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悩みのタネって育っちゃうとどんどん根が張って、自分自身が腐ってもそれは成長し続けるから本当に困っちゃうよな。
そんなことを思いつつ、私は給料日前の節約日かつ平日でまだお客さんが来ていないお店で従業員といつもは行き届いていない細部の掃除をしながらTVの流し見をしているとあるニュースが耳に入った。
「あー、これ。ブラックサンタの贈り物事件ですよね。」
と、一緒に掃除していた同い年の従業員が懐かしいワードを出した。
雅紀「そうだね。あのクリスマスの日、何してた?」
「私は終業式の日で、家に帰って家族みんなで鳥の丸焼き初挑戦してた。」
そんな可愛いエピソードを話してくれる従業員はこの通り魔殺人事件にあまり関心がないのか、店のBGMで流しているクリスマスソングを鼻歌で歌い始めた。
その少し上手過ぎる鼻歌に私は久しぶりに鳥肌が立つ。
「さきちゃんはあの日何してたの?」
と、私が手の震えで掃除をサボってしまっているのに気がつかない従業員は背を向けたままそう聞いてきた。
雅紀「んー…、何してたっけな…。」
「まあ、10年も前だし、中2の頃なんか豆粒くらいしか覚えてないよね。」
雅紀「うん…。本当、一滴の雫分って感じ。」
「だよねー。あの頃流行ってたたまぴよどこ行ったかなー。」
そう言いながら従業員が掃除を続けていると、お店のベルが鳴った音が聞こえ私はすぐにTVを消す。
雅紀「おかえり。今日はどうだった?」
私はまだ目が合わないスーツ姿の音己におしぼりとおつまみのミックスナッツを渡す。
音己「…ダメだった。」
雅紀「…そっか。社会に溶け込むのって難しいよね。」
音己「溶け込まないといけないなら、私はずっと油ハネしてたい。」
そういう訳の分からないことを言う可愛い音己が好きだよ。
けど、そんなことを言っても今の音己には全く響かないんだろう。
雅紀「よかったらここで働く…?」
音己「…夜はなるべく弟とご飯食べたいから。」
雅紀「そっか。じゃあBARは元々候補にないね。」
音己「でも…、誘ってくれてありがと…。」
と、音己は声を振り絞り、言わなくてもいいお礼を言ってくれた。
そんな律儀な音己も好きで私は少し涙を貰ってしまう。
雅紀「うん。単発で入るのもOKだからいつでも声かけてね。ドリンクはジンジャーハイ?」
私が思い切り話を変えると、音己静かに頷いて小さく開けた口でナッツを食べ始めた。
このところ、本当に音己の元気がないからなんとかしてあげたいって思うけど、自分はBARを2店舗しか経営してないし、知り合いのツテと言っても似たような夜の仕事関係の人しかいないので、音己の条件に合う仕事はない。
そんな能無しな私は音己が呑みたいという極薄ジンジャーハイに、少し甘みを足すためにはちみつを入れて元気の源の糖分をこっそり注入することしか出来ない。
雅紀「どうぞ。ちゃんと薄めにしてるよ。」
音己「ありがとう。さきのジンジャーハイボール、配分一緒なはずなのに味が真似出来ないんだよね。」
雅紀「私の愛情を1番最初にグラスの底へ入れてるから。その甘味が薄くなる頃、家で作ってる味に近くなるでしょ?」
音己「…確かに。何入れてるの?」
雅紀「私の愛情、ふたスプーン分。これ以上は企業秘密。」
ジンジャーハイボールの作り方は私のレシピ集を見せて知っているけれど、特別にはちみつを入れてることは誰にも言っていないので私の中での本当の企業秘密。
それを知りたいと少し強引な音己は目からお星様を飛ばすようにお願いしてくるけれど、これは誰にも言わないし、言う気はない。
その特別を知られて、初めて自分に優しくしてくれた赤の他人の女性が離れてしまうのが嫌だから何があっても言わない。
音己「んーっ、さきのお酒はいつも隠し味があるから自分で作れないよ。」
雅紀「呑みたいなら私のとこにおいで。」
音己「あーあ、ニートが営業されちゃったよ。」
と、音己が少し元気を取り戻した口ぶりをすると誰かの携帯が鳴った。
音己「…あ、私のだ。」
そう言って、音己が携帯をカバンの奥底から取り出し、画面を確認するとすぐに電話に出た。
音己「…うん。そう。分かった。また後で。」
そんな簡単な言葉で終わってしまう会話に音己はまた悲しげだった顔を一瞬で笑顔に変えた。
音己「一の家で今日はのんびりすることになった。」
…やっぱり。
音己の笑顔の作り方は一が1番上手いの。
やっぱり、幼馴染として過ごした時間は伊達じゃないよ。
雅紀「よかったね。今週はそのまま就活休んじゃえばいいよ。」
音己「…そう、そうしよっかな。」
雅紀「うん。もう年末だし、来年は仕事で忙しくなるって思ったらニート生活も悪くないよ。」
音己「確かに。そうする。」
笑顔のままの音己はゆっくりとだけれど、いつもよりは速いペースでグラスのお酒を飲み切り、お互いが大好きな一家へ向かった。
あそこさえくっついちゃえば、私は一のことをきっぱり諦めようって思えるのに。
なんで一は音己のことを1人の女性として見てくれないんだろうなと私はまたモヤモヤしながら掃除に戻った。
