ここのサキには

環流 虹向

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今日で冬休みに入るお店の締め作業を終えた私は1人でお店の外へ出ると、店前で小さくしゃがみこんでいた一を見つけた。

雅紀「…ずっとここにいたの?」

私が俯いている一に声をかけると一はなぜかとても驚いて小さく尻餅をつく。

一「寝てた…。おはよ、姐さん。」

と、一は今日の日差しのように温かい笑顔をして私を見上げた。

雅紀「おはよ。朝ごはん食べた?」

私は一に手を差し出し、立たせるとそのまま一は私の手に指を絡めて恋人繋ぎをしてしまう。

一「まだ。姐さんと食べたいなって思ってたから。」

雅紀「なにか食べたいのある?」

一「ケバブと味噌汁。」

ケバブは私の家のすぐ隣にあって、味噌汁はきっと私の家にあるレトルトの味噌汁のことを言っている。

今日もまた一を家にあげちゃっていいのかなと思っていると、一は私を連れて歩き出しケバブを2つ買って私の部屋前まで来てしまった。

一「開けよっか?」

雅紀「…合鍵捨ててよ。」

一「捨てたら姐さんが危ないから。」

そんなことを言って一は何のためらいもなく勝手に作った合鍵で扉を開けると、玄関に入った瞬間私にキスをしてきた。

一「なんなの?あのイケメン。」

雅紀「え?」

一「ななみさん。イケメン過ぎて拾っちゃったの?」

と、一は名前を言うのも嫌そうにしてななみんのことを聞いてくる。

雅紀「仕事のことで悩んでたから。副業でストレス発散してもらおうかなって。」

一「…あんなに失敗してるのにストレス発散になるの?」

一はななみんの不器用さがバーテンダーになるにはふさわしくないと思ったのか、不思議そうにそう聞いてきた。

雅紀「本当にこの間入ったばっかりだし、手先が不器用な子だからちょっと時間がかかるの。今度、作らせてあげて。」

一「やだ。俺は姐さんの作った酒が飲みたくって行ってんの。」

と、一は不機嫌そうにして靴を脱ぎ散らかすと部屋に入り、すぐに電気毛布とコタツのスイッチをつけてくれる。

一「明日は音己ねぇとデートでしょ?だから今日は俺とゆっくりしようよ。」

雅紀「私、ちょっとしたら寝るよ?」

一「知ってる。だから夜飯も一緒に食うんだー。」

そんなことを言いながら温かいうちにケバブを食べ始める一は私がケトルでお湯を作ってないことに気がつかない。

一「夜飯は姐さんの家で鍋食べたい。」

雅紀「いいよ。なに鍋がいい?」

一「辛いやつ。発汗してこのクソ寒い部屋で温まる。」

と言って、一はケバブを食べながらもコタツ下で器用に私の脚に自分の脚を絡めてくる。

雅紀「…今日は疲れてるからしないよ?」

一「日付変わればいいんでしょ。」

雅紀「そういうことじゃないよ。」

一「俺がヘッドスパとボディマッサージしてあげる。」

…そんな魅力的なこと言わないでよ。

頷くしかないじゃん。

私はまた一のやんわりとした押しにも倒されてしまい、いつも通りの家デートを過ごすことになってしまった。


環流 虹向/ここのサキには
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