ちっこい悪役令息はピンク髪主人公に狙われてます

椎葉たき

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ファンクラブのみなさんだった

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 小説の中のシリル――悪役令息なんだけどさ。悪役令息といったら、主人公を目の敵にして悪さするじゃない? 小説の中のシリルがどんな悪いことをしたかというと……してない。ほんと、何もしていない。
 メルビンとルーファスがばったり出会い、いい感じなところたまたま現れる……それだけ。ルーファスは責任感が強く真面目だから、婚約者のシリルが姿を現すと無視せず挨拶に向かうんだ。
 たまたま、偶然……なんだけど。
 小説には書かれていなかった真実は、サンドラ嬢がルーファスとメルビンの関係を怪しんで、二人が一緒居るところへ「婚約者がいる身でありながら不貞を働くなんて。王家に傷が付きますわ。シリル様、行ってやってくださいまし!」とけしかけていた。僕は押しに負け仕方なく、ルーファスのところへ行った。引っ込み思案で自分から話しかけられなくて、オロオロしながら立ち尽くしていたらルーファスがシリルを見つけて挨拶をしに来てくれたんだ。

 サンドラ嬢はルーファスに片思いしていて。でもルーファスには婚約者が居るからと諦めていた。諦めた恋なのに、その相手が婚約者以外の誰かと不貞を働くのが許せなかったんだろう。
 シリルはルーファスに対して、僕なんかと婚約させられて可哀想、としか思っていなかった。自分で自分が大嫌いだったから。
 前世の僕、三十歳で死んだ僕も大人しくて引っ込み思案で、シリルに似ていたからシリルになったのかもしれない。

「そろそろ帰ろうか」
 カフェテラスの席から立ち上がり、三人で寮へ帰る。男子寮の門の前に、緑の髪の綺麗な少女――サンドラ嬢が居た。キラキラ美女はただでさえ目立つのに、男子寮の前に居るから男子たちの注目の的になってる。もしかして、ルーファスを待っているのかな。
「サンドラさ……」
「シリル様! やっと来た!」
「えっ」
 待っていたのはルーファスではなく、僕でした。
「二人を止めてくださいまし!」
「二人? もしかして、メルビンとルーファス?」
「他に誰が居るというのですか」
 早く、早く、と腕を引っ張られ、わけも分からず連れて行かれたのは剣術の練習場だった。
 稽古用の木剣で激しく打ち合っている二人が居た。

「えっ? 稽古? 試合?」
「決闘ですわ」
「決闘!?」
 びっくりして仰け反った。
 なんでそうなった。
 このところ、約束があるからと優先してルーファスのところへ行き、二人きりで仲良くしてると思っていたのに、何故。
「ルーファス様が学園卒業後は辺境へ行くと宣言なさって、「ならその覚悟を見せてください」とメルビン様が言い、実力と覚悟を見る為に決闘することに」
「最近、ルーファスと約束があるとメルビンが言ってたのは」
「二人で剣術を競っていたのですわ」
 シッポリ仲良く、なんてものじゃなかった。僕が腐男子脳の持ち主なばかりに。
 でも、ルーファスは卒業後に辺境へ行くって、そこまで覚悟していたのか。そんなにメルビンが好きなんだ……そう思ったらツキンと胸が痛んだ。

 真剣に打ち合う二人の露出している腕に、出来たばかりの真っ赤な打ち身が痛々しい。ちょっとやり過ぎでは。
 一年歳下でも体格のいいルーファスとメルビンは互角。ルーファスが体重を乗せて斬り込み、メルビンが剣で受ける。と、木剣が耐えきれず、へし折れた。ひぇ……。
「俺の勝ちだ」
「剣が折れただけです」
「武器を折られたお前の負けだろう」
「くっ……」
「お前がどう思おうと、約束通り俺は卒業後辺境へ行く。お前の元でこの力を使い、国を守る。王宮に仕える魔法騎士になるよりも、お前のところへ行った方が俺の力は役に立つ」
 夢を変えちゃう程、メルビンの側に居たいんだ……。聞いていた僕は、その強い想いにショックを受けた。

 行ってしまうルーファスをサンドラ嬢が追いかけて行く。
「シリル?」
 立ち尽くす僕に気づいたメルビンが名前を呼んだ。
「め、メルビン、腕大丈夫?」
 真っ赤になって腫れていた。そのうち黒くなる内出血だ。
「これくらい、いつものことなので。それより、かっこ悪いところを見せてしまって……。シリルが見ているとわかってたら、絶対勝てたのに」
「ごめんね、声掛けた方がよかった? あんまり二人が真剣だったから、邪魔したら悪いなって」
「気遣ってくれてありがとうございます。次は負けませんので、応援してくださいね?」
「うん。でも、あんまり無理してほしくないかも」
 フワッとメルビンが笑う。その優しい笑顔がルーファスのものになると思うと、直視できなかった。

 その一戦から、ルーファスは卒業後は辺境へ行くと堂々と周りに言い始めた。王宮の両陛下の耳に入るところとなり、暫く騒がしかったけどルーファスは考えを曲げなかった。
 来年、十六歳を迎えて成人するというのにルーファスへの婚約の打診はパタリと無くなった。現、辺境伯閣下の夫人とその子供が魔物に殺されたのは有名な話。ルーファスがどんなに魅力的でも尻込みしてしまうのだ。
 僕のお友達のゲイリーくん、レイモンくんの方が先に婚約者が決まった。レイモンくんの婚約者は、なんと、王宮魔法士の娘さん。王宮魔法士団に入団したての頃、お菓子をくれた、あの、整えた無精髭のおじさんの子だった。世間って狭い。