環流 虹向/ここのサキには
そんなことを思いつつ、私は給料日前の節約日かつ平日でまだお客さんが来ていないお店で従業員といつもは行き届いていない細部の掃除をしながらTVの流し見をしているとあるニュースが耳に入った。
「あー、これ。ブラックサンタの贈り物事件ですよね。」
と、一緒に掃除していた同い年の従業員が懐かしいワードを出した。
雅紀「そうだね。あのクリスマスの日、何してた?」
「私は終業式の日で、家に帰って家族みんなで鳥の丸焼き初挑戦してた。」
そんな可愛いエピソードを話してくれる従業員はこの通り魔殺人事件にあまり関心がないのか、店のBGMで流しているクリスマスソングを鼻歌で歌い始めた。
その少し上手過ぎる鼻歌に私は久しぶりに鳥肌が立つ。
「さきちゃんはあの日何してたの?」
と、私が手の震えで掃除をサボってしまっているのに気がつかない従業員は背を向けたままそう聞いてきた。
雅紀「んー…、何してたっけな…。」
「まあ、10年も前だし、中2の頃なんか豆粒くらいしか覚えてないよね。」
雅紀「うん…。本当、一滴の雫分って感じ。」
「だよねー。あの頃流行ってたたまぴよどこ行ったかなー。」
そう言いながら従業員が掃除を続けていると、お店のベルが鳴った音が聞こえ私はすぐにTVを消す。
雅紀「おかえり。今日はどうだった?」
私はまだ目が合わないスーツ姿の音己におしぼりとおつまみのミックスナッツを渡す。
音己「…ダメだった。」
雅紀「…そっか。社会に溶け込むのって難しいよね。」
音己「溶け込まないといけないなら、私はずっと油ハネしてたい。」
そういう訳の分からないことを言う可愛い音己が好きだよ。
けど、そんなことを言っても今の音己には全く響かないんだろう。
雅紀「よかったらここで働く…?」
音己「…夜はなるべく弟とご飯食べたいから。」
雅紀「そっか。じゃあBARは元々候補にないね。」
音己「でも…、誘ってくれてありがと…。」
と、音己は声を振り絞り、言わなくてもいいお礼を言ってくれた。
そんな律儀な音己も好きで私は少し涙を貰ってしまう。
雅紀「うん。単発で入るのもOKだからいつでも声かけてね。ドリンクはジンジャーハイ?」
私が思い切り話を変えると、音己静かに頷いて小さく開けた口でナッツを食べ始めた。
このところ、本当に音己の元気がないからなんとかしてあげたいって思うけど、自分はBARを2店舗しか経営してないし、知り合いのツテと言っても似たような夜の仕事関係の人しかいないので、音己の条件に合う仕事はない。
そんな能無しな私は音己が呑みたいという極薄ジンジャーハイに、少し甘みを足すためにはちみつを入れて元気の源の糖分をこっそり注入することしか出来ない。
雅紀「どうぞ。ちゃんと薄めにしてるよ。」
音己「ありがとう。さきのジンジャーハイボール、配分一緒なはずなのに味が真似出来ないんだよね。」
雅紀「私の愛情を1番最初にグラスの底へ入れてるから。その甘味が薄くなる頃、家で作ってる味に近くなるでしょ?」
音己「…確かに。何入れてるの?」
雅紀「私の愛情、ふたスプーン分。これ以上は企業秘密。」
ジンジャーハイボールの作り方は私のレシピ集を見せて知っているけれど、特別にはちみつを入れてることは誰にも言っていないので私の中での本当の企業秘密。
それを知りたいと少し強引な音己は目からお星様を飛ばすようにお願いしてくるけれど、これは誰にも言わないし、言う気はない。
その特別を知られて、初めて自分に優しくしてくれた赤の他人の女性が離れてしまうのが嫌だから何があっても言わない。
音己「んーっ、さきのお酒はいつも隠し味があるから自分で作れないよ。」
雅紀「呑みたいなら私のとこにおいで。」
音己「あーあ、ニートが営業されちゃったよ。」
と、音己が少し元気を取り戻した口ぶりをすると誰かの携帯が鳴った。
音己「…あ、私のだ。」
そう言って、音己が携帯をカバンの奥底から取り出し、画面を確認するとすぐに電話に出た。
音己「…うん。そう。分かった。また後で。」
そんな簡単な言葉で終わってしまう会話に音己はまた悲しげだった顔を一瞬で笑顔に変えた。
音己「一の家で今日はのんびりすることになった。」
…やっぱり。
音己の笑顔の作り方は一が1番上手いの。
やっぱり、幼馴染として過ごした時間は伊達じゃないよ。
雅紀「よかったね。今週はそのまま就活休んじゃえばいいよ。」
音己「…そう、そうしよっかな。」
雅紀「うん。もう年末だし、来年は仕事で忙しくなるって思ったらニート生活も悪くないよ。」
音己「確かに。そうする。」
笑顔のままの音己はゆっくりとだけれど、いつもよりは速いペースでグラスのお酒を飲み切り、お互いが大好きな一家へ向かった。
あそこさえくっついちゃえば、私は一のことをきっぱり諦めようって思えるのに。
なんで一は音己のことを1人の女性として見てくれないんだろうなと私はまたモヤモヤしながら掃除に戻った。
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