最強の奴隷

よっちゃん

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矛盾する心

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次の日ー。

陛下が目を覚ますと、隣に寄り添い一睡もせずに回復魔法をかけていた彼女の姿があった。

「おはよう。」

彼女はうつ伏せ状態のまま、同体位で一晩中寝ていた陛下の背中を優しい眼差しで見つめる。

彼女の強力な魔法により、陛下の背中の傷はほぼ治っていた。

「お前、寝ないでずっと治療していてくれたのか?」

陛下は彼女がいる方向に側臥位の体勢になり、彼女の眠たそうな顔を見つめる。

「えぇ。」

「…すまないな。」

「それより、″お前”じゃなくて、昨日の夜にあなたが私につけてくれた名前があるでしょう?」

「ん…。お前でいいだろ。」

「あなたが付けた名前だから、あなたが呼ばないと誰も呼んでくれないわ。」

彼女は不敵みな笑顔を浮かべながら、陛下に笑いかける。

「…フンッ。いつか呼んでやるよ。」

陛下は恥ずかしがって、彼女から視線を逸らす。

「フフッ。ありがとう。でも、私がいつまでもあなたの傍にいるとは限らないわよ。」

「……は?どういう意味だ?」

陛下は眉間に皺を寄せて、不機嫌そうな顔を見せる。

「あなたは昨日、このウィリアム国の奴隷の死刑制度を廃止した。私が奴隷を辞めても、制度上は死刑にはならないでしょ?」

「なっ!………。死刑制度は廃止にするとは言ったが、奴隷を解除した者には過酷な働き口を用意するつもりだ。」

陛下は、先のことについて考え込みながら、言葉を発する。

「そう。楽しそうね。」

「お前。俺と一緒に居れることを何とも思わないのか?」

2人の間に数秒沈黙が生まれる。

彼女は、質問の答えを考える。

「お前以外のこの国の大勢の奴隷たちは、俺の奴隷になることを夢見て、厳格な審査を通過してこの皇室に来てんだぞ?」

「ふーん。そうなの。」

「俺の奴隷になっても、契約は1年。契約が切れたら再度国を挙げて、奴隷の試験を行う。お前が次年度の奴隷審査に再度エントリーしても、俺は審査に関与していないし、受からないかもしれないぞ?」

陛下は脅し文句を付けながら、ムッとした表情を見せる。

「そう。でも私はそんな審査をされたことはないし、あなたに勝負で勝ったんだから、この部屋は永久に使用する権利があるんじゃないの?」

「思い上がるな。お前は奴隷としてここにいる。だから、お前が勝手に付け加えてきたその条件も、奴隷の期間である1年に決まっているだろ。」

陛下は心と言葉が矛盾していて、彼女に側にいて欲しいという気持ちとは裏腹に、冷たい言葉を彼女に放つ。

彼女もまた、強情な性格のため、陛下の言葉にそっぽを向く。

「そう。なら安心して。奴隷期間が終了したら、この皇室から出て行くし、再度奴隷のエントリーなんてしないから。」

「………ッ。」

陛下は、言葉を返そうとして止める。
宮殿内では、陛下の言葉に刃向かうものはいなく、陛下の思いのままに人を操れてきた。

しかし、彼女は力も意思も強い。
陛下は、言葉では言い包めきれないことを感じ取る。

「まぁ、奴隷を辞めたら、せいぜい俺がこれから決める過酷な職に就けばいい。きっと後悔して考えも変わるだろ。」

「さぁ。それはどうかしら。私の家には、誰もたどり着くことができないし、他の人の奴隷になるという選択もあるわよ。」

「…ッ!なら勝手にしろよ!!」

陛下は怒り口調で、言葉を投げる。
そして、身体を起こして、彼女の座っていない側からベッドを降りて、魔法を使い、ボロボロの軍服から国王陛下の衣装に一瞬ですり替わる。

陛下の着る服の後ろには、国王の象徴であるマントが権力者の位の威厳を放っていた。

そこに、皇室の扉がトントンと音を立てる。


「陛下!お入りしてもよろしいでしょうか?」

使用人が、皇室前の扉の向こう側から声をかける。

「あぁ。」

陛下は不機嫌そうに言葉を返す。

「失礼します。」

使用人はおそるおそる皇室の中へと入る。

「昨晩、同盟国の兵士たちを無事送り届けまして、各同盟国の国王の方々から感謝の言葉が届いております。つきましては、明日(みょうにち)の夕方頃に、こちらのウィリアム国内の宮殿において、感謝祭を開催させていただきたいとのことでして。いかがいたしましょうか?」

「あぁ。勝手にやらせればいいだろ。」

「かっ、かしこまりました!それでは、明日の開催に向けて各同盟国の国王や上級兵士の方々をお招きする会場設定などの準備を致します。こちらからの催し物などは、どうなさいましょうか?」

「あぁ?こっちが催す必要があるか?」

「ごっ、、ごもっともでございます。申し訳ございません。」

陛下は、ふと何かを思い付いたかのように、口をつぐむ。

「いや。やはり催し物を出すことにしよう。俺の奴隷10人に催し物をさせる。そう伝達せよ。」

「奴隷、、でございますか…?奴隷を感謝祭に参加させるのですか?」

「そうだ。」

「かっ、かしこまりました。直ぐに、その様に手配致します。」

「まぁ、1人はここにいるから、伝えなくてもいいが。」


「……。」

使用人には気まずそうに口をつぐんだまま、深々とお辞儀をして皇室を後にする。

陛下も、彼女に視線を少し送り、皇室を後にして書斎へと向かっていった。


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