 サンドラ嬢は、風の噂によると婚約の打診を全て蹴っているらしい。ルーファスしか見ていない、と有名になってる。
 そのルーファスは、辺境に行くとまで宣言しているんだけど……大丈夫なんだろうか。

 不安から逃れる為か、魔法の授業には集中力を発揮した。
 瘴気を浄化する、光の浄化魔法の授業だ。王都に居ると、魔物とも瘴気とも無縁。でも、いつどこで瘴気が湧いて魔物が襲ってくるとも限らない。前世でいう、避難訓練みたいなもの。
 王都じゃ実感薄くて避難訓練程度の意識だけど、辺境じゃ日常的に使っているんだって。魔物の素材や魔法石なんか、魔物から採る。瘴気まみれなのを浄化してやっと使い物になるんだ。浄化しないと、生き物には毒なんだよ。そんな魔物の肉を辺境では当たり前に食料にしている。最初に食べようとした人、勇者。
 久しぶりの新しい魔法に楽しくなってしまい、僕は光の浄化魔法も完璧に覚えた。

「夏休み、私の実家に来ませんか。辺境伯の城へ招待したいです。今年は、魔物の大量発生も無い年なので、比較的安全です。ルーファスも実際に見てみたいとついてくるんですが……」
 お昼を一緒に食べているとき、メルビンに誘われた。

 僕が子供の頃と比べて、辺境が随分近くなった。馬車で行くと道の関係で迂回しなければならない場所もあり、相変わらず二十日以上掛かるけど、馬に掛ける強化魔法、ひいては魔法道具の発達のおかげで騎馬は早い。馬車だと通れない細い道も、騎馬なら行ける。騎馬で、片道大体六日ほどなので、夏休み中に行って帰って来れる。王宮魔法騎士団のみんな、頑張った。
「そうだね……実家の予定もあるし、考えておく」
 つい、気のない返事をしてしまう。
 本当は、興味あるし誘われて凄く嬉しい。けど、ルーファスと一緒と聞き、胸がざわついて意地悪をしてしまった。そんな自分に自己嫌悪。

 授業が終わり。放課後、廊下でルーファスにばったり会った。
「メルビンに誘われただろう」
「うん。一応、両親の許可をとってからしにようと思って。ルーファスは行くんだよね?」
「ああ。辺境をこの目で見てから、ちゃんと決断したい」
「そっか」
 ふと、遠巻きにソコソコしている集団が目に入った。またか、と思いつつジッと見る。目が合うと、小さく悲鳴を上げて廊下の向こうに隠れた。
「ルーファスも、僕とあまり居ない方がいいんじゃない」
「何を言い出すんだ。兄弟だし、今さらだろう」
「そうだけど。僕、みんなに嫌われているみたいだし」
「は?」
 ルーファスが振り返る。隠れたはずの集団が、廊下の向こうから顔を覗かせ、見つかったとばかりに引っ込んだ。
「ほらね。僕の魔力が怖いんだよ」
「……お前、本気で言っているのか」
「だって、そうでしょう」
「あれは、シリル後援会の会員だ」
「はぁっ!?」
 後援会――ここではファンクラブみたいなものを指すこともあるから、政治的なものじゃなくて多分そっちの意味だろう。
「僕、可愛いから?」
「自己肯定感が高いのか低いのかわからないな。……まぁ、そんなところだ。お前は確かに魔力が高くて恐れられているが、ちんちくりんな目立つ見た目に加えて、誰もが知る活躍っぷりだろ」
「ちんち……好きでちっちゃい訳じゃないですー。でも、活躍なんて……」
「馬鹿なのか」
「ほぁっ!?」
「食料保存問題に、寝具に移動に輸送、更には結界魔法――国防に貢献したんだ、お前ほどの活躍を見せつけられたら、憧れこそすれ、嫉妬心わかない」
 怖がられていたと思ったのに、ファンクラブの方々? 悲鳴を上げて隠れたのは、推しに認知されたくないタイプのファンのみなさんだった……?
 もっと早く知りたかったよ。ずっと嫌われていると思ってて悲しんじゃったじゃん。
「そのせいで、お前の周りに居る俺たちがどれほど苦労してると思っている。特に、お前の友達二人だ、余計な連中がお前につかないよう、追い払っていんるだぞ。アイツらには感謝しろよ」
「あ、はい。その節はご迷惑をお掛けしまして……大変有り難く、お気遣い感謝致します」
 平穩な学生生活を送れているのは、ルーファスやゲイリーくん、レイモンくんのおかげだ。後でカフェのケーキセットを奢ろう。

「あと、シリル。夏休みに入ったら王宮から呼ばれると思う」
 と言ったルーファスの予言通り、僕は王宮に呼ばれた。学園も長期休みに入ったし、辺境と辺境にある王宮魔法士団支部の視察に行って欲しいとのこと。メルビンの誘いを断る理由が無くなってしまった。初めから断る理由なんて無いけど。
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