異世界転移したら死にかけ魔法使いを拾って懐かれたのだけれど?!

椎葉たき

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二.魔法使いと共同生活

14.魔法使いの研究者

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 本の中や画面の中の触れられない想像上でしかなかった、魔法が存在する世界。交わるはずのない魔法使いが目の前に居て、好奇心が湧く。せっかくだから、色々と聞いてみたい。

「かまどで火を焚いたり明かりをつけたり水瓶に水を湧かせたり、生活に必要なものは床下に必要な素材や術式を埋めてある。生活する程度ならばほんの少しの魔力で十分なんだ。お湯を一年間、滝のように出し続けるのは例外だけど。あくまで生活する上で必要な魔力の話だ」

 そんな大量の湯を魔法使いのみんなが出し続けていたら、国が水底に沈むのでは。天才といわれているカデルが規格外なのか、魔法使いはみんなできるのかわからないけれど。

「掃除も魔法?」
「そうだ。魔法でできるものは魔法でできるようにしてある、だからこの小屋には掃除用具を置いていない」
「箒で空を飛んだりしない?」
「箒が空を飛ぶのか? どこにに乗るんだ?」
「えっと……柄?」

「ものを浮かせる魔法があるから、学生時代は浮かせたものに乗る遊びもしていた。愛久の世界では箒に乗るのだな。箒の柄に乗るのは、痛くないのか?」
「人によって、跨がるかも……?」

 そう言われてみれば、あの細い柄に乗るのだから尻やら股間のナニやらに全体重が掛かって食い込んで痛くないのかな、なんてその辺りは魔法で都合よく何とかしているのでは。ファンタジーだから知らないけれど。
 魔法使いが居て魔法学校があるのだから、もしや……と先入観で訊ねたが、この世界では魔法使いは箒で飛ばないらしい。ちょっと見てみたかった。

「呪いって、魔法でも可能なの?」
「魔法で呪いを掛けることもできる。軽い呪いなら、本来は己の幸運と魂を差し出すところを、素材と魔力で代償の代わりを作れる。魔力を瘴気に変えられるけれど、魔力から作る瘴気は強くはない、足りなければ生きた魔物を使う」
「軽い呪いって?」
「何もない道で躓くとか、友達と遊ぶ約束が駄目になるとか、頼んだ食事に嫌いなものが入ってるだとか」
「地道に嫌な嫌がらせ」

「そうだな。躓いた拍子に怪我をするような呪いではないけれど。怪我をさせるような呪いは、それなりの代償がいる。
 魔法で呪うのは、瘴気を人為的に作るのだから呪う相手に負の感情を持っていなくても呪える。……魔法で作った呪いは、綺麗なんだ。手当たり次第に結びついて歪になったものと違って、必要なものだけが必要な分だけで作られているのだから、とてもシンプルで整っている」

 言葉を飲み込んだような不自然な間があった。悲しそうな、寂しそうな、哀愁が漂う。説明からして面倒な手順がありそうな手間も厭わず呪いを掛けられるだけ、人に恨まれているなんて知ったのだ、カデルのように優しい人ではなくともショックだろう。

「その、会って二日しか経ってない俺が言うのもなんだけど。カデルを大事に思ってくれている人は、沢山居るから。町の人たちとか、ジャックさんとか」
「アイクは思ってくれないのか」
「もちろん、俺も! 大事と言えるだけの時を一緒に居たわけじゃないけど、カデルの人柄は尊敬する」
「気遣ってくれてありがとう。僕もアイクを大事に思っている」
 面と向かって真っすぐ言われると気恥ずかしいけれど、ちょっぴり意地悪で小悪魔なカデルも嫌いじゃない。寧ろ、楽しげに微笑む彼が可愛いなんて、すっかり術中にはまってしまいそうだ。

「この小屋は結界で守っているから大丈夫だとは思うけれど。呪いの掛かった料理が弾かれたとき、愛久の口に入ったかもしれない、念のため浄化薬を飲んでおくといい」
 出してきたのは、ガラスのコップに入った淡い水色の液体。
 淡く発光している謎の液体だが、呪いが掛かるのも嫌なので素直に口をつけて、びっくりした。

「あれ? 美味しい」
 魔法薬といえば某魔法使いファンタジーものの影響でゲテモノ味じゃないかと構えていたのに。シュワッとして、ほんのり甘さと苦味があり、いい清涼感のレモン味。これは、馴染みがある。知っている味より流石に少し薬っぽいけれど、ミントを効かせた微炭酸レモンスカッシュに似ていた。

「果汁で割って飲みやすくしてみたんだ。その浄化薬は、弱い呪いや、ある程度の毒の効果を消してくれる。腹の中のものまで浄化してしまうから、暫くするとお腹が空いてくる」
「消化? 浄化?」
「似たようなものかな」
 なんとも曖昧。それが魔法なのかもしれないけれど。
 薬が美味しいのもどうかと思うけれど。飲む人に配慮されたカデルの優しさが嬉しい。
 飲んでいるところをキラキラした目で観察されて、飲みづらい。見ている前で残すのは悪いし、味はいい、苦もなく浄化薬を飲み干した。

