん「うん。うまくいかなかったらまた連絡してね。」

私はあもんさんの作戦を遂行するために一度、自分の家に帰ってからしっかり可愛いを作って悠雪さんの家に行った。


環流 虹向/23:48
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