溺/恋留

環流 虹向

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「おめでとうございます…!」

韓国語がすっぽり抜けたなずなは仕事前の公園でカフェタイムなのにも関わらず、大興奮していて抑えきれていない叫び声を喉奥で何度も出す。

水月「ありがと…。」

なずな「んー?なんか元気なくないですか?」

と、なずなはやっぱり人間観察が良く出来て私のちょっとした違和感に気づく。

水月「私なんかとなんで付き合いたいんだろうって…。」

なずな「ちょっとぉ…。本当になんでそんなにネガなんですか? 」

水月「だって…」

私が選ばれない理由を言おうとすると、突然背後から手が伸びてきて私の両頬を挟まれるようにパチンと叩かれ心臓が飛び出そうになる。

なずな「びっくりした…。朋希、どうしたの?」

と、なずなは私の後ろにいるらしい朋希さんを見て私と同じく驚く。

朋希「お財布忘れてたよ。」

そう言って、キャッシュレス派のなずなに3つ折りの小さなお財布を渡した朋希さんは私の頬から手を離して私たちの真ん中にお尻をねじ込むように座った。

水月「えっと…」

朋希「水月さんは可愛いよ。」

と、突然朋希さんは真顔のまま、なずなの前で私を褒めた。

朋希「この間呑んだ時にはしてた口紅とか、香水とか、服とかあの人のために選んだんでしょ?」

水月「香水はつけてないよ…。」

朋希「じゃあトリートメントなんだ。いい匂いだね。最近スキンケア変えたの?前より肌質良くなってる。」

朋希さんの言葉責めに私はダンマリしてしまうと朋希さんの後ろから微笑むなずなの顔が出てきた。

なずな「そうだね。桐谷さんと出会ってから新しい物を買うことが多くなった気がする。」

朋希「そうなんだ。そういうの好き。」

なずな「私も好き。」

2人は私を誉め殺ししようとしているのか、いつも以上にお揃いの穏やかな笑顔で私を見つめてくる。

水月「…みんな新しい物、好きだよ。」

朋希「そういう水月さんが好き。」

なずな「私も好き。」

好きって恋人だけの特権じゃないの?

そう思うけれど、私の心の中は温泉が湧き出したかのようにポカポカして心地良い。

朋希「そういう水月さんだから桐谷さんは付き合いたいんだよ。それ以外にも理由はあると思うけどね。」

なずな「おっちょこちょいな所とか。」

朋希「聞き役に徹してる所とか。」

なずな「相手に合わせて言葉を選んでる所とか。」

朋希「ステータスで人当たりを変えない所とか。」

なずな「どんな人でも受け入れてくれる所とか。」

水月「…も、もう、いいって。」

私は2人の圧に押し殺されそうになり、自分の耳を塞ぐとそれを朋希さんが少し乱暴に取った。

朋希「水月さんは桐谷さんの恋人。だから私なんかって言わないで。水月さんを好きになった桐谷さんが悲しいと思うよ。」

なずな「そうですよ。水月さんだから好きなのに、水月さん自身が自分を否定したら桐谷さんを否定することにも繋がりますよ。」

…そんなこと、考えもしなかった。

私は2人の言葉で桐谷さんを傷つけかけたことを知り、自分の意識を変えることにした。

水月「桐谷さんが好きな私を好きになってみる。」

2人にそう宣言した私は恋愛経験が豊富な2人の先輩からこれからことを教えてもらい、来週にある桐谷さんのデートに備えた。


環流 虹向/溺/恋留
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