「魔法といえば。僕が呪文を唱えてもいいのだけれど、僕が留守にしたとき家の魔法が使えないと生活に不便だろう」
「それって……俺も魔法が使えるようになる?」
「わからない。だが、やってみよう」

 やってみよう、とは……何をやるのか。
 心なしか、いい予感がしない。

「アイク、手を」
「いきなり? 説明は?」

 一抹の不安を覚えるも、カデルはすっかり乗り気でいる。愛久としても、魔法という未知の力を使えるようになるかもしれないという淡い期待で胸が高鳴る。
 恐る恐る両手を出す。おもむろにカデルが指を絡めてきた。

 椅子に座ったまま向かい合い、手のひらをぴったりと合わせて両手を握る、昼間の食堂での既視感。
――この人、手を繋ぐのが好きなのか?
 あのときと違うのは、今が夜で、風呂上がり、町から離れた小屋に二人っきりであるという事と、繋ぎ方がおかしい。指の間に指を通して手を絡め合う、いわゆる恋人繋ぎ。

「あの、」
「貝殻繋ぎはより密着するから、流しやすいんだ」
「ソウナンデスネ」
 わかってはいた。ドキドキしているのは愛久だけだと暗に告げられたみたいで、スンと遠い目になった。
 純粋に魔法を使えるようにしてやろうというもの以外に、カデルには他意はない。
 そうだとしても、美人に手を握って貰うのは慣れなくて、そわそわしてしまうのは仕方ない。居心地が悪く、座り直した。

「アイク、僕の目を見て」
「は、い……」
 穏やかに透き通った深緑の瞳に見つめれ、目が離せない。
 見つめ合い、告白される寸前みたいな状態だけれど。

 魔法のこと以外の、カデルに他意はない。

 友達でも手を繋ぐのが当たり前の、男同士でも手を繋ぐのが当たり前な距離感が近い国民性の人だと思うことにした。
 窓の外で風が吹いてさざ波を立てる梢に耳を傾け、そっちに集中させて無心になる。

 くっついた手のひらがぼんやり温かい。体温ではない何かだ。手のひらを通じて、流れ込んでくる。染み込んでくる、といった方が正しいのかもしれない。皮膚から中へ、本来通るはずのないところをを無理矢理抉じ開けられ無遠慮に侵入してくる。初めての感覚に総毛立つ。

 堪らず、声を上げた。
「あ、なんか……これ……」

「僕の身体を通した魔力を、アイクの中に流し込んでいる。魔法を使うには、漂う魔力を感じられるようになることが魔法の第一歩。自然に魔力を感知できる者もあれば、こうして人に魔力を流して貰って、魔力というものを意識できるようになる者も居る。全体として、そうして魔力を流しても魔力がわからない者の方が多い。これは、生まれ持った素質だからどうにもならない。けど、ものは試しだよ」

「うぁ……」
 湯が直接皮膚の下に流し込まれているみたいで、全身の毛穴が開いて汗が滲み出る。絶対に触れられない身体の中を、両手を突っ込まれ神経を直接撫でられているみたいだ。傍若無人に侵略してくるのは、目の前にいるカデルの気配だった。痛みはないが、プライバシーな部分を侵され、ゾワゾワ、モゾモゾする。
 少しずつ流れてきたものが、次第に多くなってくる。

「これ……やだ……」
「アイクならできる。僕を受け入れて」
「もう、無理……」
「大丈夫、大丈夫だから。全部飲み込んで」
「やぁ……」

 台詞が怪しい。
 けれど、考える余裕はない。

 手を放したいのに、何かの力で手のひらがぴったりと吸い付いて離れない。全身に力が入らなくて、頭まで麻痺してくる。
 流し込まれるそれを受け入れてしまったら、カデルの魔力に全て支配されてしまいそうだった。自分が自分では無くる感覚がして恐ろしい。
 強い光に似た魔力が熱となって、身体の中心にある一番柔らかい部分から焼かれる。血が沸騰するようだ。

「もっと強くしてみよう」
「熱い、やだ、死ぬ」
『死にはしないよ」
『やめて、カデル、やめ……」
 真っ赤に染まった顔から汗の滴が流れ落ち、涙目で訴えても、一向に収まらない。
 収まらないどころか、嫌だ嫌だと首をふる愛久の訴えを無視し、本当に流し込まれる魔力が強くなった。

「やだぁ……! 熱い、無理……!!」
「もう少し我慢して。頑張って」
 魔力の奔流に自我が押し流されて飲み込まれる。真夏の日差しのような凶暴な光が、血も、肺も、心臓も、細胞も、神経も、全身を余すところなく焼いた。脳までも例外なく焼き尽くし、視界がまっ白になって、愛久は意識を手放した。
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